眠らない棺
サラッとお読みください
※胸糞注意です!!
ニクイ、シニタイ、イタイ、コロシテヤル、クルシイ、カエシテ
「私がその痛みを引き受けるから……皆んな、もう眠っていいよ」
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いつも通りの日常だった。お母さんに叩き起こされ、ダイニングでコーヒーを飲みながら新聞を読むお父さんに挨拶をした瞬間、家族全員が知らない神殿の様な場所にいた。お父さんは驚いた顔をしていたが、落ち着いている。お母さんは目を白黒させながら周りを見渡している。
私も何が起こったのか分からず、周りを囲むローブを着た人や剣を腰に携えた男の人達を目で捉えた。剣、この人達は私達に危害を加えるかも知れないと思った瞬間、私の内側から燃える様な熱が溢れ出し、私の体の中に住む黒いモノが目を覚ます感覚がした。
「落ち着け、エリン!!この人達は俺達に危害を加えたりしない!!」
「あ"あぁあああああ!!!!」
お父さんが何を叫んでるが聞こえない。ただ、私はお母さんとお父さんを守らなきゃという感情が爆発し、私の口から黒い液体がビチャビチャと溢れ出す。黒い液体は一目で異形の存在だと分かるほど忌々しい姿をしていた。
『マタ、ウバウノカ?ワタシノイトシゴヲ……コロスノカ?ナンドモナンドモナンドモ……』
言葉だけど言葉じゃ無い、頭に直接響く恐ろしい声。周りの騎士達も剣すら抜けず、立っているのがやっとだと分かるほどの威圧感。
そんな中、威厳のある王様らしき人が膝をつき祈るように黒いモノに話しかけた。
「畏れ多くも私達の先祖は大罪を犯し続けました。500年……私達は貴方様が去って、精霊様達は眠りにつき、静寂な夜が訪れずに死にゆく世界を500年間懺悔し必死で生き抜いてきました」
『ダカラユルセト?……ユルサヌ。イトシゴタチノ オモイヲワカラヌモノドモメ』
ああ、やっと全部私の中から出て行った。喉がイガイガして気持ち悪い。なんか私が黒いモノを吐いてる間に世紀末な展開なんだけど。
簡単に言うと黒いモノが大事にした人間を次々と殺していったのかな?んで、私がそのイトシゴ?なのかな。私の中に眠る形で最初から居たしね。ごめんね黒いモノ、ちょい気持ち悪いわ。出て来るのがゲロって……もうちょっと私が女の子ってのを忘れないでほしい。
「あー……ちょと待ってよ、私死にたく無いから滅ぼすのは無しの方向でお願い。てか、家に帰りたい」
「エリン!!あんた体は大丈夫!?どこか痛い所はない!?吐き気は!?」
お母さんがいち早く私の元に来て体の心配をする。お母さんだって訳がわからないはずなのに、黒い液体を吐いた娘を心配してくれるのは嬉しい。顔は似てないが、お母さん譲りの黒い髪と瞳は自慢だ。あれ、話逸れてない?
「お母さん大丈夫だよ。てか、此処って昔お父さんが言ってた物語の世界?そうすると、此処がお父さんの故郷かあ。ただの御伽噺と思ってた」
『イトシゴ、コノセカイガホロブマデ、アチラノセカイニハモドレナイ……イマスグニモホロボソウ』
「エリン!!闇の精霊様を鎮めてくれ!!」
お父さんが焦った様に叫ぶ。そんなに焦らなくても、この黒いモノは私の気持ちを第一に優先してくれるのが本能で分かる。
「この世界が滅んだら君はどうなるの?」
『……ワタシモユルヤカニ、シヲ、ムカエル」
「んじゃ滅ぼすのは駄目。17年間ずっと私の中にいたんだから、愛着あるしね」
うーーんと目を瞑り、腕を組み考える。その間も必死に縋る様な多くの視線が突き刺さる。だけど簡単に許したら黒いモノも、死んでいった愛し子達も報われない……代償が必要か。
「ねえ、黒いの。私が今までの愛し子達の思いを引き受けるから、ちょっとだけ許してあげない?」
『ダメダ!!ソレヲシテシマエバ、イトシゴハ、クルッテシマウ!!』
「大丈夫、大丈夫。元から頭狂ってるし」
「駄目よ、エリン!!ちょっと、貴方!!父親なんだから止めなさいよ!!大事な私達の子なのよ!!」
「……すまない。エリンは大事だ……だが、この世界を見捨てる事も出来ない……」
「……王様らしき人、約束して。私が全部受け止めるから、お父さんやお母さんには絶対に私利私欲で手を出さないで。あと、私は思うがまま生きるから口出しは無しね」
「約束しよう……!!」
『イトシゴ……ワカッタ……ソノカワリ、イトシゴニハスベテノ、セイレイノカゴヲ』
「よく分かんないけど、ありがとう!!」
黒いモノは、また私の中へと入って来ると視界が暗転した。
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私は暗い牢にいつの間にか手に枷をつけられて蹲っている。お腹がすいた、喉が渇いた、殴られ蹴られた所が痛い……すぐ後ろに迫る死が怖い。
兵士達に引きずられ街の中心地へと、街の住人達から魔女と叫ばれながら石や動物の死骸を投げられる。
私が何をした?何故私を隠し育ててくれた母や父が死ななければいけなかった?
ワタシノセイ?
私は兵士達に木に鎖で繋がれて動けない。その間もずっと物を投げつけられ、私の顔はもう原型を留めていない。そして兵士達がくべられた木に火を放つ。
「熱い!!痛い!!ゲホッ!!助けて!!助けて!!私は何もしてない!!ごほっ……お父さんも!!お母さんも何もしてない……なのに!!」
「生きてるだけでお前は罪なんだよ!!」
多くの民集達の中でもこの言葉が頭に響く。薄れ行く意識の中私の最後の言葉は……
「……この世界に永遠の呪いを」
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「辞めて!!殺すのは私だけにして!!お願いします!!産まれてきた子には罪はないの!!お願いします!!」
必死に私は床に頭を擦り付け、産まれたばかりの愛しい人との子供の命を助けてくれと縋りつく。その目の前には、私を愛してくれた夫の死顔がある。涙が止まらない。ささやかな幸せさえ許されないのか。憎くて、苦しくて、私のせいで愛する夫が死んでしまった。
やめて、これ以上私の大事な者を奪わないで。
「何故、俺達がお前の言葉に耳を傾け無ければいけない。呪われた人間の血など一滴も残してはならないとの陛下の命令だ」
そう言った男は私達の宝の首跳ねた。愛する夫の死顔の前に、コロコロと愛する赤子の顔が転がって男達は私の絶望した顔を見てゲラゲラと笑う。
「なあ、どうせ殺すんなら、遊び尽くしてボロボロにしてやろうぜ」
「呪われた女だぞ、趣味悪いなお前」
「お前だって乗り気じゃねえか」
男達は奇声をあげ暴れる私の手を縛り、夫と赤ちゃんの死体の横で犯されながら首を絞められ死んでいった。
(この世界に終わらない呪いを……)
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「愛し子様!!愛し子様!!」
「返せ!!返せ!!私の愛する人達を、全て返せ!!殺してやる!!『私達』の呪いは終わりはしない!!」
「愛し子様!!……エリン様!!貴女はエリン様です!!」
「……エリン?ああ、そうか……私はエリン。……危ない、危ない。私の頭は元からおかしいけど、ちょっと辛いなあ」
私は只今、死んでいった愛し子達の擬似体験中だ。泣いて暴れて怨念の言葉を吐く私に、私はベッドに繋いでくれと頼み、舌を噛まない様に偶に猿轡を付けてもらったりしてるんだった。
あまりに酷い時は、お母さんやお父さん、あと白髪で凄く綺麗な顔をした、だけど無表情な騎士みたいな人が私を抑え込み、正気を失う前に私を呼び起こす。何故かお母さんとお父さんと、麗しの騎士さん以外には私を呼び覚ませない。何故騎士さんもかって?私がイケメン好きだからだと思ってる。黒く染まる心が麗しの騎士さんの顔を見ていると、凪ぐのだ。
そして、無表情な顔が必死な顔に歪むのがとてつもない快感なのだ。アクアブルーの瞳に映る私は穴という穴から液体を流して嗤っている。
「……何故、ご自分だけで背負われたのですか?」
「ん?何となく私じゃないといけない気がするから」
きっと私が最初から狂って産まれたのは、これに耐えられるからだと思っている。普通の人だったらきっと自分を亡くし、世界の死を選ぶ。
麗しの騎士さんは甲斐甲斐しく水を飲ませてくれたり、鎖で繋がれている手に、暴れて傷ついた手首に治癒魔法をかけていく。
「ほうほう、何度見ても魔法って凄いし綺麗だね」
「これくらいしかお助け出来く……不甲斐なく思います……」
「ねえ、麗しの騎士さん。全部受け止める事が出来たら、貴方の名前教えてね。あとは……デートして」
「名前ならいくらでも 「駄目!!楽しみが減っちゃう!!」 ……楽しみ?」
「そう、楽しみなの。どんな絶望でも、麗しの騎士さんの名前を聞くのが光なの。『楽しんでやる苦労は、苦痛を癒すものだ。』って言葉があるんだから」
「エリン様はこれを楽しんでるのですか……?」
「最初に言ったでしょ?私は最初から狂ってるって」
私は嗤いながら両手を罪人かのよう麗しの騎士さんの顔に近づけ、両頬をゆっくりと輪郭をなぞる。コテンッと首を傾けて楽しげに言葉を放つ。
「さあ?私に枷を嵌めて?」
お読みくださりありがとうございます!!