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杏と桜桃と狼  作者: 狼霙
おうちでお茶を
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2-4 年下は可愛いと決まっている-2

連投失礼します。



「…まぁ、あいつは戻ってきたらシメるからいいとして。」



 扉が閉まった時にスッ…と細められた紅に、心の中でそっと手を合わせていたシルヴィアの方へ視線が動いた。



「ニコルだけじゃない。俺やジョーでも教えられるし、何ならステフでもいいぞ。」


「アンヌと呼んでと言ってるでしょ。素直に『俺に頼れ』って言えないわけ。」


「あぁ、悪い。ジョンの方がよかったか?俺もお前も犬らしくて結構だな。」


「相変わらず3音までしか覚えられないのね。表に出なさい、駄犬。躾直してやるわよ。」


「おっと、『お外ではきちんとしなさい』だろ?躾が必要なのはお前の方じゃないか?」


「心象的によ。今ここでボッコボコにしてやるから歯をくいしばりなさい。」


「うん、ふたりともやめてね。みんな仕事してるからね。ここ重要書類いっぱいあるからね。」



 ジョアンヌとダグラスの煽り合いから始まり、物理に移行する前にステファンかクライヴあたりが強制終了させるまでがお約束である。

配属初日から今日まで、1日1回は絶対に見ている気がする。


なお、クライヴの場合はたまに更に煽って限界ギリギリでステファンが止めに入るというフェイクを仕掛けてくるのでタチが悪い。



 実際誰ひとり本気ではないのだが、ニコラス曰く、「前に悪ノリして放置したら、本人たちが無傷で周りが荒れ地になったのでそれ以降やっていないらしい」とのこと。

かなり前にやったそうで、ニコラスも実物は見ていないと言っていた。


 自重を促す目的でそのときの光景を描き残したのが執務室に飾ってある絵だという噂がまことしやかにささやかれているそうで、あの神話対戦のような図が事実だとは到底信じられないし信じたくないのだが、この世の終わりのような荒廃した大地に佇む金髪と銀髪の人物のモチーフについて一体どう解釈すればいい。



「シルヴィー、戻っておいで。アンヌもダグも心配してるから。」



 気づいたらステファンが目の前で左右に手を揺らしていた。



「あっ、ごめんなさい。少し考え事を。」


「いいんだよ。

また随分遠くまで行ってたみたいだけど…まぁこれでアンヌとダグが反省してくれればいいか。」


「ごめんなさい、シルヴィー。貴女の前で駄犬の躾なんて刺激が強かったわね。

次は反論の余地なくぶん殴るから許してね。」


「ごめんな。今度は一撃で黙らせるから。」


「君たち反省してないね。」



ステファンが呆れた顔をしたところで、乾いた音がする。



「はいはい、その辺にして。ふたりはお散歩に連れて行ってあげてください、ステフ。」



両手を打ち鳴らしたのは一区切りついたらしいクライヴだ。



「その…犬ネタは大前提なんですか?」


「アンヌを含めて飼い犬呼ばわりして無事で居られる人間は少ないですが、ダグはギリOKです。」


「それは君が無事で居られる数少ない人間っていう自慢かい?

それにギリどころじゃなくてガバガバだね。」



 クライヴはにっこり笑顔が標準で、それに加えて喜怒哀楽を表現する。

ジョアンヌもそのタイプで、ステファンは目のハイライト調節が上手い。

ニコラスはふり幅が大きく多様な笑顔を使いこなし、ダグラスは大体歯を見せて笑う。



「お外の人間が言えばただじゃ済まさねぇけどな?」



 不敵に笑っている目が物騒なので、ここでのやりとりが概ね予定調和なのがわかる。

互いに心から信頼しているから許しているのであって、侮辱されたら容赦はしないのだ。


なんとなくだが、

その時はダグラス以外の全員も手を貸して、後に草一本生えないような制裁を加えそうな気がする。笑顔で。



 そういうシルヴィアは今のところ「少し困り顔」が標準だ。まだノリを掴み切れていない感はある。



「つまり、シルヴィーから犬扱いされても満更ではないということです。」


「おい、お前。言い方。」


「シルヴィーは犬は嫌いかしら?」



ジョアンヌの問いかけに目を瞬かせる。

無意識にダグラスの方を見ると案の定目が合った彼は、そのままこてん、と首を傾げた。

その仕草、すごく犬っぽいけどいいのか。ネタなのか。


少し考えてから、シルヴィアは口を開く。



「猫も好きなんですけど、犬は犬で可愛いんですよね。

昔はちょっと怖かったんですけど、大型犬が走ってるところとか、格好いいし可愛いし…

……結構、というか、かなり好きです。」



シルヴィアの好みはどちらかというと中~大型犬だ。野生種に近いのもいい。


慈愛の眼差しで家族に寄り添う包容力豊かな家犬も大好きだが、番犬から始まり猟犬、牧羊犬を見るとやたらと胸がときめいてしまう。凛々しい顔で役を務める時の格好よさと、褒められた時の可愛さのギャップで謎の母性本能が刺激されるのだ。



「じゃあ丁度よかったですね。貴女もお散歩について行ってください。」


「え」


「ステフではリードをぶっちぎられるのがオチですから。

いくらつなぎっぱなしのご褒美とはいえ、王子を置き去りにするのは問題がありますからね。外聞的に。」



いや、見られてなかったらいいんかい。


思わず内心で突っ込んでしまったが、第二王子の執務室はそういう場所である。



「また王宮内のどこかを整地し直されても困りますし。

まぁ、そうなった場合はステフだけ連れて帰っていらっしゃい。」


「クライ、君ね。実質1対3で犬扱いしてるだろ。

アイデンティティが崩壊するからよしてくれ。」


「おや?その発言の方がステファン王子のアイデンティティ崩壊では?」


「ごもっともだし、君たちのその、

誰であろうと襟首掴んで引きずっていく姿勢は気に入っているけどね。

たまに、もう少し公権力を殺いでおくべきなんじゃないかと心配になるよ。」



はいはい、と言って4人まとめて追い払うように手を振るクライヴは確かに一番権力を持たせると怖い人間な気がする。




敬語キャラに俗語を使わせるのが、身も蓋もない感じがして好きなタイプの人間です。

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