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杏と桜桃と狼  作者: 狼霙
可愛くない女
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1-4 鉄鋼と硝子細工-1

閲覧いただきありがとうございます。

連投諸々失礼します。

ちょっと進んで17(18)くらい。次の次あたりで時系列が18(19)歳まで戻ります。


イメルダ・デ・ハモンドは侯爵家のご令嬢で、シルヴィアの決して多くはない友人のひとりだった。


彼女もまた、男子生徒と仲が良かったのだが、シルヴィアの場合とは大きく異なる。


 要するにイメルダは非常に美人で、恋多き女性だった。そして、どの男性とも別れるのが非常に早かった。


 緩く波打つ淡い金色の髪に深緑の瞳の、線の細い儚げな美少女だったが、14の時にハモンド侯爵家の都合で王立学園から去ってしまった。

だが学園を辞めた後でもシルヴィアとの個人的な交流はあり、年に数回は必ず顔を合わせていた。


デビュタント以降、勉強を言い訳にしてまともに出ていないシルヴィアはよく知らないが、その美貌は社交界でも有名になっているそうだ。


 そんな彼女が、なにやら深刻そうな顔で相談があると言ってきたので、過去にやらかした失敗の数々で泣き言を聞かせて迷惑をかけてきている身としては、放っておけない。



「それで…言いにくいことって、どうしたの?」


「シルヴィア…貴女だから話すのだけど……あのね……私の婚約者探し、一緒にやってくれない…?」



 ハモンド侯爵家に招かれて待つこと30分。


猫舌のシルヴィアでも紅茶を飲み終え、人払いをしているので2杯目は自分で煎れて飲んでしまった。


意を決して、といった様子で言ったイメルダは、プルプルと震えている。


 元から美少女であったイメルダだが、ここ数年では大人の色香も纏いはじめ、今はちょうど少女から大人の女性へと移り変わる最中の不安定な美しさがある。


ベースは儚げな美少女なので、不安そうにフルフルと睫を揺らす様は見ている者の庇護欲を煽る。


要するに、この顔でお願いされて断る術をシルヴィアは知らないということだ。



「私にできることなら、協力するけど…あんまり期待しないでね。」


「ううん。シルヴィアが一緒ってだけで私は心強いわ。

結婚相手を探すのって、大変だけれど…一緒にがんばりましょう。」



 彼女の言葉に、シルヴィアは曖昧に微笑む。


王立学園高等部2年生のシルヴィアは文官養成コースも大詰め、まだ先だと思っていた卒業試験兼採用試験がじわじわと存在感を増してくる一方、半年前の出来事が傷痕みたいに残っている。


痛むわけじゃないが、触るとゾワっとするのだ。



 そしてイメルダには色々と相談に乗ってもらっていたのでシルヴィアが失恋したことは彼女も知っているし、それもあって慰めようとしているのかもしれない。


初めて恋愛感情を口にしたシルヴィアに喜んでくれて、応援もしてくれた。

そのイメルダが不安がっているなら力になりたいと思うのは当然のことだ。



「形式はお茶会にしようと思うのだけど…学園も中退してしまったし、私の知人だけでは限界があって…」


「わかった、私の方でも少しあたってみるけど…逆に私は学園の知り合いばっかりだからあまり役には…」



 はっきり言って、学園で仲の良かった男子生徒に「知人のお見合いの茶会に来てくれないか」などと頼んだら思い切りバカにされる自信がある。

まぁ基本は良い人ばかりなのでひとしきり爆笑した後に了承してくれるだろうが、その前にシルヴィアを指さして大笑いするのは確定なのだ。


シルヴィアが頼み事をできる程度に仲が良く、バカにされるほどは親しくない間柄でなくてはならないため人選が難しい。



「一応…探してはみるけど…」


「ごめんなさいね…シルヴィア、もしかして、こういう話はまだ辛いかしら…?」


「大丈夫だよ、イメルダ。あんな男にわざわざ傷ついてあげるほど私は優しくないから。

はっきり言って先輩なんかどうでもいいの。」



 再び不安そうに瞳を揺らすイメルダに、シルヴィアは鼻で笑って返す。


実際この半年間、あの件で流した涙は1滴もない。

学園で出された課題が終わらなくて一睡もできなかった時は流石に涙目になったが、礼儀知らずに泣かされるなど意味がわからない。


シルヴィアの将来に一切役立たない奴よりも、シルヴィアの将来に直結する学園の成績の方が大事だ。



「ならいいのだけど…あ、そうそう。この前学園にお邪魔したときにお話した方は?どこのお家の方?」


「あぁ…彼ね…」



 シルヴィアは内心眉を寄せていた。


イメルダが言うのは、彼女が学園を出てから知り合った、シルヴィアの友人だ。


 若干の人間不信を抱えているシルヴィアであったが、適度な距離で他愛のない話ができて、ちょっとした冗談を交わせる彼との関係は気に入っていた。

勉学の道を究めたいので社交場にはあまり出ないと言って、そんなところでも気が合った。

そして、間違ってもこちらを指さして爆笑したりしない。


いや、彼らもまた良い友人なのだが。



 知的な雰囲気で、侯爵家の次男だったはずなのでイメルダの好みとも求める条件とも一致している。

彼とシルヴィアとの初対面の時に既に思っていたし、先日久方ぶりに学園に顔を出したイメルダを連れていた際に丁度会って軽く挨拶をした時の彼女の反応を見ても確信が持てていた。


にもかかわらず、渋るのには理由があった。



 第一に、シルヴィアと彼の友人としての関係が良好であること。


次が問題で、申し訳ないがイメルダはちょっと「性質(たち)が悪い」こと。


 彼女が恋多き女性で、どの男性とも別れるのが非常に早いことは言ったと思う。イメルダは熱するのが早ければ冷めるのも早いのである。


マクファーレン伯爵家の、由緒だけは正しいが貴族としては常識外れに等しい環境で育ったシルヴィアがおかしいのもわかっているが、イメルダもイメルダで、なかなかにぶっ飛んでいる部分があるのは否めない。


 イメルダの生母は彼女が幼いときに亡くなっていて、父親のハモンド侯爵は仕事が忙しい。後妻となった女性も前の夫とは死別していて、イメルダの2歳上の娘が居た。


イメルダの育ての母となった女性も姉となった娘も美人であったし、3人の仲は悪くない。

彼女の姉は美しくありながらなかなか強かな女性に育ったのに対してイメルダの方はそれなりに繊細で、彼女は見た目と同じく硝子細工のような心の持ち主である。


彼女と話をすることが多いシルヴィアは、よそ様で、しかも自分の家よりも位の高いお家に対してかなり無礼極まりない分析をしていた。



 ハモンド侯爵家を継ぐのは姉かイメルダかで散々分家が騒いでいたのだが、姉が突然結婚相手を決めてさっさと嫁いでしまったので、当時14歳だったイメルダは王立学校を辞めてお家騒動を鎮めるのに奔走せねばならなかった。

彼女が大変心を痛めることとなった出来事である。



 だが、友人をはいどうぞと即座に差し出すか否かはまた別の話だ。

本人に悪気はないし、自分自身が直接関わっているわけではないシルヴィアは不用意に口をはさむべきではないと思う。

当事者ではないので、事実を正確に認識できているかがわからないからだ。

あとは、彼女の家の方が爵位が上なので、下手なことをすれば侮辱罪やら不敬罪やらでしょっ引かれてしまう可能性もなくはない。


 今までは自分とは限りなく他人に近い相手が多かったからそれでいいが、今回はシルヴィアの知り合いだ。

紹介してから何かあるとシルヴィアの面子に関わるのだが、それをイメルダに確認しようとして何か間違えて彼女を泣かせ、誤解に継ぐ誤解が起きたりなんてしたら社会的に死ぬ。



 結局、イメルダがお家騒動に翻弄されていた期間に学園でのうのうと生活していて、碌に話も聞いてあげられなかったことを考えるとシルヴィアはイメルダの入り婿探しに協力できないとはいえなかった。



まぁ、相手はイメルダと同じ侯爵家の人間だし、最悪の場合何か起きても不利な争いにはならないだろう。


その場合シルヴィアは巻き込まれたら瞬殺だが。




これで友人をひとり失ったとしても、断らなかったシルヴィアの自業自得だ。





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