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杏と桜桃と狼  作者: 狼霙
可愛くない女
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1-2 鉄鋼の初恋-1

ちょっと過去。16~17歳です。



 ラッセル・ダドリー・ネルソンとの出会いは、シルヴィアが王立学園の中等部最終学年の16歳の時だった。



 王立学校初等部は6歳から12歳、中等部は13歳から16歳、高等部は17歳から18歳まで。

入学はいつしてもよいことになっていて、例えば15歳から中等部に通うことも可能であり、シルヴィアは13歳の時に中等部から入った。


友人と呼べる相手はそこそこできたが、基本的に派閥というものが肌に合わず、仲の良かったお嬢さんの幾人かは「ご家庭の事情」で学校を辞め、最後の2年は友人選びに失敗し。



 幸い後輩には恵まれたが、それでも中等部を卒業する頃には、平民や下級貴族の男子生徒と話すのが一番楽だとかいう境地までたどり着いてしまった。


それも彼らはシルヴィアに対して異性にするように気を遣わなくて良いから楽だ、という理由だったので少女としては色々と終わっている気がする。



 そうして培われた精神力で、進学によってただでさえ少ない知り合いが激減した上に高等部から入った知らない人間だらけの環境でも図太く生きていた。


人間関係に疲れて若干自棄になっていた部分も否めないが。




 さて、私的な人間関係が壊滅していても、基本的にシルヴィアは真面目な生徒である。

高等部への進学が決まった際、寮の監督生をやらないかと声がかかった。


 学園内では身分に関係なく平等ということに一応はなっているので、監督生は年功序列だ。

だが、女子生徒はどうしても学年が上がるにつれて人数が少なくなってしまうし、良家のご令嬢ほど行儀見習いやら花嫁修業やら結婚やらで早々にいなくなってしまう。


「ご家庭の事情」での中退は不名誉ではないので。


学園生徒会とはまた別組織だが、人手不足の関係から生徒会執行部役員が兼任している場合も少なくない。女子は特に。



 要するに今まで縁のなかった役職が、年齢だけは順調に重ねているシルヴィアの所まで降りてくるに至った。


良い機会だからと引き受けたのだが、詳細な仕事内容までは把握していなかったので一応不安はあった。



 だが、初等部から高等部までの学生を抱えている学校であるため寮は何棟かあり、各棟の監督生もひとりではない。

監督生同士助けあうのが基本で、そうしなければ幅広い年齢・階級の生徒達をまとめるなんてできやしない。


そこで特にシルヴィアを気にかけてくれたのが、男子寮の監督生の1人だったラッセルだ。




 ラッセル・ダドリー・ネルソンは、特に珍しくもない茶髪に茶目のはっきり言って地味でパッとしない男だが、騎士志望らしく、運動ができそうな身体つきはしていた。


実家はシルヴィアと同じく伯爵家の三男坊、年はひとつ上で、そもそも最初に勧誘の言葉をかけてきたのは彼だった。



人畜無害そうな優男が必死に説得してくるのに根負けして了承した部分はあったが、これも経験だと思ったのは嘘ではない。



 細々としたことは女子寮の監督生が丁寧に教えてくれたが、男女で共通の仕事については彼がついて教えてくれることが多かった。


自意識過剰かもしれないが上級生たちはシルヴィアに好意的だったし、ラッセルにも後輩としては可愛がってもらっていたほうだと思う。




 シルヴィアが高等部に入学すると同時に最終学年になったラッセルには、よく話を聞いてもらっていた。


その頃には彼のお頭が特筆して優秀とは言えぬことも察したし、実際彼に勉強を教えたことすらある。

例え女で後輩であっても素直に教えを請えるのは嫌味ではなく尊敬したし、むしろ好感すら抱いていたのは今となっては忘れたい思い出だ。


シルヴィアは決して、勉強ができないからといってバカにしたりするつもりはないし、自身の頭の出来も平凡なのでバカにする資格ははじめからない。




男兄弟しかいないラッセルは、本人の申告通りであれば恋人が居たこともないため女性の気持ちには非常に疎く、たまの休日に学園の外に一緒に出掛けたこともあったが、正直女性相手に満足してもらえるようなエスコートができていたことは一度もない。


逆に、一緒に出掛けたことのあるお嬢さんたちに「シルヴィアとの方がデートをしている感じがあった」とまで言われる身としては何とも言えない気分にはなったが、それでも彼が好きだった。


その代わり、自分はラッセルの恋人ではないから、どこを直した方がいいなんていちいち口を挟まなかったが。




 何故好きになったのか、いつから好きだったのかはシルヴィアにもわからない。


恋とは落ちるものだ、と聞いたときは「それでも自分にそんな瞬間など訪れないだろう」と高を括っていたのだが、気が付いた時にははまっていた。



落とし穴のようなものだとすると落ちた瞬間がわからないのは辻褄があわないが、沼のようなものだと思えば納得する。


 どちらにしろ落ちた自分が間抜けだったような気がするが。




 彼を好きだと自覚してからは、まぁ、らしくもなく悩んだ。


正直浮かれていたし、ともすれば些細なことで落ち込むし、高等部の文官養成コースの忙しさ、加えて監督生の仕事の大変さも相まって非常に情緒不安定だった。


 だが時間は有限で、彼と共にある未来とそうでない未来ではシルヴィアがとらねばならない行動は違うのだ。


情緒は不安定でも一応思考は働いていたので、高等部への進学と同じく現実的な条件から自分の行動を決めた。

恋慕うだけでお金はもらえないしご飯も食べられない。


こういうところが可愛くないんだろうな、なんて思いながら。



 ラッセルの卒業が近い休日。

シルヴィアは久しぶりに彼を誘って学園の外に出かけた。


どういうコースがいいか、食事はどうしよう……告白はどこで。


誘ったのは自分だし、例えどう転んだとしても「良い思い出だった」と彼も自分も笑えるようにしたかったので、予定はちゃんと考えた。



 いつもはただ首のあたりでまとめているだけの髪は、前に、彼にしては珍しく褒めてくれた髪型に結って。普段はしないものの下手じゃない自信はある化粧をし。


一応そこそこに見える努力はしたつもりだ。


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