王子様は可憐な私のキョウダイに求婚しました。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
とりあえずリハビリの短編です。
フェステル公爵家には双子のキョウダイがいる。
男女の双子である。
「アシュウー?どこぉー?」
ふわふわな銀色の髪に蜂蜜色の大きな瞳を持つ可憐な子が1人。
「僕はここにいるよ」
同じく銀色のサラサラストレートにオレンジ色の瞳を持つ子が1人。
「アシュー。私、変な人につけまわされているんだけれど」
そう言う蜂蜜色の瞳をした子の名前は
アルフィル・フェステル。
可憐な見た目をしている為男によくつけまわされている。いわゆる美少女な見た目で。
「んー。それは困ったね。僕がやっつけてくる?」
そう答えて拳を握るオレンジ色の瞳をした子の名前は
アシュエル・フェステル。
整った顔をしている為よく女に付きまとわれている。いわゆる美男子な見た目である。
「んー。それはダメ。アシュに傷がつく」
アルフィルはアシュエルの握った拳をふわりと上から触り首を左右に振った。
「…そっか。わかったよ。じゃあ抱きかかえて走るから我慢してね」
そう言うとアシュエルは素早くアルフィルの脇と膝裏に腕を差し込み横抱きにした。
「え?抱き?……何して…お姫様だっこ!?
やだ!おろしてぇ!!」
バタバタと足を振るアルフィルを物ともせずアシュエルは歩き出した。
「だぁーめ。フィルの足じゃ追いつかれちゃうでしょ?ヒールだし。じゃ、捕まってて…ね!」
「私のぷらいどはぁぁぁあー!!?」
アシュエルはアルフィルを横抱きにしたまま全力疾走した。
変な人を巻く事には成功したが、大事なアルフィルはなにかを失った気がした。
*・*
「アシュエルさまぁ」
「何かな?」
「私を婚約者にしてくださいませんかぁ?」
「んー。それは、難しいかなぁ」
「えぇ。けちぃ」
「ダメだよ?令嬢がそんな言葉遣いしたら。あとそんな簡単に婚約しましょうなんて言わないで自分を大切にして?」
「アシュエルさま!!」
アシュエルは入学してからと言うもの毎日のように着飾った令嬢に囲まれていた。
「アルフィル様。どうか私と一緒になってはくれませんか」
「無理」
「では私と!」
「それも無理」
「……そうですか……」
アルフィルもアシュエル同様囲まれていた。
顔が比較的整った子息達に。
「じぁあ。私アシューのとこ行くので失礼しますね。皆さん、今日はダンスパーティーですので、早くお相手を見つけた方がよろしいのではなくて?」
その一言でアルフィルを囲っていた子息達は相手を探しに散り散りになった。
今日は王都学園最高学年に在籍する王子様主催の卒業ダンスパーティー。
ダンスパーティーで踊る相手がいないほど惨めなものは無いとされている。
国では恋愛結婚推奨で政略結婚は禁止とされている為、このようなダンスパーティーは在校生の婚約者探しも兼ねていた。
ちなみに主催者の王子様にも婚約者はいない。
「アシュー」
アルフィルがアシュエルに抱きついた事によりアシュエルを囲っていた令嬢達も自分の相手探しに消えていった。
令嬢達は自分より綺麗な存在の隣に居たく無いのである。
「フィル?もういいの?」
アシュエルは抱きついてきたアルフィルの頭をぽんぽんしながら周りを見た。
「うん。もういい。つまらなすぎるの。
だって口を開いたら結婚してくださいなのよ。軽く寒気すら覚えるわよね。何でみんな気づかないのか不思議でならないわ」
「んー。それは…まぁ、フィルが可愛すぎるのがいけないかな」
アシュエルは苦笑しながら膨れるアルフィルを見た。
「私が可愛いのは当たり前よ。でも、だぁれも気づいてくれないから婚約者も見つけられない」
ぷくーと頬を膨らますアルフィルはとても可愛かった。
「まぁ、そうだねぇ」
「アシューはいいじゃん。既に婚約者がいるんだから。アレの何処がいいのかわからないけれど」
「えー?そうかなぁ」
「そう。あぁ。私にも幼馴染がいればなぁ」
「幼馴染だから婚約者になったわけじゃないんだけどなぁ。それに私の幼馴染って事はフィルにとっても幼馴染でしょ?」
「私が求めているのは異性の幼馴染よ。同性はお呼びでないの」
なんて会話をしている双子に近づく影が1つ。
「アルフィル・フェステル様。少しいいだろうか」
「はい?」
アシュエルに抱きついたままのアルフィルに話しかけてきたのはこの国の王子様であった。
「アルフィル様。私は貴方を好きになってしまった。どうか婚約者になってはくれないだろうか」
「え………」
王子様がアルフィルに告白した。
勿論周りは悲鳴の大合唱。
「えっと………」
アルフィルは焦った。
(無理だ。無理なのだ。
王子様に告白されても無理なのだ。
物理的に無理なのだ。)
(だって私は。)
「申し訳御座いません。殿下。
その、気持ちには答えることができません」
「なぜだ?」
「…………私が男だからです」
アルフィルがそう言うと時が止まったかのように静かになった。
「うん?」
「だから、私は男なのです。女はアシュエルの方です」
するとまた悲鳴が上がった。
アルフィル・フェステル公爵子息。
とても可憐な見た目の跡取り息子。
長い髪はウイッグ。
アシュエル・フェステル公爵令嬢。
美男子過ぎる男装令嬢。
サラサラストレートのショートカットもウイッグである。
「申し訳御座いません。殿下。我がフェステル家には変わった風習が御座いまして…。
恋愛結婚推奨の今、変な輩に捕まらないように…と、婚約者が決まるまでは性別を偽って過ごさなければならないという掟がありまして…」
アルフィルは王子様の足元をみながら話した。
「そうか。なら問題ないな。私は、君が男であると確信した上で声をかけたからな」
アルフィルは顔を上げて王子様の目をみた。
(じゃあ何故婚約を申し込んだよ。
男が好きなのか?)
「……え。すいません。私にそのような趣味はないのですが」
「ふふっ。何を言っている。私にもそのような趣味はないぞ」
アルフィルは王子様の綺麗な笑顔に一瞬ドキッとした。
「なら、どういうことでしょうか」
「まだ気付かないのか?私は女だよ」
「……はい?」
「だから、私は男でなく女だ。まぁ、そこのアシュエル殿は気づいていたがな」
ちらっと王子様に見られたアシュエルはため息を吐き、声を発した。
「僕の大事な家族に良くない視線を送ってくる男がいて、このままフィルが男と結ばれるのはまずいと思い近づいたら王子様で、しかも女でフィルの性別にも気づいていたから大丈夫かなって思って。ちなみにあの時の変な人も彼女だよ」
「言えよ。そういうことは言えよ」
アルフィルはじっとアシュエルを睨んだ。
「えー。お互いが秘密にしていることを部外者がばらしちゃダメでしょう。あと口調。戻ってるよ」
そんなアルフィルの睨みにアシュエルは動じることもなくアルフィルを叱った。
「……………そうだ……ですね」
「で、どうでしょう?私の求婚、受けてくれますか?」
男装王子様は素敵な笑顔を浮かべてアルフィルを見つめた。
「………元の姿に戻って、友達からって事で」
アルフィルはそんな王子様の目をみていられなくて視線を逸らした。
「ふふっ。ありがとうアルフィル様。アシュエル様もありがとね」
「いえ。兄が自分に気付いてくれる婚約者が欲しいって言っていたので言い方は悪いですが、丁度いいかな、と思っただけですので」
アシュエルは笑顔ひとつなく答えた。
「可愛くないなぁ」
笑いながら王子様が言う。
「今は男の格好なので可愛いは必要ないでしょう」
「ふーーん。ま、いいや。アシュレイ殿も、もう元の姿に戻すんでしょう?婚約者殿もいると聞いていますが」
「そうですね……。
僕の婚約者が許してくれれば、ですが。
婚約者と兄曰く、私の本来の姿は刺激が強過ぎるようでして。許しが出ないのですよね」
そんなに見られない顔ですかね?と頰に指先を当てて首を傾げていた。
その姿はとても絵になっており、周りで令嬢が何人か気絶した。
「え、それは凄くきになるんだが」
「別に近い将来毎日見るようになるんですよ。お姉様」
「それは本当かい?楽しみだなぁ」
「は?まだお友達ですらないんですけど」
アルフィルの言葉にアシュエルは深いため息をつき肩に手を置いて頭を左右にふった。
「…兄様?もう、兄様の婚約者探しは終わったのです。周りの方に女装だとバレてしまったので。これは兄様自らの失態ですね」
アシュエルの言葉にアルフィルは目を見開き
「……なん…だと」
絶望感を載せた声色で呟いた。
「どんまい と言うやつですね。兄様」
アシュエルはいい笑顔をアルフィルに向けた。
「心配しなくても私はもう王女に戻るぞ?兄上の病状も良くなったからな」
そう笑う男装王子様を見たアルフィルは逃げられない事を悟った。
*・*
「アルー?ねぇなんで逃げるの?ねぇなんでー??」
「お前がグイグイくるからだろーが!!婚姻前だろーが!!節度を持てよ!!!」
「私はアルに手を出されたいんですぅー!!」
「もうこの王女やだぁぁぁぁあ!!」
「そんな王女が好きなのがアルでしょぉ!?」
私は今日も家の庭で叫びながら追いかけっこをしている兄と王子様基王女様を見ていた。
「今日も平和だねぇ。兄様も早く手ぇ出せばいいのに」
「…………」
「……ねぇ。いつになったら私は男装を辞められるのかな」
私は後ろから私を抱きしめる彼を見上げて見つめた。
「俺と結婚するまで」
すると彼は整っている顔にむすっとした目で見つめ返してきた。
「じゃあ早く結婚しようよ」
「駄目。俺じゃあまだエルを守れるほど強くない」
「えー?私は早く貴方の物になりたいのに」
グッと後ろの彼に体重をかけて寄り掛かった。
「っつ?!お前、それ意味わかってんの?」
「ぅん?わかってないと言えないでしょう?
………まぁ、今の私達がイチャイチャしても周りから見たら顔がいい男同士がイチャイチャしてる様にしか見えないんだけどね。私はね、心配なんだよ?貴方もカッコいいから、ほかの女に取られるんじゃないかって。ね?だから、早く……」
「はぁ………。わかった。もういい。このままエルの父さんのとこ行くぞ」
「え、いいの?」
「はぁ……。お前には敵わない。
アシュエル。俺と一緒になってくれるか?ずっと好きだった。これからもずっと愛してる」
「うん!私も愛してる」
2人は笑いながら抱き合った。
「………なぁ。あれ、やっぱり側から見たらおかしいよな。なんで男同士で抱き合ってるんだよ」
アルフィルは呆れたように呟いた。
「いいじゃない。アシュエルは女の子だし。あの2人が一緒になれば、アシュエルも元に戻るんでしょ?私ね、アシュエルと2人でご飯食べに行きたいんだよね。女子会したい」
「だめ。それはぜったいにだめアシューと一緒とか絶対だめ。変な虫がつく。ご飯行くなら4人で、だからね。2人だけで出歩くのは許さない」
「……アルって過保護だよね。アシュエルの事好きすぎじゃない?」
「俺は過保護じゃねぇ。お前もわかるよ。アシューの素顔見たら。あれまじで女装時の俺よりも天使でやばいから」
「んー。それはきになるな。じゃあ兄上には合わせないようにしないとね。兄上は綺麗なものが好きだから」
王女は最近病気から復帰した自分に似た兄を思い浮かべた。
「是非そうしてくれ」
「そうするよ。アシュエルの婚約者に目をつけられたらめんどくさそうだ」
まだ婚約者すらいない兄が少し心配になりつつ、アシュエルの隣にいる男を見ていた。
あれを怒らすのは得策ではないと本能が告げていた。
「…………なぁ」
「なに?」
いきなり呼ばれた為首を傾げてアルフィルを見つめた。
「……好きだよ。お前が好き。だけど、結婚するのはもうちょっと待って。2人同時に結婚したら両親が倒れるから」
「どうした いきなり。……唐突だなぁ。まぁ、ふふっ。それは大変だ。いいよ。私はいつまでも待つよ?私はアルのものだから」
「はぁぁぁぁぁ。結婚前に手ぇ出したくなかったのになぁ」
アルフィルは頭を抱えて大きなため息をついた。
「ふふっ。早く手を出してもらいたくて頑張ったのは私ですから」
王女は胸を張って得意げに笑った。
「お前が悪いんだからな」
そう呟いたアルフィルと微笑んだ彼女の影が重なった。
その後のフェステル家には同じ日に生まれた2人の子供を抱く綺麗な女性が2人と、それを心配そうに見つめる2人の綺麗な男性が目撃された。
そして銀髪の女性を見た人はみんな口を揃えて言った。
「女神がいた」
と。
お読み頂きありがとうございました!
うまく途中まで性別が隠せたかが不安ですが、楽しんでいただけてれば幸いです。
宜しければ評価よろしくお願い致します!!