第3話 表側の裏側
3話まで読んでいただきありがとうございます。
4話の投稿はいつになるかわかりませんが、投稿したら是非読んで見てください
「――おっと、話が長引いてしまったね……。 翼君、もう無傷だから退院だ」
「へ? 退院すか……? え? お金とかっていいんですかね……」
恐る恐る水野に聞いた翼だが
「お金? あぁ、心配ないよ。 今の世の中、病院は無償だしね。 今さらそんな事聞くかい……?」
と、水野にあっけなく返されてしまった。
よくよく考えれば、通貨の形が翼の認知上の物と同じとは限らない。だから、お金を払うようなことにならなくて良かったのだろう。
「いや、チップですよチップ! ジョーク的?な感じで……」
「翼君は面白いね。 まるでこの世界を何も知らないみたいで初々しさを感じるよ」
翼は焦りの上に焦りを重ねられて、オドオドしていたが、また仮面を即座に被るように作り笑いをしてその場をしのいだ。
「さ、ゆっくりでいいから退院の支度して」
「あ、はい! 退院の準備はもうできています。 ただ、この白い患者服みたいなのどうすれば……?」
「あ! この部屋のロッカーに君の服が入ってるよ! 元の服に着替えちゃいな」
「わかりました……。 あれ? 元の服がここにあるということは水野さんが服を着替えさせたってことですか……?」
「そうだよ。 ただし、『能力』を使って素早く着替えさせたから見えてないさ。」
(『能力』……か。 待てよ……! 最初に着替えさせて貰ったなら、目の前で着替えさせて貰えば『能力』が見れるのでは? でも、それは色々アウトな気がするけど……。 言ってみるしかない)
そう思った翼だったが、中途半端が故に言い出すことはできなかった。
ロッカーから服を取り出し、水野の方をチラッとみると水野が口を開いた。
「『水の能力』なのにどうやって着替えさせた? という質問がくると思ってたんだけどね……。 まあ……そんなことはどうでもいいか。 僕は外にいるから、早く着替えちゃいな」
「はい、わかりまし……!?」
翼が自身の服を見たとき衝撃が走った。
既に服が変わっていたのだ。胸にいきなり針でも刺されたような気分だった。
テンパりながら服を確認していると、水野の目元は髪で隠れていてわからなかったが、口元だけはクスッと微笑んで「驚いたかい?」とこっちを向いた。
「これは僕の『水の能力』を応用した技なんだよ。 実は翼君の服を軽く水で覆い、目に届く光の量を調整して、白い患者服のように見せていただけ。 だから、実際には君は普通の服を着ていたのさ」
「凄い……! そんなことできるんですか……。 あ、でもロッカーに入っていた服はどうしたんですか……?」
「それこそが本物の患者服さ。 患者服にも水を覆わせて、光の量を調整して君の服のように見せかけていたんだよ! 面白かったでしょ?」
「面白かったです! 服を触っても水って感じ全然しなかったですし……」
「医療の世界では、能力の繊細さと器用さが命だからね! このように『水の能力』とは思えないような事もできちゃうんだ」
「なるほど……」
「さて、そろそろ外行こうか。 翼君」
……
…………
………………
「水野さんお世話になりました!」
「どうも。 こちらこそ話せて楽しかったよ」
こうして翼は退院し、江戸と現代が入り混じった謎多き世界への一歩を踏み出したのだった。
翼は水野の方を振り返らず、そのまま未知の街中へと足を進めていったが、水野は翼の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
----プルルルルル
「どうも水野です。 ……はい、折り返し掛けさせて頂きます……」
水野は口元の笑みを絶やさずに院内へへゆっくりと進み、「医院長室 関係者以外立ち入り禁止」と書かれた部屋の中へとひっそり消えいろうとしたが……。
「またサボリですか? 水野医院長」
尖らせた口が可愛い女医の一言で、行為は中断させられてしまう。
「いやー急用ですって!」
「はぁ……。 完全防音の医院長室でなにやってるのか知りませんけど、サボリすぎですって……。 いい加減医院長でもクビになりますよ……?」
「あはは……。 すぐ戻るよ」
こうして水野は疾風のごとく、部屋へと姿を消してしまった。
「腕だけは良いから困るのよね……」
…………
水野の医院長室の中は防音壁に包まれているだけで、本当に何も存在しない殺風景だった。
その部屋の真ん中に、水野はだらりと座りこみ、携帯をしっかりと握って耳に当て始めた。
プルルルルルという音が何度も鼓膜を刺激するが、それでもなお水野の穏やかな笑顔は揺るがない。
「『焔』だ。 水野忠よ、どうされた? また女医に邪魔でもされたのか?」
その言葉を水野が聞いた瞬間、今まで目にかかっていた髪がぽたぽた音を立てながら、水となって地面に落ちていった。
水が落ちて残ったのは…………
スーッと、神経が凍てついてしまうような、それでいて蛇が睨んでいるような、言い表せないほど不気味な笑みだ……。
まるで水野の物とは思えないような……。
「温厚でいい人を騙るためと言っても前髪は邪魔だ。 口元だけで演じる事が出来るとはいえ集中ができないね、あぁ、それと……」
今度は神経中をなめ回すような怒りの笑みで、こう言い放つ
「冗談だとしてもその名前で呼ぶのは辞めろよ、な……? 組織では『魔利』で通ってるんだからよ」
「失礼、『魔利』。 また女医に邪魔でもされおったか……?」
「今日だけで三度目さ……。 これ以上行くと『この仕事』に支障をきたすよ……。 だから仕方ないけど……」
今度の水野は顔が裂ける程、満面の笑みで
「処分するしかないな……。 どうせ使えない能力持ちだ。」
と、声高に、そして笑顔で言った。
「落ち着くのだ魔利。 確かに後で処分しなければならぬが『彼』の件が先であろう。 彼はどうだ……?」
「おっと、あぁ……! 一度目に連絡した『大陽翼』のことかい? 間違いないよ彼は逸材だ。 『ボス』の言っていた男虎翼ではないが、双方同じ能力のオーラを感じ取れたからね」
「そうか……。 それは良かった。 後は大陽翼の能力を奪うだけであるな?」
「そうだ……。 だが、課程が抜けてるぞ焔。 ボスによると大陽翼の能力に限り……」
「信頼関係を築かないと奪えないらしいからな」
「そうであったな……。 不思議なものではあるが……」
「焔、今近くにいるか?」
「あぁ」
「悪いんだが、大陽翼を尾行してくれ。 こっちは病院の仕事をしなくては」
「しかし、太陽翼の特徴は……?」
「黒髪で、地味な見た目だが、鍛錬を積んだ君の目なら、見てすぐにわかるはずだよ。」
「御意。 大陽翼と思わしき人物が見えた。追う」
「了解だありがとう……! 失礼するよ。」
----ツーツーツー
電話が切れる音がなり響いた。その後すぐに水野は前髪を水で生成し、携帯をポケットにしまった。そしていつもの温厚そうな笑顔に戻っていく。
「ピースがようやく揃った……。 さて、僕は職場に戻るか」
その一言は今日の今までの発言の中で、一番不気味さを宿していた。
水野忠
能力:『水』
水を生成し、操る事が出来る能力。
大量の水を作り出して攻撃するもよし、何かを作るもよし。
体と水が接しているときに限り、水を好きな形にすることが出来る。水を見えない糸のようにして、遠くに繋ぎ、遠くで何かを作ることもできる。
そして、鍛錬を積めば水から目に入る光の量を調整できるようになるらしい。
ただし、水を繊細に扱ったり大量に出すには、多大なエネルギー、努力、精神力、集中力が必要になる。
本名:大陽翼
年齢:16
備考:中途半端な面倒くさがりや思春期
能力:なし(?)
本名:水野忠
偽名:魔利
年齢:20代前半
備考:表向きは優しい
所属:水野総合病院、組織(?)
能力:水
本名:?
偽名:焔
年齢:?
備考:?
所属:組織(?)
能力:?
本名:男虎翼
年齢:?
備考:会話の中で良く出てくる
能力:?