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高校野球の球数制限なんて、物理学を知らないのか・・・

作者: さきら天悟
掲載日:2019/09/02

「高校野球の球数制限?

そんなことを言うやつは、物理学を知らないヤツだ!」

男は振り返り、右から左へと視線を移し、反応を伺う。

全員ではないが、反応があった。

まあ、25人中4、5人だが。

これでもツカミは良い方だろう。

以前、女性は微分方程式を使いこなしていると説いたが、

それよりも反応がいい。

テレビやネットでも旬のネタだから、か。




「先生、野球と物理学ってどう関係するの?」

前から三列目、右端の席の女子が手を挙げ言った。


「野球、いやスポーツなんて、

ニュートン力学がベースになっている。

ちゃんと物理が分かっていないと上手くなれない」


「マジすか」

坊主頭の男子が声を上げた。


「バッティングの基本は何だ。後藤」


「センター返し、ッす」

男子生徒はバットを振るマネをした。

センター返しとは、ピッチャーが投げる球を、

そのままピッチャーの方向に打ち返すことである。


「本当に正しいのか、それ」


「顧問の先生も言ってるし、

プロの解説者も言ってます」

坊主頭が首をひねった。


「お前も力積って習ったろう」


「はい、運動エネルギーの入射角と反射角と言うやつですね」


「そうだ」

教壇の男は一つ頷く。

「センター返し、ピッチャーに打ち返すということは、

入射角、反射角が90度。

ということは、バットに一番衝撃を受けるということなんだ。

だから、鋭く、遠くへ打球を打ち返すなら、

三塁側に引っ張るか、一塁側に流した方がいいんだ。

そうすれば、ピッチャーが投げた球の運動エネルギーを殺さずに

活かすことができるんだ」


「そうかな?

センター返しの方がヒットの確率は高いと思うけどなぁ」

男子学生はまた首をひねる。


「それはなあ、ピッチャーのレベルが自分より低い時だろう」

教師は彼を見つめる。

「剛球投手の時、ピッチャーゴロ多くないか」


男子生徒は言い当てられたように頷いた。


「速い球を打ち返す気持ちが働いて、

全身に力が入ってしまう。

力で打ち返そうとして」


「力で・・・」

男子生徒はバットを振るマネをし、

腰のあたりで止める。

「確かに力が入ります」


「バットに力をこめるなんて無意味なんだ。

逆に良くない。

バットでボールを飛ばすなんて、

バットの運動エネルギーがすべてだ。

運動エネルギーは1/2mv^2、

つまりバットのスイングスピードが一番重要だ。

だから、スイングスピードを上げるには

体をリラックスさせなければならない。

世界のホームラン王の王貞治氏が、

ぶら下げた紙を真剣で切るという練習をしていたというが、

スイングスピードを上げるには合理的な練習だろう」



男子生徒は両手を脱力させる。

そして、バットスイングのマネをした。

「あッ!?

で、球数制限は?」


「本題だな」

教師は黒板に書く。

生徒一同は怪訝な顔をしている。


『作用と反作用』


「ニュートン力学の第三法則だ」

教師は生徒を見渡すが、

生徒はキョトンとしている。


「ある部分に力が働く場合、

同時に逆方向に力が働くということだ」

教師は続ける。


「つまり、160km/hのボールを投げるピッチャーには、

それと同じ負荷がかかるということだ」


野球部の男子生徒が投球のマネをする。

彼のポジションはピッチャーだった。


「何キロだせる?」

教師は問うた。


「128キロがマックスです」


教師は予想通りというように頷いた。

「だから、そんなに負荷はかからない。

よほど変な投球ホームじゃなきゃ問題ない。

何連投しても」


「何連投もできないです」

生徒は下を向く。

「3連投が精いっぱいです。

4回戦以上いったことありません」


「そうだ。

だから、球数制限なんて剛速球投手を守る規定であって、

一般の高校生には関係ない。

プロやメジャーに行けそうな投手を守るための規定だ」


「そんなの当たり前じゃん。

いいピッチャーしかそもそも連投なんてないです」

野球部の彼は言った。


「でもな、高校生でも技巧派もいるんだ。

プロでは通用しないと分かっていても、

甲子園を目指している技巧派ピッチャーが。

そういう投手には極めて不利な規定になる」


「だったら、どうすれば・・・」


「3ストライクじゃなく、

2ストライクでアウトにすればいいんじゃないかな。

最近、バッティング優勢になっているから。

そうすれば、球数は減るだろう」


「いいですね」

ピッチャーの彼は言った。

「そうすれば、俺にもチャンスがあるかも」

二人は息を合わせたように頷く。



女子生徒が手を高く上げた。

「先生、授業をはじめてください。

数学の授業を」


そう、彼は数学教師だった。

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