秋愁と贖罪
まだ解決しておりませんが、ようやく前に進み始めますですです
どうしてこうなった?
アニメやラノベにありがちな台詞を脳内で自分自身に問う、デジャブとは少し違う、宿泊研修の後に同様の光景を俺は見ている、そしてその時と決定的に異なる点が存在する。
目の前にいる大人しそうな見た目をした美少女の表情は、あの時のように柔らか且つ少々興奮した表情や雰囲気ではなく、張り付いたような笑顔を見せながらも、この場をぶち壊しに来ている。
反発するように活発且つ近寄りがたい雰囲気は備えながらも大人っぽい美女は、あの時は恥ずかしそうにしていた表情ではなく、見るからに機嫌が悪い。
そして機嫌の悪さは隣に座る少女である笠木へ向けるべきなのだが、優しさからか田中綾香ことケバ子は感情の矛先をウロウロとさせているようだった。
そして美女二人と対面している俺は、借りてきた猫のように大人しく池田戦ばりの汗を垂れ流す感覚に襲われていた、正直吐き気がするくらいだ。
「あっ! 綾香これ一緒に食べよう?」
この状況を楽しんでいる訳ではないとは思うが、笠木は動揺を見せずにケバ子へメニュー表を共有してシェアハピしようとしていた。宿泊研修以降か夏祭り以降、どちらが決め手か俺には分からないが随分と肝が据わっている様子に見えるが、恐らく肝が座っていると例えるよりも……。
「え!? うん、いいけど……」
ケバ子としても笠木が何を考えているのか分からないのだろう、何やら笠木の態度に戸惑い距離感がある。
「木立くんは?」
借りてきた猫、いや空気と化していた俺は笠木からメニュー表を手渡される。動揺を隠すようにメニュー表で顔を覆い隠しながら考える。笠木がいる理由はケバ子には分からなくても俺には明らかだ。
最悪の事態に俺が対応出来ないと考えているのか、補佐としての役割に徹しようと思ったのか偶然を装い笠木は俺とケバ子のデートをぶち壊しに来たのだ。
ある意味、始まりの場所である喫茶店が修羅場になるとは俺も思わなかった。
「でも木立くんと放課後に過ごすの初めてだから少し緊張するかも……」
この場で、一番緊張とは無縁の存在である笠木が、何やら大胆な嘘を言う。こんなしょうもない嘘を吐かせてしまうなんて俺は何も出来てはいなかったのだと悟る。加えてこの顔を今から苦難を担う表情に変えてしまうなんて極悪人でしかない。
「笠木、もういい」
ここら辺が潮時だろうと俺は思う。出口の無い洞窟で出口を探すかのように無意味な行動を繰り返す俺と笠木は二人とも限界だ。
それでも誰も傷付かない幸せな未来はあると信じて問題を先延ばしにする笠木、不誠実な方法で最善の解決を図った俺。
「……何言ってるの? 木立くん」
俺達は二人とも名の通り共犯者で間違いない、だからこそ二人とも逃げちゃダメなのだ。これ以上先延ばしにして田中の傷を抉るような行為をしてはならない。
俺達が第一に考えるべきは俺と笠木の保身では無く、田中綾香という一切の偽りや悪意を持たない人間の心だ。
「この場に三人が集まったんだ、ここが終着点だ。この先に未来なんか無い」
「……やめようよ」
「ダメだ」
そして、全てをフラットに戻せるとは思ってないが、これ以上続けても傷は増えるばかりだ。
本当に主人公やヒーローとは無縁の立ち位置にいると思う、悪役そのものだ。
ただ、この先に未来が無いからと言って諦める訳でもない、この先に未来が無いなら戻ればいいだけの話、そして戻る為に必要な対価である誠実という心を支払うべき時なのだ。
「アンタ達、さっきから何言ってんの?」
会話に置いてけぼりにされた田中は、笠木の慌てようから俺と笠木に何の会話をしてるのか? という意味合いで問いかけてくる。
「田中……お前が疑問に思ってる事を今から全て話そうと思う」
田中は、俺の言葉の平坦さからいい話ではないと分かっているのか顔を俯かせる。それでも希望を求める田中は俯いたまま返答を投げつけてくる。
「それってアタシにとって都合の悪い話?」
「そうだな、この話が終わったら俺を軽蔑するだろうし、ぶん殴ってくれても構わない」
田中の言葉に間髪を入れずに俺は返答をする。店内に俺達の他の人はいるが俺達以外の人間が存在していないかのように田中と笠木の言葉は俺の耳によく通る。
「……アタシはそんな話なら聞きたくない」
好きな事だけして生きていきたい、美味しい部分だけを食べていたい、偽りでもいいから綺麗な部分だけ見ていたい。目の前の光だけを求めて歩いていたい。誰だってそう思うのは当たり前だ。
そんな人間として当たり前の願望を持つ田中に真実を突きつけるというのは紛れも無い俺のエゴである。
「聞いてほしい」
「言わなくていい、少しだけ分かってた。アタシ帰る……!」
田中は俺と笠木の返答を聞く間も持たずに鞄を持って店内から逃げるように走り去っていく。その姿を見ても追いかける事すら出来ずに、突発的な俺の行動を咎めるように睨みつける笠木の視線と、この先の事を考える俺だけが取り残された。
「木立くんは何で今日このタイミングで綾香に話そうとしたの?」
「あれからもう、数ヵ月経って進展は無い。これ以上田中に深手を負わせたくないからだ」
嘘は言っていない、一つの真実だ。
俺の中での第一優先が笠木や俺の保身ではなく、田中がこれから負う事になるはずだった傷の対処に変わった結果だ。
「それは分かるよ、ただ何でこのタイミングで言うの? って私は聞いてるの!」
「笠木が今日ここに来たからだ」
「じゃあ私が来なければこんな状況にはならなかったって事……?」
「そういう意味とは違う、笠木が来なくても近いうちには話していただろう。ただ此処に来るくらいだ、笠木はもう限界だと俺が勝手に判断した」
自身でも強行突破のような感覚はあったのだろう、何も言わないまま笠木は俺に対する怒りを含む視線を送り続けている。しかし、こんな状況でも諦めたかのように落ち着いている自分に嫌気がする。
体育祭の種目決めで笠木が遅れて俺の横に並び立った事、その直後の練習の時に笠木が俺と同じように逃げの願望を抱いてしまった事、それらを踏まえた上で笠木はもう限界だと俺が勝手に判断した。
後はタイミングだけだった。
「それに田中の言葉を聞く限り、薄々気付いていた節もある」
「木立くんはこれからどうするつもりなの?」
「田中に話を聞いてもらえるように頑張るだけだな」
笠木は俺に対する敵意を緩めたように打って変わったように俺から目を逸らす。
「綾香、許してくれるかな?」
「田中の事だから笠木に対する態度は変わらないだろ、俺に対する態度が入学当初に戻るだけだ」
そう、最初へ戻るだけ。言ってみると呆気ないなんて事はなく、今更湧いてくる後悔と罪悪感が俺を蝕んでくる。
ようやく本当の意味で俺へのツケが回ってくる、その痛みを俺は受け入れるしかないのだ。
最後まで見ていただきありがとうございましたのですです!




