秋愁は何気ない行動で彩を増すように出来ている
昨日はスヤスヤと寝たりゆーちゅーぶを見たりして過ごしておりました!
また更新が無かったにも関わらずブクマや評価が増えており有難いのです;w;
本日分も楽しんでいただけたら幸いマン祭りなのですw;w;w;;w
俺の一言で、魔王……いや暴君である池田は俺の方へ振り向き一度睨みを利かせる。
「なんだ?」
声色で分かるくらいに池田も機嫌が悪く、正直恐怖でしか無いが言ってしまった以上は俺も後退する気はない。
「じ、塾ときゃ……あっ」
池田の恐怖と俺の高濃度の陰キャが上手く融合して噛んでしまった。あれだけ内心カッコよさげに奮い立たせた後なのにカッコ悪い、どうやらカッコつけるのは俺の性分にはとことん合わないらしい。
「あ? 何言ってんだお前、はっきり言えよ。」
はっきり言え。と相手からの言葉を求める癖に威圧感巻き散らすの止めてもらいたい。凄めば相手が怯むのを利用して反発意見を黙らせてる手法を取っているのに偉そうだ。
腹が立つし、そういう奴が相手だと俺の中の天邪鬼さんが、こんにちは。をして尚更後退するわけにはいかない。
「バ、バイトはどうなんだ?」
「あ?」
「塾と部活はダメだけどバイトはどうなのかって聞いているんだけど」
「バイトは仕事だから部活や塾とは別だ」
バイトだって部活や塾と変わらずに個人が選択して行なっている。バイトが許されて、塾や部活が許されない道理として池田の意見は通らない。あまりにも、ふわふわし過ぎている。
「責任を負うという話でバイトは部活と塾とは違うって意味か?」
「あ? 何言ってるか分かんねぇぞ」
そりゃそうだろう、池田に分かるわけがない。池田自身が明確なルールに基づいて喋っているわけでは無く、個人の独断と偏見で我儘を貫こうとしてるだけに過ぎないのだから。
「簡単に言えば俺の意見としては、バイトが許されるなら部活も塾も許されるべきと言っているんだ」
池田は、ようやく俺の意見を反発意見と認識したのか、他の生徒の机の前から俺が座っている机の前まで近づいてくる。
「だから、バイトは仕事だって言ってんだろ!?」
俺の机の前に来るなり怒鳴るように脅すの止めてほしいなー、怖いなー、いやマジで。
あまり頭に血を昇らせると既に理解していない話が更に理解出来なくなるだけだろう。
「し、仕事だから……仕事じゃないからで参加の有無を一方的に決めるのが間違っていると言っているんだが」
「何が間違ってんだよ、言ってみろよ」
「バイトは労働に応じて賃金と責任が発生するからお前の言う通り、例外として当てはまるのも理解出来るが……」
「だったらいいんじゃねぇかよ」
人が話してる途中で口を挟むな、コイツ小学校で習わなかったのかよ。本当に寝てて習ってなさそうなのが別の意味で恐怖である。
「よくないだろ、塾や部活だってバイト同様に月謝や責任という名目で金銭が発生している場合もあるだろ、それを一概にバイトは良くて他はダメという意見は雑で道理として通らない、場合によっては将来を左右する勉学に関係してる塾の方が重要とすら俺は思っているし部活も推薦を狙うなら重要度としては高いはずだろ」
池田の目線の泳ぎ方や頻繁に頭に手を置く仕草から、池田は恐らく話を理解していない。
だが、池田自身に理解させる必要は無く、悩ませる事に意味がある。
こっちが威圧に潰されないようにして持久戦に持ち込むだけでいい、脳筋タイプが取る行動はほぼ一つなのだから。
「結局何が言いてぇんだよ、テメェ」
案の定、話を理解出来なかった池田は最終手段として、口調が荒くなり威圧感を武器にしてくる。
「バイトが許されるなら部活や塾も例外……あー別とするべきだ。というか強制する権利はお前には無い」
「強制なんかしてねーだろ!」
言質は取れた、こうなったら池田はもう詰みだ。
「だったら、このクラスでの話し合いはあくまで、提案と説得という認識でいいんだよな?」
「そうだ、だったらなんだってんだよ!?」
俺は池田の言葉を聞き机に掛けてあったスクールバッグを掴み教室のドアへと歩き出す。俺の行動を皮切りに他の生徒も動くかどうか知らんが、俺が人柱となってやったんだから後は選択の自由だ。
「あ? テメェどこいくつもりだよ?」
「俺は放課後の練習に参加するつもりは無い、また提案や説得に応じるつもりも無いし時間を割く事も拒否する」
「あーそうかよ、テメェなんかいなくても問題ねぇよ! さっさと帰れよ!」
例外として俺が機能するのはいいが、最後の後押しくらいは……。
ドアを開ける直前の一番目立つこのタイミングで、煽ってやろう。
「……あんな奴の言いなりになるとか陰キャの俺よりも下の下しかいないのな」
ドアの前で振り返りクラスを見渡すように、俺は呟いてみる。静まり返った中でクラス中の視線集まるとか本当に嫌だ、もう絶対やらない。
脳への伝達が遅い池田が、俺の背中宛てに怒鳴り散らかすのを気にしないようにしてドアを閉める。廊下を静かに歩くが徐々に速度を上げて俺はトイレへ向かう。
「こ、怖っ、怖。よくやったぞ俺! 本当によくやった! 快挙だ、俺の陰キャ人生で陽キャに初めて逆らったぞ! 殴られるかと思った……いやマジで怖い、なんか吐き気するし……」
恐怖で抑えられていた汗腺が決壊したかのように俺の顔から汗が噴き出す、水道で顔を洗い拭いても、次から次へと汗は止まらず俺の身体の水分を捻り出すように数分間、顔を洗い汗を拭く事を繰り返していた。
汗がある程度出尽くして息を整えた俺は鏡で自分の顔を確認して思い出す。
藤木田が首を差し出した一学期の光景。俺はクラスの名も知らんような奴らの為に首を差し出したつもりは無いが少しくらいはあの時の藤木田に近づけたのだろうか?
クラスの為ではなく、たった一人の為にエゴという剣を振るった俺はどう映ったのだろうか?
漂流者のように彷徨う考えに答えは無い、鏡の中の俺は何も答えない。
落ち着きを取り戻した俺は教室の前を通るのを避けて普段は使用しない階段から玄関を目指す。
廊下の窓、人目から隠れるように自主練に取り組む生徒、耳を澄ませば音楽室から聞き覚えのある歪んだギターの音、虹のような彩を持つ青春が眩しくても眼球を逸らす事なく真っすぐ歩く。
玄関で靴を履き替えていると後ろから肩を強めに叩かれる。
「オメーやっぱり思ってたより面白いな、ウチは好きだわ」
円卓の騎士メンバー、数々の陰キャからロリコンまで虜にするあざとさを持つロリ子は、あざとさをどこかへ忘れてきたかのような口調で振り向いた俺に話しかけてきた。
「へ? あ、あぁ、よく分かんないけど、ども……」
ロリ子は、よく分からない一言を告げ玄関から出ていく、内容からディスられたわけでも無いのだろうと上履きを下駄箱へ収納して俺も玄関から出ると校門には見慣れた眼鏡が立っていた。
「遅かったでありますな、外履きがあるので待っておりましたぞ」
「校門前で待つとか青春ラブコメやギャルゲのヒロインにしか許されてないからな」
藤木田は、校門に預けていた身体を起こし背中を軽く払う。友情エンドっぽい絵面とか勘弁してもらいたい。
「木立氏にしては大胆な行動でしたな!」
「おい、止めろ。さっきまでトイレで顔を洗っては汗を拭く作業を繰り返してたんだぞ」
藤木田は俺の返答に人目も気にせず笑う、そんなに面白かったか。ツボが分からない。
「木立氏らしくて安心しましたぞ!」
「それでどうなったんだ? さっきロリ子が帰ってるところ見ると俺に乗っかって帰りたい奴は帰れたんだろうけど」
「そうですな! 最後の煽り方はあまりにお粗末でしたが池田氏に大人しくされた生徒達も木立氏に感化されたように反旗を翻しておりましたぞ!」
どうやら、最後の煽りは蛇足だったらしいが結果としては悪くない落とし方だったらしい。俺の聞きたい事はそれだけではないのだけれども……。
「池田氏だけではなくクラスの一部から木立氏へのヘイトが溜まったのも間違いないですけどな!」
「おい、怖い事言うな、俺みたいなメンタルの弱い陰キャは不登校という選択肢を持っているんだからな、言葉に気を付けろ」
「自身を人質にするなんてあまりに無意味ではないですかな?」
「……それよりも笠木はどうしてた?」
藤木田は、どうやらその言葉を待っていたかのように俺をイジる時の顔つきになる、失言だった。と思ったが既に時遅し。
意気揚々と今日一番の表情を俺に向ける。
「クラスの為に木立氏が動くとは思っておりませんでしたが、やはり笠木女史が絡んでおりましたか!」
「い、いいからはよ!」
俺が恥ずかしさを誤魔化すように、藤木田からの言葉を急かす。
「池田氏が非を認める事は無かったですが、後日持越しという形で田辺氏が場を収めましたぞ! そのため笠木女史も何事も無く帰りましたぞ!」
サラッと田辺が最後だけ持っていくとか納得したくないが、それぞれの役割としては妥当なところなのだろうかと思っていると、鳴らないはずのスマホが振動を告げるというホラーが訪れた。
スマホを確認すると、五文字の文面に加えて猫のスタンプが個別チャットへ送られてきていた。
「木立氏? どうしましたかな?」
「別に」
「いえ、その……顔が何やら気持ち悪い事になってますが……」
普段なら怒りを露わにしているところだが、今日は不問としよう。
こんな一言を求めていたわけではないが、貰えるものは貰っておこうと俺は思う。
らしくない行動を起こすのも……たまには悪くないと思える秋の夕暮れに想いを馳せる。
最後まで見ていただきありがとうございます!! また明日楽しみにしていてくださいませ!!ではは!




