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秋愁を穿つ

こんばんは! GW明けでお疲れ様です;w;

私も同様にお疲れ様となりますが、公募?の関係でこれから一章の手直しと二章の一部の推敲です;w;w;

今日のお話も楽しんでいただけたら嬉しいう!

 笠木の一言は、高橋とクラス内が作り上げた空気に相反すると同時に表向きはケバ子サイドに立っていた自分自身の否定になる。

 そして……大袈裟に言うとするならばケバ子との対立を意味する。


 俺とケバ子を囃し立てようとするクラス内は静寂も束の間、ざわざわと言う擬音が似合いそうな雰囲気を漂わせていた。

 笠木の発言に誰もが呆気に取られ返答もしない中、強行突破同然の行為。

 笠木は急かすように口を開く。


「圭太、黒板に私の名前書いて」

「お、おう」


 高橋はケバ子と笠木と交互に見ながらも了承とも取れる返答をして黒板に笠木の名前を記載し二人三脚の参加者を確定付けるように二人三脚という種目名に赤のチョークで×印を加えた。


 普段は微笑むような顔をしている笠木は、緊張の為か口元をきつく縛ったように下唇を噛んでいるのが隣の席の俺からは見て取れた。

 机の下では両手を祈るように握り締めている彼女は、今どんな事を考えているのだろうか? どんな思いで俺を救おうとしたのだろうか?

 これまでの笠木からは考えられない行動と発言に困惑しつつも、俺は最悪のケースを一人逃れたが、笠木は自身が属する陽キャグループにとっての爆弾となっていた。

 そして、もう一人の当事者であるケバ子はどんな表情をしているのか、俺は確認出来なかった。

 いや……確認しようとしなかったのだ。


 その後も僅かな時間、ぎこちなくも体育祭の種目決めは完了し六時限目の終了を告げるチャイムが鳴る。田辺と高橋は愛して止まない教卓を担任の佐々木に奪われるように追い払われる、彼らが自席へ戻る際に笠木の方へ視線を送っていた事もあり間違いなく一波乱あるのだろう。


 俺は笠木を見誤っていたのだろうか? 横目で隠れながら見るように笠木の姿を眼球で捉える。恐らく俺が見ている事にも気付いている笠木は俺へ振り向かないままショートホームルームを終えた。

 

「あれは自殺行為だろ……」


 俺の言葉を聞いていないかのように笠木は、机の横に掛けているスクールバッグへ筆箱や教科書を仕舞っている。


「俺が助かっても笠木が――」

「同じ事だよ」


 笠木は俺の言葉から逃げるように忙しなく動かしていた手を止めて俺の方を真っすぐ見ている。


「同じ事って――」

「これで本当のお相子だね」


 笠木は俺に有無を言わせる気が無いのか、重ねるように言葉をぶつけてくる。俺が無意識に弱いと判断していた彼女は強かな存在に思える。

 何を言っても無駄だと判断し俺が煮え切らない気分の中、黙っていると帰宅の準備を終えた笠木は座席から立ち上がり言い逃げるように俺の背中越しに話しかけてくる。


「二人三脚の練習、近いうちにしようね」


 何も言えないまま視線は笠木を追う。机の合間を擦り抜けるように歩く彼女はケバ子が待つ教室前方にある地獄へと一人赴くのであった。


 夏祭りのあの日、俺とケバ子を誘ったあの瞬間。

 笠木はこんな気持ちで俺を見ていたのだろうか?


 不甲斐なく、何も出来ない自分に腹が立つ。彼女を救うどころか俺は彼女を地獄へ引きずり込む悪魔でしかない。


「木立氏!」


 タイミングを伺っていたのか藤木田と黒川は、笠木がケバ子と教室を出ていくのと同時に俺の席まで足を運んできていた。

 藤木田と黒川もなんとなく変化は察していただろうが、俺が平然を装い口を開かない事から追及をしてこなかったが、流石にこの状況では追及を逃れる事は出来ないだろう。


「あぁ、話すから心配そうな顔はしなくていいぞ」

「木立、俺は必要か?」


 普段はFPSジャンキーとして活躍している黒川なのに、こういう時に最も冷静で気が回る。


「もちろん必要だ、藤木田を暴行罪で逮捕させたくなければな」

「……それは、どういう意味ですかな?」


 俺がどういう話をするか予測できた藤木田は、先ほどまで心配していた表情を眉間に皺が寄せ、眼鏡越しにでも分かるくらい目元がピクピクと痙攣にも近い動きをしていた。

 自業自得ながら俺も笠木同様に地獄へ赴く結果となった。


 場所を変えて、俺が夏休み中の事の顛末を話し終えるまでに、血が昇った頭をクールダウンさせるかの如く藤木田は、頻繁にドリンクバーにて水分を補給していた。


「それで全部か?」


 話の適合性は取れていると思っていたが、藤木田の尋問が始まる前に黒川からの質問が飛ぶ。共犯者の下りに関しては笠木と俺の秘密に近い約束と判断して断固として情報を漏らさなかったがその部分を怪しんでいるのだろう。


「いや、全部では無いが話の通り俺だけの問題と言えない状況だから答えられない」

「そうか、俺から言える事は一つだ。木立はもっと周りを頼れ」


 周りを頼れか……返す言葉もない。

 正直な話、頼って解決したかどうかは分からないが、俺一人で解決に向かうよりはマシな結果にはなっただろう。


「陰キャである木立氏がよくぞ一人でそこまで上手く回そうとしたと褒めたい部分もありますな」


 黒川が苦言を漏らしたのとは逆にブチ切れると思われた藤木田は落ち着いて俺に好意的な意見を述べてくる。


「その数十倍くらいは文句を言いたいのですけどな!」

「俺からはもう謝罪くらいしか返す言葉が出ないんだが……悪いとは思ってる」


 藤木田は、それ以上俺を責めても何も出てこないと判断したのか話を切り替えるように溜息を吐き、眼鏡の位置を戻し話始める。


「しかし、起こってしまった事を振り返るのは後からでも出来ますが、起こり得る未来への話は今しか出来ませぬ、木立氏はこれからどう動くおつもりですかな?」

「笠木の出方を待とうと思っている。あのような行動に出た理由については分かっているが、ケバ子相手にそれを伝えるわけにはいかない以上表向きの行動理由を知る必要がある」

「そうですな、それにしても笠木女史は思ったより大胆な行動をしますな……某の中での笠木女史はもっと受動的であったかと認識しておりました」


 藤木田の中でも笠木の印象は俺と同様なのだ。だから分からない。

 笠木も俺と同じように尋問をされているのだろうか? 少なくとも話が俺同様に拗れない事を祈るばかりだった。


 釈然としない気持ちのまま迎えた翌日、俺の隣の席に座る彼女は何事も無かったかのようにスクールバッグから教科書や筆箱を取り出し机に収納していく。

 そしていつも通りに教卓を囲む円卓の騎士の元へ駆けていく、変わらない風景。


 変わらない風景を維持しているからこそ分かる。

 笠木はケバ子へ嘘を吐いたのだ。

 後に傷口を広げる結果になる取り繕う嘘なのか、最適解に繋がる嘘なのか俺は知らない。

 分かる事は一つだけ、俺の隣の空席に目を配らせる。


 俺が置き去りにしたはずの彼女は、俺の隣に並び立ってしまったという事実のみである。

最後まで見ていただきありがとうございました、Youtuberの締めの挨拶と後書き土下座がかなり似ている事に気付いた今日のこの頃でございます!

また明日ぽよ!

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