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青春には未だ届きそうもない

 声の主は、このクラスにいる俺の唯一の友人である藤木田であった。

 コイツが標準語を話してるとか違和感があって気持ち悪いけど、今はそんな事はどうでもいい!

 藤木田の発言は、間違いなく自殺行為である。恐らくクラス中が藤木田に注目しているはずだ。


「あーマジか、えっと藤木田だっけ? んじゃ俺が招待すっから後で席行くわ、他には入ってないヤツはいるかー?」


 田辺の呼びかけに数人の陰キャたちが反応する。


「あの田辺くん、僕もまだ入ってない……」

「私も参加できるかは分からないけど入れてほしい」

「おー結構いたんだなー気づかなかったわ! ワリィな!」

「あの大吉……今ここにいない人もいるし、後でグループチャットに入っていない人は藤木田くんの席に集まってもらうのはどうかな?」


 笠木の発言で田辺は「ウッシ!」という掛け声と共に手を叩き再度クラスへ向けて発言を訂正する。


「そうだな、んじゃ招待すっから放課後に藤木田の席に集まっとけよー。時間ねーヤツは藤木田とか誰かにチャットID教えとけよー、んじゃ解散!」

「解散も何も集合してないじゃん! 大吉めっちゃアホじゃん!」


 そんなケバ子のツッコミによっていつも通りの昼休みは戻ってきていた。

 こうして陽キャによる陰キャの公開処刑タイムは藤木田の行動によって幕を閉じた。

 予鈴のチャイムが鳴り、五時限目がはじまる。

 俺も予鈴に合わせてフェイクスリーピングを解除して藤木田の様子を見てみたがいつもと変わった様子はない。

 しかし藤木田も陰キャである事は間違いなく内心汗だくだったろう。

 藤木田のやりたい事は流石にもう理解していた、藤木田は俺だけでなくクラス中にいる大人しい人間や陰キャの為に首を差し出したのだ。

 俺の考えが極端すぎて《陰キャはこうだ》という固定概念を作っていた為、陰キャは嫌がる話し合いだと思っていただけで中には……。


『高校生活で変わりたい』

『まだ五月なのにここで終わりたくない』

『青春を謳歌したい』


 という考えの人間もいることを藤木田は知っていたし藤木田本人もその中の一人である。

 藤木田は元々コミュニケーションが苦手な方ではない、見た目と独特な喋り方で嫌悪感や否定的なイメージを抱かれて距離を取られたり小、中学ではイジメの標的とされていただけである。


 藤木田はイジメられる辛さを知っているからこそ、似たような境遇を持っている可能性のあるクラスメイトの為に勇気を持って先陣を切ったのだ。

 昨日の会話で俺が藤木田を含む少数を切り捨てようとしたのとは逆に彼は少数を救おうとした、いや救えているのだ。

 そして藤木田もまた、青春の隅っこの方から抜け出したり自身が出来る限りの青春を楽しもうと思っているのだ。


 保守的で皮肉屋で自身の事しか考えられない俺とは違う、あいつは自分自身の主人公に成れるくらいに成長をしていたのだ。

 また俺が醜い生き物であるかを思い知らされたみたいで友人である藤木田に嫉妬をしてしまう自分に嫌気が差した。


 大丈夫……俺は普通だ、俺が普通の人間なんだ。

 どれだけ心で言い聞かせても、俺のモヤモヤした気持ち悪い感覚は拭えなかった。


 そして、そんな俺を笠木がチラチラ見ている気がする。

 普段人に注目されることが無い事から視線を感じる、しかしいつも通り、陰キャ特有の勘違いの可能性が高い、俺に限ってはラブコメがあり得ない事がこの前、証明されたばかりだ。


 けれども、やはり見ている気がする……しかし笠木の方を見てしまうとこの間のように人間の言葉に対して家畜の鳴き声で言葉のキャッチボールをしてしまう気がする。


 思考が藤木田の事や笠木の事で混沌のまま五時限目のインターバルが訪れる、俺は藤木田の席へ向かおうとすると、藤木田の席の周りには名前も知らないような奴らが数人スマホを取り出してチャットIDの交換をしているようであった。


 別に俺はグループチャットに入りたい訳ではないし藤木田の青春の邪魔をしてしまう気がして立ち上がった身体を再度自席へ縛り付ける。


 いや、そんなの言い訳だ。


 結局のところどう転んでも俺は新しい環境に飛び込むのが怖いのだ、自分でも分かっている。

 俺は世界を沸かすスーパースターにはなれない、そして青春の中心にも足を踏み出せない臆病者なのだ。

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