秋愁と放課後とティータイム
三章がゆるっと始まりました。
夏休み前の熱狂と夏休みの解放感、夏休み後の喪失感を経て大きなイベントも無く九月に入り、多少の気温の低下を感じられる日々を過ごしていた。
そして俺は、一年の半分以上が経過しながらも大きな変化は無い……とは言い切れないのが現状であるが、タイプは陰キャのままであった。
そんな中、俺にイベントを持ち込むのは変わらずにこの男だった。
長身でヒョロっとした体形に眼鏡、そして鳥の巣のような天然パーマと特徴的な口癖。
藤木田は何やら、青春期待値高めな様子で忙しなく手足を動かしたりして何かを言いたそうにしていた。
「木立氏!」
「悪いな、今日はデートがあるという嘘を吐いてお前の誘いを断る、他をあたってくれ」
「そんな嘘を吐いてまで某の誘いを断りたいのですかな!?」
普段ならば俺も藤木田の誘いを断らない、しかし、テンションが高めだったりする時の藤木田の提案はロクでもない結果にしか繋がらないので俺は即座に断る事にしている。
今日のテンションだと、俺が青春ジェットコースターに揺さぶられる展開が未来予知として脳内ディスプレイで再生されてんだよ。
それでなくても考える事が盛りだくさんな俺の青春に問題を持ち込ませてたまるか!
「ふっ……悪いな藤木田、木立は俺とウドンアタックをする予定が入っているんだ」
男性モデルのような体系に校内屈指の顔面偏差値を持つ男、決め手に鈍感系主人公属性を兼ね備えた男、黒川は上手い事サポートしたつもりなのかウィンクをして合図してくるが、冗談じゃない。
お前とのウドンアタックも俺にとっては地獄でしかない、お前らが俺に引けと言っているカードは両方ともジョーカーだ。
何? 俺には放課後を一人で過ごすと言う選択肢は与えられないの?
「そんな予定なんざ入っていない、そもそも週四で一時間プレイしてるんだからルーチンワークみたいな物なんだ、これ以上俺の活動時間を割り当ててたまるか!」
そもそも、二人で俺を取り合うようなやり取り止めてくれない? 俺がヒロインとか誰も得しないからな?
……誘われないよりはいいけどな、うん。
「某は、青春を謳歌したいと日々思っており、青春とは何かを先日就寝前に考えていたのですぞ!」
「え? 断ってんのに語りだすの? 隙あらば自分語りなの? ねぇ?」
藤木田は俺のツッコミに言葉を返さずに自席を立ち上がりゴボウみたいな腕を胸の高さまで上げて拳を握り締めていた。
そして俺は確信する、周りの目も気にせずこういう行動をする藤木田の言葉に耳を貸してはいけないと。
「……青春とは部活動ではないですかな?」
そらみろ、ここで黒川が藤木田の案に乗ってみろ、俺の自由の翼はバッキバキに折られて沼に引きずりこまれる事だろう。
「部活か……ふむ、悪くないな」
良い悪いの問題じゃない、そもそもお前はネトゲ廃人の癖に部活なんてやる時間あるわけないだろ。
「俺の青春はラブコメでキャパオーバーさせる予定だからパスな」
「何を言いますか、限界を超えた先にこそ、青春は存在するのですぞ!」
何それっぽい事を言って誤魔化そうとしてんだよ、パワープレイにも限度はあるんだぞ。
しかも、その名言ぶつけてやりましたぞ! みたいな表情を止めろ。
「そもそも部活に入るなら四月が妥当だろ、今更入部したところで何になる?」
藤木田は名言で俺が堕ちなかったのが不服だったのか不満そうな表情を浮かべながら追撃をかましてくる。
「木立氏はそうやってすぐに結果や意味を求めに走るのがダメなのですぞ! もっと柔軟に物事を考えなくては将来困りますぞ!」
「え? なんで俺説教されてんだ……」
しかし藤木田のいう事も一理あるとは言える。陰キャ特有の考えのおかげで結果や意味、適合性を求める傾向が俺にはある。
そして夏祭りでも過程を無視して結果を求めたからこそ、あのような胃が痛くなる日々を送る羽目になっていたのだ。
だとしたら俺に足りない考えを補えるのではないか?
「入部するかしないかは別として、見学くらいはしてみてもいいだろう。俺もFPSばかりしてるからな、少しくらい身体を動かすのも悪くないと思っていた」
「そうだな、じゃあ見学だけなら……」
藤木田は俺が提案に乗ると分かると、先ほどまでの不満そうな表情から一転、少年のような笑顔を見せる。
「では! 放課後、部活動見学を行いましょうぞ!」
そう言って藤木田は自席へ戻っていく、そして俺はなんとなくその姿を眺めていると藤木田は机から一冊の本を取り出し始めた。
「なぁ、黒川」
「どうした?」
「お前が青春の部活動と言ったら何部を想像する?」
「バスケやサッカー、野球とかになるな」
「だよな……」
藤木田……お前が読んでいるのは確かに青春を要素に含む部活の漫画ではあるけど、それ部室でほぼお茶会してるだけの漫画じゃねーか。
最後まで見ていただきありがとうございました!
明日も更新しましゅ><




