幕間:愚者のワルツ2
藤木田の突発的な提案から数時間、既にお泊りコースになるであろう時間に各自の作品は出来上がった。
「名作が出来たとしか言えない、陰キャの俺にこんな才能が眠っていたなんて……!」
「露骨なフラグを立てるのは止めた方がいいかと思いますぞ」
完全に俺をバカにしているような、呆れた表情で藤木田は俺を侮っているようだった。
しかし、俺のラブコメを見たら評価は一転するに違いない。
「黒川はどうだ?」
「ふっ……出来ている、しかし自信はない!」
自信はないと言いながら、いつも通りに鼻で笑う音を口で発音する部分で矛盾しているが、まぁいいだろう。
「じゃあ俺からだ、これが幾多のラブコメで培った俺の真価だ!」
「自信がお有りのようでしたが、トップバッターでいいのですかな?」
「質で勝負するのがラノベ王だ」
いや、最後とか期待値が嫌でも高まるし普通避けるに決まってる。
もし、ダメでもダメージが少ないからトップバッター安定だろ。
「何やら別の意図を感じますが、では確認させていただきますぞ……」
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俺は立木純二、北高1年の高身長イケメンだ。
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「出だしから得体の知れないゾワゾワが止まらないのですが?」
「いいから読めよ」
「既に読みたくないのですが、読まない事には感想が言えないのがキツイですな……では」
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低血圧のため、朝はいつも眠い。けど、幼馴染の木笠ユキが起こしてくれるから安心だ。
今日もほら…………………………………………。
「純一、起きてほしいかな?」
本当は起きているけど、寝たふりしちゃうぞ笑笑
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「あああぁぁぁぁっ! キッツイですぞおおおぉぉっ!」
「何がだよ!? 正統派学園ラブコメのお約束だろ、いいから見ろよ」
「くっ、苦行だッ!」
「黒川氏! 気を確かに持ちましょうぞ!」
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雪が俺を起こしていると、妹の雪が俺の部屋に入ってきた。
「あー! 雪ちゃん抜け駆け! 純一を起こすのは雪ちゃんじゃなくて雪の役目ー! 怒」
「早いものがちだもん! 私より遅れた雪ちゃんが悪いんだよ、役目果たせなかったね?(暗黒微笑)」
この朝のやり取りにも慣れたもんだけど、朝から俺を取り合うなよー!!!
雪と雪、二人の事は俺も大好きだ。
そんなこんなで三人で登校していると、近所に住んでいる社畜の雪さんがいた。
「遅刻しないようにね、純くん。はいこれ!」
自分も残業の疲れで遅刻スレスレなのに雪さんは、俺にコンビニで買ってきたパンを渡してきた。
「どーせ朝抜いてるんでしょ? 男の子は朝が大事だぞ! それじゃあね!」
雪さんは俺にパンを手渡し、タクシーに乗って去っていった。
「うぅ〜! 明日から純一の朝ごはん作るから!」
「雪ちゃんが作るなら私も!」
「ははは、そんなに食べられないよ」
そう言って二人の頭にポスンと手を乗せると、二人はふにゃふにゃして大人しくなった。
雪さんも雪も雪にも困ったもんだ…………………………俺って愛されてるなぁ。
ハブとマングースのように威嚇し合う二人を剛腕で抱きかかえながら登校すると、多くの雪から挨拶される。
「純ちゃん、おはよう」
「純一くん、放課後空いてるかな?」
「純副会長! 命令だ、お昼に生徒会室へ来い!」
色んな雪が俺に話しかけてくる、幸せすぎて夢じゃないかと疑ってしまう。
そーこーしてる内に、雪学を六時限目まで学んだ俺は、雪先生から頼み事をされてプロジェクターとかの機械を教室まで運んでいた。
「まったく、雪先生も人使いが過ぎるよ。そんなところも好きだけどネ☆」
響くリノリウムの音は、まるで世界から俺だけを切り取ってしまったかのように錯覚してしまいそうになる。
僅かに明度を強く感じて、窓の外に目を向ける。
春の夕景は夏よりも早く、冬よりも遅い。射す朱が、窓に映る実体のない俺を透過したかのように貫く感覚に懐かしさを覚えた。
オフホワイトのリノリウムに射影された俺の影が闇に溺れてしまう前に歩き出す。
教室へ辿り着き、教卓の上へプロジェクターを置く。
放課後の教室は嫌いじゃない、日常から非日常へ世界が反転してしまったかのような静寂を含んでいるから。
雪たちと過ごす時間も嫌いじゃない。
だけど、こうして自分と向き合う時間も俺は大事にしたい、何故だかそう思うんだ。
「ん? 窓を閉め忘れてるじゃないか……まっ大した労力じゃないからいいんだけどね」
教卓から、机の間を縫うように歩き、窓を閉めると、僅かに揺れていたカーテンが、一足早い眠りについたように静かになる。
教室窓際最後尾に青春は潜んでいる、ふと詩的な事を考えながら、机にそっと手を乗せると、頭の奥、脳の最奥がチリつく感覚が訪れ反射的にこめかみを押さえる。
直後、鳴り響くチャイムが教室上部のスピーカーから流れたのを理由に時計を確認しようと視線を向ける。
日常の中に非日常は潜んでいる、いや……この場合は逆なのかも知れない。
『※□◾️てくん! ●□×い、ーー※をして!』
常識と理解が置き去りになっている、俺の脳が処理出来るのはそれだけだった。
コンセントが挿さっていないプロジェクターが黒板に映し出した姿、チャイムが止んだ事で聞こえてきたノイズ。
「ーーゆ……笠木?」
笠木? なんだそれは? わからない、わからないわカラなイワカラなイワカラナイワカラナイワカrraナイワkÅラNイーー。
自分で発した言葉の意味がワカラナイ。
違う、黒板に写っているのは雪だ。笠木なんて名前じゃ……人の名前? あれ、違う。この世界には雪しかいなくて、あれ? オレはナニ?
『木立くん! お願い、返事をして!』
俺の名前……なのか?
『そっちにいちゃダメなの! 早◼️ーーゲートを探※※□◾ーー』
クリアに聞こえていたスピーカーから流れていた声は再びノイズの海へと沈んでいった。
「なんだよ、これ……」
考える必要がない
いや……考えても常識が追いつけない事だけは理解出来た。
「あ〜あ、せっかく再構築したのに、また入ってきちゃったんだ」
唐突に聞こえた声の方へ振り向くとーー。
「雪?」
非日常は訪れるのではなく、内側に潜んでいる。
気付くまでが日常であり、気付いてしまったら世界は白から黒へと暗転してしまうんだ。
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「どうだ?」
「一つ伺いたいのですが……これはラブコメなのですか?」
何を言い出すんだコイツ。どの角度から見ても学園ラブコメだろ。
「ふっ……一種のホラーかと思った、ラブコメとして扱ってはいけない」
「ジキルとハイドですな、夏の読み物のホラーとしては少なからず季節に合っておりますな」
どうやら俺にラノベ王としての未来はなかったらしい。
まぁ、こんな夏の思い出も悪くないのだろうと、羞恥心より満足感が優っていたのは言うまでもない。




