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青春の断頭台

 俺は何処にでもいる平凡な高校生の大天使ミカエル、現在両親が海外出張中で気ままな一人暮らしをしている。


 波風の起きない退屈な毎日だったが、俺はそんな日々を結構気に入っている。

 朝から叩き起こしに来る幼馴染のビオレは、うおっとしい。と思う時もあるけど、あいつが居なかったらそれはそれで寂しいのだろうと思う。


 そんな平凡な日々を過ごしていた俺にある日――


 妹が出来た。


 妹とは言っても、血の繋がりは無く海外出張中の両親が敵のマフィアに売られそうになっていた少女を救って養子にしたらしい。

 まったく俺の両親は一体何の仕事をしているのやら。

 そのため、義妹であるドレミファソラシと二人暮らしになる予定だったのだが……。


『ちょっとー! 朝から何イチャついてんのよ! スケベ! ロリコン!』


 何故か毎朝の世話を焼いてくれている幼馴染のビオレも俺の家に住む事に。


『ミカエルくん……君ならいいんだよ?』


 ゴールデンタイムじゃ言えないような誘惑をしてくる生徒会長のプー先輩。


『大天使くん、あの……私、実は君が鬼ラブなの!』


 俺の事が好き!? クラスのマドンナのシンデレラちゃん。


『大天使! 海行こうぜ!』


 いつの間にか屋根裏に住んでいた従妹のビスコ。


 これだけでもたくさんなのに、次は異世界転生だって!?

 しかも、義妹であるドレミファソラシが元々異世界の王女候補である事が判明。

 襲ってくる他の王女候補の騎士団、魔物の軍団、そして平凡な高校生なのに異世界で覚醒しちゃう俺!!


『俺の平凡な生活を返してくれよ~!!!』 



「藤木田、やっぱりこれは無いだろう」


 俺は今期の異世界転生アニメのPVを見ながら藤木田に話しかける。

 藤木田は俺の部屋に備わっているライトノベルの一巻だけ漁って購入する物と購入しない物を選別する作業をしていた。


「某も盛り過ぎだとは思いますが、現代だとこれくらい盛らなきゃ埋もれてしまうのも事実ですぞ。むしろこの作品も多くの作品の中からアニメ化まで辿り着いた作品でありますからな」




 藤木田の言う事は尤もだ、俺は作家などという存在ではなく陰キャの高校生にしか過ぎない、作家やアニメ制作会社にしか分からない光る物があったのだろう。


「ただ、やはり俺はこの円盤が売れるとは思わない。キャラデザと戦闘の演出は良かったけどそれは内容と関係無く絵師やアニメ制作会社の功績だしな、原作のおかげとは思えんな」


 藤木田はライトノベルのページをペラペラ捲り俺の方を向かずに返答をする。


「しかし、この原作に魅力を感じた出版会社の方がいたのも事実ですからな、もちろん運の要素が少なからず絡んでくるとは思います。如何にこの確率を高める事が出来るかが、作家の最初の仕事の一つではないかと某は思いますぞ」


 そう、この世に確定的な要素はない、ソシャゲのガチャの確率表記ですら虚偽だらけである。

 なので休日の絵として描かれている俺と藤木田の友情も永遠かと問われたならば俺は……断言できないだろう。

 そもそも俺と藤木田が仲良くなった理由を俺は覚えていないのだ、塾で出会った事は覚えているが、どちらから話しかけたとかどうやって仲良くなったとか一切覚えていない。


 藤木田に聞いたら分かるだろうか?


「藤木田、質問があるんだが」

「何でしょう? 木立氏」

「脈絡のない話かもしれんが、俺とお前って何がキッカケで仲良くなったんだっけ?」


 その言葉を聞き藤木田の顔が怒りを含んでいる表情になった。もしかして地雷でも踏んだかなと思っていて訂正する間も無く藤木田は怒りをぶつけてくる。


「それ本気で言っているのですか!? 木立氏」


 藤木田は怒ったような驚いたような顔で選別していたライトノベルをフローリングに置いてベッドの上にいる俺に詰め寄ってくる。


「え? 何でそんなに怒ってるんだ。いや正直な話、覚えていなくてな……」


 藤木田は勢いよく立ち上がった時にズレてしまったであろう眼鏡を指で定位置へ戻し俺に返答をする。


「覚えていないならそれで構わないですぞ、それよりも木立氏」


 覚えていないなら構わない。と言いながらも藤木田は明らかに不機嫌になっていたが俺も喧嘩がしたいわけではないので、釈然としない中、追及を避ける事にした。


「あぁ、それで何だ?」

「先程から木立氏による作品のダメ出し等を聞いておりましたがあまりに否定的な意見が多すぎますぞ」

「そりゃ、あの内容なら叩く奴だっているだろう、俺もその中の一人ってだけだ、俺は八方美人でも聖人君子でもねーよ、ちなみにどちらかと言うと自分ではヒール側だと思っている」


 言葉通り、俺はその辺に転がっている陰キャの一人、モブである。

 藤木田みたいな考えに至る奴だって中にはいるが、俺みたいに否定的な意見から入る奴の方が多いの事実であり、相手への言葉選びとか上手かったら陰キャなんかに身を置いているわけがない。


「某は……木立氏の事そこらへんの一人とは思っておりませぬぞ」


 藤木田は俺の言いたい事を理解していないようだった、先程の件もありイラついていた俺はヒートアップしてしまう。


「お前がどう思っていようが周りから見たらどうかって話だよ、周りはお前の意見に耳を貸すか? そういう事だ」


 自分でも言い過ぎたと思ってはいるが止められなかった、ここで止まったらこれまでの自分の意見が台無しになると思ったからである。


「……某、帰りますぞ、このままでは言い合いになってしまいますので」


 俺は何も言わずにベッドに横になり壁の方を向いていた、ドアの開いた音と階段の降りる音で藤木田が帰った事を判断し、ベッドの上で頭を掻きむしる。

 藤木田の言う事の方が一般的には正しいし受け入れられる。

 それは分かっているが、幼稚な俺は藤木田の意見を受け入れる事を拒む。


 藤木田は中学生の頃よりも口数が増え、笑顔が増え成長している。

 それが嬉しい気持ちよりも悔しいという気持ちの方が強く出てしまった俺は本当に彼の友達でいていいのだろうか?

 その日は、言い合いで疲れたのか忘れてしまいたかったのか分からないが俺は無かった事にしたいが為に早めの就寝をした。


 俺がストーカーラブコメ未遂事件に巻き込まれてから数日、また藤木田との言い合いから一日が経った。

 藤木田とは普通に挨拶程度は出来ているし、仲違いという最悪の事態は避けられていた。お互いまだ違和感はあるのだろう、今日の休み時間に限っては藤木田は自席に座ったままだった。

 そんな中、教卓の周りに群がる陽キャの田辺が昼休みにとある話をクラスに持ち掛けていた。


「というわけで俺たちからの提案なんだけど、高校入学してそろそろグループにみんな馴染んできたわけじゃん」


 いや、グループじゃない俺と藤木田に関してはデュオだけどな。

 それに俺と藤木田は元々中学三年から交流があったから馴染むとかそういう話ではない、それにこのクラスでは陰キャのテンプレと自称する俺だけども、俺と藤木田が呼称しているだけではあるが、陰王の黒川くんが存在する、彼の存在みんな忘れてる?


「それでグループじゃなくてクラスでのイベントやりてーなーって思ってんだよね、どう?」


 クラスはこの日に限り、わりと昼休みながら人が揃っていてこういった話し合いには向いている日だと感じた、中では陽キャ達からの誘いに乗り上位カースト入りを企む人間や、奴らと遊ぶのが怖いと感じている人間、そもそも自分の世界に閉じこもって一切話を聞かない人間。十人十色がという熟語がよく似合っているな、うん。


「んで、俺たちが主催なわけだけどみんなで、シェアハピしたいから投票でイベント内容決めようと思うんだけど、いくつか黒板に書いてみたからこれ以外で案があったら手上げてくんない?」


 シェアハピ……? なんだそれ、後で陽キャ辞典の藤木田に教えてもらおう。

 少し視界が悪く見ずらいが黒板に書いてあるのは


・ボーリング

・カラオケ

・スイーツカフェ貸し切りシェア

・小旅行(日帰り)

・カーリング

・リアル脱出ゲーム


「ちな、俺らはボーリングでいいかなーって思ってんだよね、隣のクラスの河西の家が近場のボー場にパイプあるらしくて、なんならボーリング終わった後にカラオケとかあるし、よくね?」


 コイツの喋り方なんかイラッとするな、俺個人の意見ならば、どれもまったく興味を惹かれないのが本音だ。

 それぞれの自宅で個々にアニメかラノベ鑑賞というのはどうだろう、キモイか、うん。

 俺が頭の中で悪態と自虐を吐いていると、ケバ子が田辺の発言を上書きするかのように立ち上がり自身の意見を言う。


「意見ある人は気軽に言ってね~、でもアタシ的にはスイーツ激推しなんだよね~」


 ケバ子から俺の事は見えていないが、ケバ子を見るとあの鬼のような形相と剣幕がトラウマになっていて脳と眼球が拒否反応を起こして見えてはいないだろうが、目を逸らしてしまう……悔しい!

 そもそも俺じゃなくたってお前らに気軽に意見なんか言えねーだろ、人数と陽キャのKIZUNAパワーで押し切られるに決まっているだろ。

 分かってないのに言ってるならば、分かってる奴よりタチが悪い。


「他に意見がねーならとりあえずボーリングで決まりでいいべ?」


 意見聞く気ねーだろコイツ……短じけえよ。


「後、場所抑えるのに人数確定しなきゃならんから、参加者はグループチャットに名前書いといてー」


 はい、出ました、グループチャット。

 あるとは薄々気付いていた、というより無いのが今どきおかしいくらいだ。


 しかし、俺や藤木田はそのグループチャットに存在していないのだ。

 おかしいな。クラスに、いないものは一人でいいはずなのにな、おかしいなー。


「大吉、グループチャットに入ってない人もいるけど、そこはどうしたらいいかな?」


 流石エンジェルの笠木、誰にでも優しい、気配りが上手。

 しかしだ、五月にもなってグループチャットに入ってない奴、誘われていない奴はそもそもクラスの催し物とか《すごい一体感を感じる》みたいなノリ苦手なのではないか?


 というか俺は嫌いだ。


「あーそうだな、冴えてんじゃん」


 田辺がそう言いながら笠木の肩をポンポンする様を見て殺意の波動に目覚めそうになった。


「んじゃさーグループチャット入ってない奴、手あげろー」


 コイツ本当にヤヴァイ。

 本人に悪気はないのは分かる、田辺はバカだからだ。

 悪気は無い事もあって田辺は純粋なのだ、田辺に文句を言うのは年端もいかない子供を怒鳴りつける行為と変わらない。

 しかし、田辺の発言は陰キャにとっての悪手なのだ、彼らは目立つ行為を嫌う傾向がある。


 グループチャットに入っていないのは陰キャと言っても過言ではない、またグループチャットに入っていない存在を普通の感性ならば……。

《友達のいないヤツ》《素直に陰キャ》《浮いている奴》と判断するのだ。


 入学して同クラスになって一ヶ月以上経過しているから皆分かっているのだ、誰が陰キャであるかなんて事くらい。

 しかし、陰キャにだってプライドくらいは存在する。

 だから田辺の発言で俺たちは動けないのだ。


 田辺の発言を陰訳すると


「晒し首にされたい奴は手上げろ!」


 まるで処刑宣告のように捉えてもいいくらいだ、日本刀の切っ先を眼前に突きつけられている状態、脳内でどうやって回避するかを、それぞれが試行錯誤している状態だろう。

 ちなみに俺は回避方法を思いついている、というより昼休みにこの話し合いが行われた事が功を制したのだ、俺は既にフェイクスリーピングモードを発動している。


 よほどの事が無い限り誰も俺を起こさないし触れられない、ATフィールド万歳!

 ただ、この状態では藤木田の方向が見えないのがネックだ、助けてやりたいのは山々だが、いかんせん俺は自分が大事だからな、お前の頭脳ならこの場を切り抜ける事は可能なはずさ!


「あっ僕グループチャット入っていないです、よかったら誘ってもらってもいいですか?」


 え?

 嘘だろ!?

 今の声は……。

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