幕間:バイトは短し働けよ乙女
「綾ちゃん、悪いけど明日一人で回してくんない?」
「ゲッ! マジですか? 明日土曜なんですけど……」
まだ、このバイト初めて三ヶ月も経ってないんですけど……しかし、こういったバイトの求人で学生を雇ってくれる場所なんて滅多に無いからなー、休みとか融通利かせてもらってんし断れないなー。
初めてのバイトで知んないけど、どこもこーゆう風に学生というのは社会で弱い立場なんかな?
「今度の土日休み出すからさ! マジで頼むわ!」
「それなら……分かりました、てか最近山本先輩見ないんすけどあの人、入れたり出来ないんですか?」
「あーアイツなら辞めた」
なんとなく察しは付いてたけど、新人の時にアタシの担当だった先輩はいつの間にか辞めていた。結構口説かれてウザかったから居ない方が良いけど、こういう時に猫の手も借りたいって言葉を使うんだろうなー。
一人そんな事を思っているとアイツもアタシと同じ状況ならそーゆう事言いそうだと笑ってしまう。
それにしても社会ってアタシが思ってるよりも軽いのかも知んない、もっとガチガチかと思ってたのにポンポン人が入っては辞めてと目まぐるしく環境が変わる。
ただ、アタシはやっぱり簡単に仕事を辞めたりとか出来ない事を諦めたりはしたくないなー。別に今の業界で将来食べていくって決めてるわけじゃないけど、責任感って人を育てると思うし役に立たない事は無いんじゃないかなと思う。
アイツだったらアタシと違って『責任感? 有る無しで答えるなら無い方がいい、仕事にやりがいとか責任とか反吐が出る、と言うより働かずに金を得る方法をだな――』とか言いそう。
ぶっちゃけ現実見ろって話だけど、あーゆうタイプって口では文句言うけど、奥さんとか出来たら尻に敷かれながらもちゃんと働くタイプだと思うし、なんだかんだ困ってる人を助けたりしちゃうから上手くやっていけそう。
てか、付き合っても無いのに結婚の事、想像しちゃうとかアタシヤバくない!? 誰に聞かれてるわけでもないのに身体が熱くなってきてるのが分かるし……。
バイトに集中! 仕事してお金貰ってるんだから、でも頭から抜けきらずにイメージが鮮明になってく。
今は小さいけどその内それなりにタッパも伸びると思うし、伸びなくてもアタシとしては全然構わないしスーツだってアタシが似合うの絶対探してくるし!
いやいや! だから何でアタシがアイツと結婚する流れになってんの!? 別に結婚したくないとかそーゆうんじゃなくて段階ってのがさ……いや、誰に言い訳してんのアタシ!?
初恋ってわけじゃないし……ここまで恋について悩むのは初めてかもしんないのは、うん。
まぁ、誰とも付き合った事無いんだけど、カップルで店に来るお客さんを見ると羨ましいなーって思ったり、何か店内でキスし始めたりと頭の悪そうなカップルもいるけど……どんなカップルでもアタシには輝いて見える。
アイツだったらこう言うんだろうなー、『隣の芝生は青く見える、だがその芝生を知ってしまえば大した事は無く落胆する、だから最初から求めない方が効率がいい』
自分の脳内で再生して再度笑ってしまう、何かに付けて卑屈を込めた屁理屈を言うアイツの頭を軽く叩く自分の姿も想像しちゃう。
そんでビビったようなリアクションしながら、また屁理屈を捏ねてアタシを困らせるか必死に意見を撤回するように謝りだすアイツ……やっぱりいいなーって思う。
よし、じゃあ休みはここまで! 仕事、仕事!
売れ残った水着類や夏服に割引の札を取り付けながら、返品できる商品は回収して段ボールに詰めていき、今日搬入した段ボールから秋用の服を見て、そういえば夏も終わりだと実感する。
そういえば、アイツは服にあまり興味無さそうだったけど春服を秋服に流用してそう、流用出来ない事は無いけど、春用より多少生地が厚かったり季節感に合わせたカラーとかあるけど絶対知んない。
ていうか黒の服しか持ってなさそう、陰キャだし。アイツはバイトしてないからお金あまり無いだろうし今度何かプレゼントしたら喜ぶかな? でも興味無い物プレゼントしたり付き合っても無い女子からプレゼントって重くない?
秋だと、重要な事って特に無いけどクリスマスとか大吉とか圭太辺りが何か開くだろうし、乗っかってプレゼント出来ないかなー?
アタシらの地域は冬が長いから、冬服とかプレゼントした方が長く着てもらえるかなー?
いや……いやいや! 数分前に切り替えてるのに何でまたアイツの事考えてんのさ! 病気じゃんアタシ! でも自制が利かないくらい好きなんだろうなー、ここはもう否定出来ない。
「綾ちゃん……もしかして具合悪い?」
「え!? いや全然そんな事は……無いですけど……」
流石に仕事しなさ過ぎだったろうか? 店長の事だから注意じゃ無く心配だろうけど、申し訳なくなる。
「いや、絶対熱あるし……今日は上がっていいよ、明日の事も他の店舗にヘルプ頼むよ」
「いえ、大丈夫ですって! ホントに!」
「その顔で言われても……スゲー顔真っ赤なんだよね、とりあえず今日は上がろっか?」
「へぁ!?」




