変夏と断罪
二章のメインラストです。
ケバ子との夏祭りを過ごし一時間程経過した頃にタイミングは訪れた。
盛り上がりを見せる中央会場を通り過ぎ、ストレートに端へ移動すると俺と同じような考えを持つ男女が目立つようになってきていた。人混みを避けるというより邪魔が入らない場所である事と雰囲気という要素を加味したいが為の行動だ。
「田中……夏休み中にやらなくちゃいけない事があるって言っただろ?」
「うん……」
ケバ子も別に鈍感な訳ではない、俺の意図と読めている事は俺も分かっている。そしてそれを拒絶しないからこそ、流れに乗るように俺に付いてきた。
「そ、それを今からしようと思うんだが?」
初めての経験から素でドモってしまうし疑問形になってしまった、恥ずかしい。
しかし考えようによっては今より恥ずかしい事をするのだ、ここで引き下がるわけにはいかない。
「最後までアンタらしくて安心した、今日は妙に男らしい感じで何か違和感凄かったけど」
ケバ子は先ほどからの緊張が解けたのかいつものように笑っていた。
その笑顔を濁らせるわけにはいかないし、俺が好きだった笠木の事も救える。
どうだ? ハッピーエンドでしかないだろ? これも青春ラブコメの形としては上々だろ?
藤木田は何て怒るだろうか? 黒川もあれだけ言っておきながら自分自身も結局トゥルーエンドには到達出来なかった俺は蔑むのだろうか?
笠木は俺を軽蔑するだろうか? ケバ子は本当に喜んでくれるだろうか?
俺は俺の事を赦してくれるのだろうか?
どう考えたって、堂々巡りの日々になるしかない。
俺の青春ラブコメの終わり方は俺が決める。
俺は一歩踏み出しケバ子に真正面から近づく。ケバ子は身体を少し震わせながらも俺を待つ。
エピローグまであと少し……。
俺とケバ子の空間を裂き、電子音は存在を主張するように振動と着信音を震わせる。
「あっ……ご、ごめん!」
「いや、出ていい。緊急の要件だったら困るだろうし」
運がいいと自負していたが、どうやら運に恵まれなかったのか俺のタイミングは完全にケバ子のスマホによって殺された。
しかし……結局のところタイミングを失っただけで、結末は変わらない。
「うん……はぁ!? テンパらなくていいから! そこで待ってて!」
本当に緊急事態でも発生したのだろうか? 最後の最後で俺は何かミスをしたのだろうか?
「木立! ホントにごめん! 雪が迷子になっちゃったらしくてアイツらともはぐれちゃったみたいでアタシ行かなくちゃ! 今度はちゃんと聞くから! ホントにごめん!」
「お、おい!」
そう言ってケバ子は俺の返答も聞かずに、元来た道を引き返していく。
タイミングが悪いのか、運が悪いのか、覚悟を決めた俺の頭の熱は徐々に冷めていく。
後方から俺の名前を呼ばれる。
「ねぇ、木立君」
驚いて俺が振り向くと、青いアネモネを散りばめられた浴衣姿のヒロインは俺の嫌いな視線を向けていた。
「は? 笠木……?」
頭の処理が追い付かないまま俺への距離を詰めてくる笠木に俺は得体の知れない恐怖を感じながらも動けずにいた。
「私はそんなに頼りなかった?」
何の話をしている?
「私は、必要じゃないの?」
あぁ、そうか。
「共犯者って体のいい言葉を使って! 騙してッッ!」
俺は……。
「私はそんな事をしてなんて頼んでない!」
「違う……俺は、俺は」
「綾香の気持ちを踏みにじって! 私の信頼を利用して!」
「違う! 笠木、俺は……」
ダメだ、言葉が出ない、何を言っても届かない。
俺は、また間違えてしまったんだ。
「木立君は、ヒーローにでもなったつもりだったのかな?」
最後まで見ていただきありがとうございました。
次はエピローグなので短しでし!
これはブクマ減るなぁと思いながら書きました;w;




