変夏と大罪人
エピローグを抜かすと次の次で二章が終わりですが、よろしければ見ていただけると幸いマンです!!
夏祭りの会場はまるで俺にとっての地獄を体現するかの如く、人に溢れていた。俺は潔癖というわけではないが、このジメッとした暑さの中で人と肌が触れ合うだけで気持ち悪いと思う。
黙って夏祭り会場の端で地蔵に徹していればいいのに、ポテトやフランクフルトといったジャンクフードに目を奪われてしまった結果、地獄だ。
夏祭りなんて小学生以来だ、多少なり浮かれてしまう気持ちくらいはあっていいだろ。
そういえば、あの時も結局出店に並んで必死の思いでポテトを買えたと思ったら、一緒に来ていた友人が神隠しにあったようにいなくなっていた。
まさかオカルトがこの世に実在するとは……。
予定時刻にはなっているが笠木からの連絡はまだ来ていないという事はタイミングが悪いのだろう、俺は先ほど地獄から生還した戦利品であるフランクフルトを食べながら会場の端から賑わう中央の会場を眺める、この夏祭りはビアガーデンの要素も担っている為か、時折鼻に着くビールの臭いに俺は顔を顰めていると笠木からの連絡がきた。
俺はフランクフルトの棒をゴミ箱へ放り投げ移動を開始する。足取りは重いし人混みは気持ち悪いし、なんなら吐き気までする。
しかし、今日のタイミングを逃せば次はいつになる? そして俺にとっても悪い結果にはならないだろう。
ふと頭には俺が何度も読み返しているライトノベルの主人公が浮かぶ、彼は自己犠牲型の主人公だ。
そんな現実には存在しない架空の主人公に魅せられた俺は憧れ、主人公になると決めたんだ。
しかし自己犠牲型と言うのは語弊がある……自己破滅型というのはどうだろうか?
犠牲と言うよりは、これまでの俺を否定する行動だ、破滅に近いし間違っていないだろ。
それに破滅の後には再生が待っているんだから……。
俺は重い足取りを無理やり前に歩かせる、笠木達のいる場所まで思考回路は既に機能していない。
頭に思い描いた通りに言葉を選ぶだけ。
大丈夫、俺の青春ラブコメはまちがっていない。
込み具合が酷い中央の会場から俺が居た場所と真逆の方、暗い背景に映えるように、この街のシンボルとも言える塔にはデジタルの時計が燦燦と明かりを灯していた。
その下には、笠木を含む陽キャご一行が談笑しているであろう様子が伺えた。
笠木は一度俺の方へ顔を向けるが、気付かない素振りをして談笑を続けている。
俺は笠木達の元まで歩み続ける。
そして笠木に引き続きケバ子が俺の存在に気付く。
「あれ? アンタ今日祭り来ないんじゃなかったの?」
「奇遇だな、本来は来る予定は無かったけど、夏休み中にやり残した事があったから来たんだ」
陽キャご一行の田辺はケバ子の気持ちを知っている為、ケバ子を囃し立てる。ケバ子はそんな田辺に照れながらも満更じゃなさそうな表情をしている。
そして俺の共犯者である笠木は、この先の行動を知らない事もあり戸惑っている。
大方予想通りに事は進んでいく。
「田中……その……」
「何さ?」
ここで第二段階だ。
「祭り……一緒に回ってくれないか?」
「はぁ? べ、別にいいけど……」
俺とケバ子のやり取りに陽キャご一行は祭りの熱狂もあってか更に熱を強めるように囃し立ててくる。
そうだ、これでいい。だからこの日を選んだんだ。
「木立くん!」
笠木も俺がこれから行う事を察したらしく、空気も読まずに俺に呼びかける。
「悪いな笠木……田中は借りてく」
本当に悪いな、騙すような事をしてしまった。
でも大丈夫だ。
ハッピーエンドくらいにはなるから、そんな目を俺に向けるな、痛い。
「じゃあアタシ行ってくるから、また後でね、雪」
「……うん」
俺は笠木含む陽キャ軍団に背を向け、ケバ子を奪い去るように祭りの中央の会場へと進んでいく。
ケバ子と歩いていると、恒例の如く後頭部を軽く小突かれる。
「殴られると脳細胞が減るから止めてもらいたい」
「誘ってくれたのは嬉しい……けど! 場所を選びなよ! 恥ずかしかったじゃん……」
選んだからからこそ、ギャラリーが居る状況で声を掛けたんだ、周りがちゃんと認識して盛り上げてくれるように、言えないけども。
「それは悪い、ただどうしても田中と祭りを歩きたくて……焦ったというか、うん」
「へぇ……そっか、アンタにしちゃかなり大胆だったけどね、でもいい傾向の変化なんじゃない?」
いい変化……そうなるといいとしか今の俺には言えない。
ケバ子と出店を周り、タイミングを計らう。
なるべく人混みの少ない、邪魔されない場所へ誘導するように……。
俺はハッピーエンドが欲しいだけなんだ。
俺はまちがっていない。
最後まで見ていただきありがとうございました!;w;w;




