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変夏と友情

今日の更新分です;w;みていただけたら幸いです!

また少しづつですがブクマが増えてきてありがたいでございます><

「それじゃあ、私は木立くんに連絡するだけでいいの?」

「そうなるな、俺は笠木の連絡次第で動く事になる」


 共犯者会議という大それた名称となっているが、表向きの作戦自体は単純であり、俺は笠木からのメッセージを待つだけだ、笠木も予定時刻の時にいる現在地を俺に伝えるだけだ。


「結局木立くんが何をするか分からないんだけど……」


 笠木は不安そうな表情で俺の目を見つめてくる。


「悪いな、笠木に伝えると恐らく作戦は失敗する」

「それなら仕方ないけど……木立くんは私の事、信用してる?」


 信用しているに決まっている。信用しているからこそ笠木には伝えられないのは事実だ。

 笠木の事だから疑っているわけじゃないのだろうが腑に落ちない物言いである事は確かだ。

 しかし、あまりに話を長引かせて不安を煽るような事と、俺が口を滑らしかねない事から用件だけ伝えて切り上げたい。


「あぁ、笠木がどういう人間か知っている方だと自負している、笠木こそ俺がどういう人間かなんて知っているだろ?」

「うん……」


 笠木が俺に抱いているであろう信用を逆に利用する。宿泊研修での行動が、この局面で役に立つとは皮肉な物だ。

 この話題を出してしまえば笠木はこれ以上、俺への追及は不可能だ。


「それじゃあ、会議はここで終了だ」


 言葉と同時に俺は腰を上げ伝票を手にカウンターまで歩き出す。


「木立くん!」

「どうした?」


 何か言い足りないのか笠木は俺の背中へ向けて声を掛ける。俺は笠木の方へ振り向かずに応答する。

 一呼吸置いたのだろうか、それよりも静寂が長く感じられた後に笠木の言葉が聞こえる。


「アネモネの花言葉って知ってる?」


 笠木にしては脈絡の無い会話をし始める事に驚きつつも俺の視界には既に写っていない笠木の浴衣姿をイメージするが、何が言いたいのか俺には分からない。


「アネモネの存在自体知らなかったに近いんだ、もちろん知らんな」


 相手の表情が見えない会話は楽でいい、相手の本意を読み取る必要も無ければ、俺の本心も読み取られる事も無い。

 人と接するのは今でも苦手だ。向いていないと思うし努力でどうこうする次元を超えている。

 今回に限っては俺を信じて待ってもらう他ないのだ。


 その後、笠木からの言葉は聞こえないまま俺はホテルを後にした。

 ホテルから外へ出て青天井を眺める。俺が起きた時間よりも太陽は熱を潜めていて、本日の最高気温は俺がホテルに滞在していた間に過ぎ去っていったらしい、空気が読めるなんて俺には無い能力だ。

 もしかして太陽って俺よりもコミュニケーション能力が高いのではないだろうか?


 脳内で一人皮肉めいた冗談を溢しても反応は無い。俺はスマホを取り出し藤木田に連絡を取る事にした。

 理由は……特にない、時間の都合という事にしておこう。


 連絡して一時間も経たずに藤木田は改札から浴衣姿で俺の方へと歩み寄ってくる。


「木立氏! お待たせしましたぞ!」


 こういう気分の時に藤木田の顔を見ると気が楽になる。それにしても爆発している髪型をどうにかしたら文豪みたいな雰囲気を醸し出せるのではないだろうか? と藤木田を見て一人考えを巡らせる。


「急に呼び出したのは俺だ、気にするな、黒川はどうした?」

「黒川氏は、本日クラウドさんと密会しておりますですぞッッ!」


 密会という言葉は正しいのだろうか? 少なくとも藤木田に報告している時点で密の部分は無いに等しいのだが……。

 というか、今回も俺聞いてないんだけど。俺に対して緘口令でも発令してるの? ほうれんそうを忘れないでほしい。


「どうせ夜は黒川と夏祭り行くんだからいいだろ?」


 藤木田は悔しそうな顔を変えないまま、右手で拳を握り締めて怒りを表していた。


「某は朝から夜まで遊びたかったのですぞ!? 女狐でございますぞ!」


 黒川といい、藤木田といい、どうしてコイツらはここまで勘違いされそうな台詞を吐けるのだろう、それとも俺が意識しすぎなだけなのか?

 

「お前にもこの前、青春ラブコメが訪れただろ? それとも何、早まった行動しちゃってATフィールドでも展開されたのか?」

「早まったも何も、あれ以来指が何故か動かなくて連絡すら出来ておりませんぞ……」


 そういう物なのだろうか? 俺に限っては笠木の方から連絡が来たので藤木田の立場になって考える事は出来ない。


「まぁ俺も笠木と言葉を交わすまでに一ヶ月以上掛かってるし人の事は言えないがな」

「それで木立氏は用事があるのでは無かったのですか? 夏祭りの誘いを断られたので何か用事があると踏んでおりましたが……」

「夕方以降だからな、この時間は暇だったんだよ」


 これに関しては嘘は言っていないから、すんなり言葉が出るな。

 しかし、藤木田は疑惑を俺にぶつけてきた。


「怪しいですな……」

「何がだよ?」

「木立氏は陰キャのテンプレでございますのに理由もなく外出するのが某にとっては有り得ない行動に思えましてな」

「バカ言え、いくら陰キャの俺でも一切外出しないなんて事はない、ソシャゲの最上位レアと同等程度の確率くらいはある」

「……何か隠しておりませぬか?」

「隠すのはPCのフォルダくらいで事足りる」


 どれだけ変化を遂げても妙な部分に鋭いのは相変わらずだな。

 藤木田だけじゃなく黒川も今のように外出なんてしていなかったろう、そして俺も青春ラブコメを成熟させる為に行動を起こした。


 あの時もそうだった、一人で完結していただけの俺の考えを取っ払って真正面から向き合って話してくれたのは藤木田だった。

 今回に限っては藤木田自身が知らない事ではあるが、結果的に先ほどまで暗かった俺の気分も少しマシになっているのを感じていた。

 恥ずかしいし負けた気分になるから言わないが、俺は藤木田には感謝しても足りないくらいだ。


 ただ……今回の件に関しては俺の自業自得だ、見ない振りをしてきたツケを払う時期がやってきた、ただそれだけ。

 手助けは必要ない、ぬるま湯に浸りたい気分も程々に俺は重い腰を上げる時がきたのだ。


「そんじゃ、用事でも片づけにいくわ」

「なんと!? 某は先ほど来たばかりですぞ! 何のために呼んだのですかな!?」


 口を開けて抗議する藤木田に無理やりではない笑顔で答えようじゃないか。


「用がなくても他愛もない会話をするのが友人の証だろ?」

最後まで見ていただきありがとうございました!


私は、至る所に誰も分からないような複線もどきを落としていくのが好きなのですが、ここ最近の三話は分かりやすく配置させていただきました、今回の最後の台詞も二章の題材の変夏=変化に合わせて配置させていただきました、一章から読んでくださっているお方なら、見覚えのある台詞かと思いますです!


二章の佳境になりますが楽しんでいただけたら幸いでございますですよ!

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