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変夏とイカロス

今日は昨日より長めの更新となります;w;

昨日から二章最終イベント開催なのです;w;

 深夜に考え事をしていた為か、陰キャの俺には今まで味わった事の無いストレスが原因か分からないが、夏祭り当日の朝、俺は昼過ぎに目を覚ました。

 気温は非常に高いがカーテンの揺れから風の強さに関しては撫でるくらいだろうと気象予報士の真似事を脳内でしてみる。汗で背中にへばりつくシャツが気持ち悪くて仕方がない。

 シャワー室へ移動する前に、スマホを確認すると、藤木田と黒川からのメッセージの他に笠木からのメッセージ。

 そして通知は切ってあった為、分からなかったがグループチャットでも夏祭りの話題で盛り上がっている文面が流れてきていた。

 俺はその中で笠木からのメッセージのみを開封して予定に間違いが無い事を確認してスマホをベッドに放り投げてシャワーを浴びに行く。


 温水プールに近い温度に調節してノズルから流れる水で寝癖の付いた髪を掻き上げるように濡らしていく。

 気を引き締めるようにシャワーを浴びて汗は流せど、俺の脳内の毒素までは洗い流せない。今日という日に関してはセーブ&ロードをこれほどまでに欲した日は無い。


 願わくば、青春の隅っこの方にいた五月前半まで俺を戻してくれないだろうか……?

 現実にそんな便利機能は無いのは分かっているし宿泊研修どころか、これまでの俺の努力を否定する考えだと気付き自分自身に腹が立つ。


 そして……戻したとしても俺は同じ行動をするだろう。

 ヒロインに魅せられてヒーローに憧れて、君の主人公になりたくて、柄にもなく青春の隅っこの方から青春のど真ん中にいる笠木の元へ走る。

 自分の事なんだ、よく分かっている。



 ――だったら迷うな。


 俺は自分に言い聞かせるように、何度も何度も脳内で本心を殺し続ける。これが正しいのか正しくないのかは俺では分からない。

 まったくを持って誠実さの欠片も無い。不誠実にも程がある。

 ただひたすらに、覚悟を決めるように俺は雨に濡れた樹木のように立ち尽くしていた。


 シャワーを終えても今日に限っては時計の進みが遅く感じられて俺はベッドに放り投げたスマホを手に取る。

 藤木田と黒川のメッセージは文面こそ違えど内容は同一であり、夏祭りへの誘いであった。

 今日メッセージが届いている事で予想はしていたし、なんなら今日は藤木田達と過ごしたいまである。

 生憎、今日に限っては同行する事は叶わない願いだった、これまでの俺の行動から藤木田と黒川には悟られることはないだろうと高を括り、夏祭りに同行出来ないといった内容のメッセージを送った。


 時計を再度確認しても、秒針は一向に大きく進んでいないが俺は予定よりも早く家を出る事にした。

 どちらにせよ、相手の性格を考えると早く着くのだろうから、早すぎるという訳ではないだろうと考える事にした。


 自宅付近は住宅街の為、見ない格好だったが、駅付近に到着すると浴衣姿の男女が歩いている姿を目にする事が多くなった、というより人混みが多い。

 これまでの夏休みは、部屋に引き籠る事しかしてこなかったから知らなかったが、こんなに人が多いなんて勘弁してほしいところだ。


 俺はいつも通りの駅前付近にあるカフェではなく、人目に付きづらいホテルへと移動する。

 ホテルの一階はオープンスペースとなっており、宿泊客でなくとも併設されている飲食店の利用が可能となっている。

 どうやら夏祭りの為に、宿泊する客が多いのかホテル内でも浴衣姿の人達が目に付く、俺は一瞥すると目的の店へ移動する。


 礼節の弁えたホテルマンが注文を伺ってくるので、雰囲気に呑まれて好きではないブラックコーヒーなんかを注文してしまう。

 程なくして俺に注文を伺ったホテルマンがブラックコーヒーを丁寧に運んでくる。

 これから苦汁を味わう事になるんだから、今くらい甘いのを頼めば良かったと、どこぞの青春ラブコメの主人公みたいな事を考えながら待ち合わせをしている相手を待つ。


 十数分待ったところで、目的の時間まで後に十分程度。

 カップの氷が徐々に解けてブラックコーヒーの苦みを少し薄くした頃に待ち人は訪れた。


 先ほどまで目にした人々のように浴衣に身を包んだ彼女は、スマホを片手にキョロキョロしながら俺の姿を見つけると、慌てたように小走りで近づいてくる。

 俺の決心が鈍りそうなくらいに彼女の性格を表したような淡い青色の浴衣に目を奪われてしまう。


「着いてるなら言ってくれればいいのに! ごめんね、待たせちゃったよね?」

「俺が勝手に早く着いただけだし急かすのも悪いかな……と思いましてですね……」


 笠木は何か気に入らなかったのか、少しだけムッとした表情をして返答をしてくる。


「しばらく会わない間に、また言葉遣い戻りかけてる……」


 自分でも言った後に思ったが口から出てしまった物は仕方がない、陰キャって言うのは面倒な生き物なのだ、うん。

 しかし、この弁明は恰好が付かないと考えた結果、俺は話を逸らす事にした。


「悪い、その……浴衣似合ってるな」


 笠木は先ほどまでムッとしていた表情を次はパッと明るくさせて腕を広げて浴衣を見せるようなポーズを取る。


「自分でも結構気に入ってるんだぁ、この柄と色合いの浴衣ってあまり無くて……」

「そうなのか、その花はなんて名前なんだ? 疎くて悪い」


 笠木は返答も無く俺の目を見つめてくる、言葉遣いは慣れても、そういうのだけは慣れないから咄嗟に目を逸らしてしまう。

 話を聞いていないように思えた笠木だったが、遅れて返答をしてくるのだった。


「これはアネモネ! 有名かと思ったけど男子はやっぱり馴染み無いかな?」

「名前だけなら聞いた事があるな、曲名とか歌詞にも使われたりするくらいだから俺が無知なだけだな」

「そんな事ないのに……それじゃ早いけど始めよっか?」

「そうだな、共犯者としての会議を始めよう」


 俺は嘘を吐く。

 不誠実に、詭弁を口から並べる。

 俺を慕う彼女を駒にするかのように俺は堕ちていく。

最後まで見ていただけてありがとうござました!(*´ω`*)

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