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変夏に呼応するように

今日、二本にしようと思いましたが三本になりました;w; お願いしますです!

「戦略的撤退をした俺が戻ってきたぞ」


 藤木田は俺が長い事トイレに逃げていたと思ったのかご立腹な様子で近づいてくる。


「あまりに遅いので某を置いて帰宅したのかと考えておりましたぞ!」


 藤木田の目には俺がそんな薄情な奴に見えているのか、確かに黒川を尾行した際は扱いに困って置いて帰った前科がある事から仕方ないかと思っているが、そうではない。


「というわけで優秀なコミュニケーション能力を発揮した俺が、騎士王にアポイントを取ってきたぞ、社畜になる気はないが営業能力も人並にありそうだと勘違いしてしまっている」

「というわけで。と言われまして……え?」


 予想していた反応だが、藤木田は案の定驚いた表情を浮かべていた。陰キャの俺がまさか行動をしていると思わなかったのだろう。

 まぁ陰キャとして、あの一人ぼっちの光景を目にすると心が痛むし、何より藤木田を連れて行けば一石二鳥と考えた事だ。

 どう転ぶかは当人次第だから知らないけど役目は果たしただろう。


「まぁ言葉通りの意味だ、撮影許可は下り――」


 俺が自慢げに話していると藤木田は勘違いされそうな距離まで近づいてきて俺の両手をガシッと掴む。


「木立氏! 某は……某は木立氏がやれば出来る男と思っておりましたぞ!」

「俺の親みたいな台詞を言うな」


 そう言われ続けた結果、自他共に求める陰キャとして君臨しているのだけれども。それより、その台詞をこういう場面で使われると藤木田が現金な奴に見えて仕方がない。


「それはそうと、どんな方でしたか? 話しやすかったですかな?」

「……いや口は悪いしコスプレは雑だし、目力強いしで正直怖かったな」


 どうせ騎士王自体が偽るつもりも無いだろうから今のうちにダメージを軽減しておくべきだろう。お世辞にも口が良いとは言えないしな。


「ふむ……コスプレイヤーと言うジャンルにしては珍しいタイプですな」

「あぁ、尖ってる人種だったからなもちろん他に人はいない。撮影時間は無制限みたいな物だ、存分に楽しめ」

「木立氏はやはり、某が思ってる通りで安心しましたぞ」


 藤木田が何を言いたいか、頭では理解出来たが俺は気恥ずかしさもあり、触れずに騎士王の元へ藤木田を案内した。

 移動中も藤木田はテンションが上がりつつも、一目惚れした騎士王への思いを馳せているのか照れ臭そうにしていた。

 遠目に見ても相変わらず騎士王は一人、つまらなさそうにパイプ椅子へ腰掛けていたが、俺の姿に気付くと椅子から立ち上がり腕組をし始めた。


「マジに連れてきたのな……というかソイツ……」

「本当だって言ったろ、まぁ後は先ほどの通り憐みでの行動か、そうじゃないかはお前が判断してくれ」


「あ、あ、あ、あの初めまして! 某、藤木田と申します!」


 緊張しているのか藤木田はドモり音量調節も出来ていないのか、大声で挨拶をし始める。


「あ、うん……それでウチの事撮りたい……の?」


 半信半疑なのか、騎士王も先ほどとは打って変わり態度が若干大人しい。


「は、はい! よろしければ一枚……いや数十枚撮らせていただけないかと!」


 ドモってるのに随分と横着な要求だ、実に陰キャらしい物言いに好感が持てる、流石だ。

 騎士王も藤木田の要求には驚いたのか、引いたのかは知らないが、悩みつつ間を開けながら恐る恐る口を開く。


「……暇だったし好きなだけ撮っていい、ポーズの指定とかは?」

「ポーズですかな?」


 藤木田も素人だからポーズと言われても分からないのだろう、もちろん俺も分からない。


「あーすまん、コイツもこういうイベント初参戦だからポーズとかよく分からなくて、お任せって大丈夫か?」


 騎士王は目線を斜め上に向けて考える素振りをしながらも、今日一番の笑顔を見せた。


「仕方ねぇな! じゃあブレさせないように撮れよな!」


 藤木田はいつになく真剣且つ、締まりの悪い顔で騎士王が撮るポーズに感想を言いながらスマホのカメラで撮影を開始していた。

 もちろん撮られている騎士王も、つまらなそうな表情では無く口調とは裏腹に数々のレパートリーを披露して藤木田の興味を惹きつけていた。

 

 数十枚撮影したのだろうか、騎士王も藤木田の撮った写真を一緒にチェックしポーズの改善をしていた。俺はその様子を見ながら、やはり青春ラブコメはこうでなくちゃいけないと俺の事じゃないが楽しそうに笑う両者を見て内心満足するのであった。


「オメーは撮らねぇのか?」


 藤木田とチェックを行っていたはずの騎士王は俺の真ん前に腕を組みながら突っ立ていた。

 身長は小さいのに態度の偉そうなところや口調の強さは変わらない。

 藤木田はと言うとスマホを見つめながらニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべていた。


「いや、俺は興味無いからいい」

「へぇ……」


 撮られている時の表情とは変わり、少し不機嫌そうになるが興味がないものは仕方ないじゃないか。 


「じゃあ、オメーが被写体になれ」

「え? 被写体ってなんだよ」

「知らねぇならいい、ほら! 椅子から立て!」


 騎士王に急かされるように俺は椅子から立つ、正直歩き回って腰が痛いから立つのも苦痛だ。

 そう思っていると騎士王は俺の隣に来て、手に持っていたエクスカリバーを自撮り棒のように扱いスマホで写真を撮り始める。


「どうよ、未来の人気コスプレイヤー様とのツーショット!」

「いきなり撮るな、お前絶対イン〇タに晒すタイプだろ、消去を希望する」


 騎士王は、悪戯に成功した悪ガキのような表情をしてスマホの写真を見せつけてくる。


「んな、炎上するような事するかよ、お、思い出だ!」


 あれ? 最近どっかで聞いたぞ。デジャブってやつか。

 俺の写真なんか特徴が無さ過ぎて晒上げられても一日で消化する自信があるからこれ以上の言及は避けるとして聞かなければならない事がある。


「それで、藤木田の表情は憐みを含んでたか?」

「……ま、まだ分かんない」


 あれだけいい表情をしていた藤木田の何を見てるんだコイツは……。

 目が腐っていると伝えてやろうと思い口を開こうとするが、騎士王は続いて答えるのだった。


「だから……だから次のコスイベでもう一度確かめるから来い! 強制だ、いいな?」

「あっはい、伝えておきます」


 ここで唐突に目力を発揮するの止めてもらいたい、俺の中の陰キャは繊細なんだ。泣いてしまうだろ。


「違う! 藤木田だけじゃなくて木立……オメーもだ!」


 何で俺もなんだよ、さっき興味無いって言ったろ。人の話聞いてる?

 それとも一昔前の難聴系主人公なの?


「ひぃっ! す、凄むなよ……陰キャの心はガラスより割れやすいんだからな」


 俺の話を聞いていない様子で騎士王は、一人ブツブツ考え事をしながら呟いていた。

 難聴系どころじゃなくただの暴君だろコイツ。


「思っていたよりも悪くないかも……」


 何の話してんだ、コスプレでの出来か? いやお前が思っているよりも雑だし良くはないだろ、怖いから言わないけど。


「確認終わりましたぞ! 第二ラウンド開催してよろしいですかな?」


 スマホと睨めっこしていた藤木田は作業が終わったのか、撮影会の第二弾を始めようとしていた。

 藤木田の声に待ってましたと言わんばかりに騎士王は反応し改良したポーズや本来の騎士王のポーズではない別のキャラクターのポーズを再現したりと大忙しであった。


 程なくして夕方にイベント終了のアナウンスが年代物のスピーカーから流れだす。

 アナウンスに伴い、各コスプレイヤーが退去準備、設営スタッフによる清掃等が始まっていた。


 それに伴い、撮影会を結局第三ラウンドまで行った藤木田は満足気に汗を手で拭っていた。

 また良客と判断したのか、騎士王は自身のSNSを開示し藤木田と連絡を取れるようにしていた。


「木立氏! 某は今日新しい青春の一ページを刻みつけましたぞ!」

「そりゃ良かったな、んで次の買い物はいつにするんだ?」


 藤木田は何の事を言っているのか分からない表情をしている、やはり言わなきゃダメだろうか……初めての経験だから恥ずかしさが有り得ないレベルだ。こんなに難しい事をよくもまぁ簡単そうにやるもんだ。


「どうせ、カメラ買いに行くんだろ? 付き合うって言ってんだよ」


 慣れない事は言うもんじゃない、絶対イジってくるぞコイツ……。


「……木立氏から某を誘うのは初めてですかな?」


 ニヤニヤしてやがる……だから嫌なんだよ! ほらイジれよ! 後から弱点見つけてやり返してやるから覚悟しろ!

 しかし藤木田は俺をイジりもせずにいつも通りのテンションで答えてくるのだった。


「察しの通りカメラを買いに行く予定が出来ましたので、それでは帰り道で決めましょうぞ!」


 こういう場面でイジられないと逆に恥ずかしくなってくる。イジってくれた方がマシだったかも知れない。こういった経験も人生には必要なのだろうと思い体温の高まりを抑えるように俺は無理やり納得させるのであった。


 夏休みは思った以上に足早に過ぎていく。様々な変化を遂げる周りに置いていかれないように俺も変化を遂げている。

 そして……。


 その速度に呼応するように俺も一段、また一段と処刑台を昇る。

最後まで見ていただきありがとうございました! 物凄い速度で投稿したのでキモオタフェスティバル編はこれで終わりますのです! 二章ラストが次回から始まります;w;

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