変夏と将来のビジョン
本日の更新分です!見ていただきありがとうございます!
楽しんでいただけたら幸い極まりないのです!
本日三話更新となります、多分合計で一万文字くらいです!
ドームへ入場し中央の広場まで移動するまでに二次元から出てきたような服装や髪をした女性とすれ違う。興味はないと言ってしまっていたが、物珍しさから視線はコスプレイヤーの方へ向いてしまう。
そしてこの人達は普段何をしている人なんだろう? と考えてしまう。有名でなければ職業として成立はしないし生計を立てるにしてもコスプレ一本は厳しいはずだ。
普段は会社員として働いていたり普通の大学生のように青春を謳歌している姿すら想像出来る。そして俺は笠木を思い出す。
笠木も今は陽キャの一員とはいえ、こういったアブノーマルとも捉えれる趣味があったりするのだろうか? 笠木の口からアニメや漫画の話は聞いた事が無いので可能性としては薄いが、笠木がコスプレなんかするって知った日には、俺は家電量販店で溜め込んだお年玉を全額レジへ叩きつけてハイスペックなカメラを購入する事だろう。
まぁ、何を考えようがエンディングは決まっている。
共犯者宣言をしたあの日から、俺の歩くルートは一本道だ。
そんな夏休み中にある最後のイベントを想像しつつも、俺はコスプレ会場兼物販販売が行われているドームの中央への入り口から中に入る。
ドーム中央は無機質の床ではなく人工ではあるが芝生の緑が鮮やかな印象を与えてくれていた。
物販販売や、少し音の割れたスピーカーから流れる係員の声、二次元から飛び出してきたような多種多様な人々。
どれもこれも俺が見た事のない景色で入り口で突っ立ってしまっていた。
すると後ろから、声を掛けられる。
「オメー邪魔くせぇんだけど、どけよ」
俺が入り口を塞いでいたのもあるが、強めなイントネーションで声を掛けられ驚いて振り向くと、二次元好きでは誰もが知っているような騎士が立っていた。
口調に品は無く騎士王としての振る舞いでは無いし、コスプレがまぁまぁ雑だし、何より身長が小さい事もあり騎士としては不合格と言える存在ではあるが俺を睨みつける目力が強い事もあり、俺は入り口の横に一歩移動して入り口を明け渡す。
「あ……っ! い、言われる前に行動しろやな、クソ陰キャ! 前髪長すぎて目見えてねぇのかよ!」
ミニ騎士王は俺の顔を見ると、何やら一瞬戸惑ったが荒々しい口調で追加の暴言を吐いて腰に携えているエクスカリバーの鞘を引きずり芝生にダメージを与えながらコスプレ会場の方へと歩いていく。
ツッコミどころ満載だけど、イキリ騎士王とかエクスカリバー抜けないだろ、あれ絶対贋作。俺が英雄王だったら今頃なんとかバビロンしてるぞ。
コスプレイヤー怖すぎ……。
その後、俺の弱メンタルを回復させようと、休憩用に設営されていたパイプ椅子に腰かけてボーッと会場を眺めていると俺の存在に気付いた黒川と藤木田が俺の方へ向かってくる姿が見えた。
何やら藤木田が俯いている、俺のように暴言でも吐かれたのだろうか?
「おう、クラウドさんへの挨拶は済ませたのか?」
「あぁ、やはり三次元でもウドンアタックは最高だ……コスチューム一つでもバランスが良くてな」
クラウドさんでは無くウドンアタックを褒めだすところを見ると夏休みも変わらずに黒川は鈍感系主人公としてのルートを突き進んでいるようであった。
「あぁ、クラウドさんは本当に不憫だなぁ……」
「ん? どうして今クラウドさんの話題が出るのだ?」
ダメだ、コイツ。俺が知る限り歴代二次元主人公の鈍感具合を通り越している。
「それより藤木田はどうしたんだ? 暴言を吐かれて落ち込んでいる時の俺と頭の角度が酷似しているんだが……」
「むしろ木立に何があったんだ?」
「俺の事はいい、既に事を終えた。それより藤木田は?」
「分からない、さっきまでは普通だったのだが……」
黒川も藤木田が気持ち悪くなった原因が分からないらしい。藤木田本人に聞いた方が早いだろう。
「おい、何で気持ち悪くなってんだ?」
「口下手な俺が言うのもなんだが……木立は言葉を選ぶべきだ」
藤木田は俯きながらも小声で喋りだす。
「……某」
そこで間を置くくらい重大な事なのだろうか? 俺と黒川は藤木田の言葉を黙って待っていた。
「男、藤木田正敏……生まれて初めての恋をしてしまったかもしれませぬ!」
藤木田が恋……? おかしいな、この藤木田はバグっている。俺が知る藤木田は、恋よりも友情を掲げていた俺以上の青春ジャンキーだったはずだ。
今日だって会場に辿り着いてはソロよりもパーティでの行動を所望するくらいに暑苦しい友情を体現していた。
「……暑さで頭でもやられたのか?」
「違いますぞ! 某……とあるコスプレイヤーに一目惚れしてしまったのですぞ」
なにやら最初はネタかと思ったが、違うらしい。藤木田の抱く感情が恋なのかどうかは確定していないが、何やら特別な感情を持ってしまった事は明らかだった。
「お前も男子高校生だしな……そういう時もあってもおかしくはないな」
「それで藤木田はどうしたい?」
俺の聞きたかった事を黒川が聞いてくれたおかげで俺のターンが省けた。
そう、結局どうしたいか? という話である。
「お、お近づきに……ですかな?」
普段は、はっきりと喋るのにモジモジして要領を得ない。
「具体的には?」
「えっと、その……この会場をきっかけにラ〇ンIDを交換して最初はお互いに距離感を掴み取れないながら徐々にグラスの氷が溶けだすかのように歩くようなはやさで距離を縮めていきまして、好きなアニメやラノベ、ゲームの話題を展開していきお互いの趣向を把握しつつも、触れていない分野の知識も教授し合う形で親睦を深めていき、某から相手の方に勇気を振り絞り遊びに行きませぬか? と連絡をした後に友人としてアニメショップ等に遊びに行くにつれ、友情以上の感情をお互いに意識しますが、それ以上の勇気は育っていなく平行線を続ける中、アニメやラノベのような緊急イベントに彼女が巻き込まれ某がその問題を解決して告白するという流れになりますが、付き合うというになりお互いが意識し始めて、付き合う前よりもギクシャクした雰囲気にはなりますが、それはそれで心地よくて、進行を深めて一緒の大学へ進学し、劇的ではありませぬが、一緒にキャンパスライフを送り、就職して一年から二年経過して早期に結婚を申し込んで皆に祝福されながら結婚して子宝に恵まれ――」
「きもちわる……」
演説を続ける藤木田の言葉を遮るように耐えられなくなった俺の心が素直な感想を言ってしまった。
藤木田の頭の中はどうなっているのだろう? この歳まで恋愛に疎い結果、拗らせてしまったのだろうか? 素直に気持ち悪い。そう思っていたら自然と口に出てしまっていた、そのくらい気持ち悪い。
「いや、俺は良いと思う」
俺とは反対に黒川は藤木田の誇大妄想を否定するではなく、賛同するように頷いていた。
これのどこに賛同する要素があったのだろうか? と俺は言いたいが、黒川の発言を続いて待つ事にした。
「将来のビジョンが明確だ」
いや、問題はそこじゃない。
ツッコんだら負けだと思うから何も言わないが、危険思想としか言いようがない。
相手がどんな人か知らないが、俺は人生で初めて顔の知らない他人の安否を心配する。
恋と言う文字が脳内辞典に入っていない藤木田をバグらせる相手がどんなのか気になってしまった。
「それで、どんなコスプレしてたんだ?」
藤木田は、コスプレ会場の方へ顔を向け再度俺と黒川の方へ顔を戻すと答えるのであった。
「青い甲冑を纏う騎士王でしたな、小さいながらもエクスカリバーを引きずる仕草も某の中で高得点でしたぞ!」
俺の親友がイキリ騎士王に恋をしてしまうなんて、俺は親友の恋を応援するべきなんだろうか? それとも止めるべきなのだろうか? どうしてもこうも夏は俺の望んでいない変化を提供してくるのだろう?
もういっそ、夏の暑さで頭が狂っていたエンドを所望したい。
最後まで見ていただきありがとうございました!;w;
明日も恐らく更新がありますので楽しんでいただけたら幸いでございますですよ!




