変夏と浄化されたギャル
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程なくしてバスは目的地であるプールへ到着する事となった。こういった場所には小学生の頃に来た記憶しか俺の中には無く、不思議と陰キャながらに気分が高揚してきていた。
思い返せば宿泊研修も俺は楽しんでいた気がする。今まで気付かなかったが俺はもしかしたら旅行とかそういった事が好きなのではないだろうか?
この施設もプールと言えど、あくまでレジャー施設の範疇で基本的には温泉の類や各種アスレチック等を筆頭に様々な遊びが楽しめるスポットである、また基本的に宿泊ホテルが併設されているので泊りがけの客も多い。
自分でも意外ではあるが、アウトドアな気質を悟っていると後ろから例の如く頭を軽く叩かれる。
「何ボーッとしてんの? 行くよ」
流石、そこら辺の男より漢らしいケバ子、歩く時も自然と車道側歩いてくれそう。
「あっ……あぁ」
ケバ子に引き続き中に入ると、広々とした天井から差し込む空模様で晴々とした空間、お土産コーナーという名のボッタクリ販売店で目立っている巨大な浮き輪の類、清潔感のあるロビー。
悪くない気分だ、人さえ払ってもらえれば自室より快適だろう。
「アンタ、めっちゃキョロキョロしてんじゃん、ホントにこういう場所来ないんだね」
「そりゃあな、自称だけじゃなく自他共に認める陰キャだからな、そもそも外に出る機会なんぞ無い」
「んで、どーよ? 結構悪くないっしょ?」
ケバ子は俺の返答など既に分かり切っているようにドヤ顔をしている。そういう顔をされると俺の中の天邪鬼が妙な反抗心を滾らせるので反論したいところだが……。
「たまには……いいかも知れんな、田中はよく来たりするのか?」
「アタシは今年は初だけど、毎年プールや海は複数回行く感じかな~アンタも眼鏡とか暗いの連れてきて行けばいいじゃんね」
藤木田はともかく、黒川がこういった場所に来るとは想像し辛い。
こういった現実のイベントよりは、ゲーム内の夏休みイベントで経験値を稼ぎに忙しそうなイメージだ。
「気が向いたらな」
「まっ! 今日はアタシと楽しむのが先決だからよろしく、んじゃアタシ着替えるからまた後でね~」
そう言ってケバ子は、スタイルの良さを見せつけるように歩く。
そんな後ろ姿を見ながら俺も男性用更衣室の方へ向かった。
更衣室から、既に多少香る塩素の独特の臭いを感じながらもケバ子に選んでもらった水着に着替える、やはり割りと悪くない……いや似合っているんじゃないか?
ファッションという分野は主観で片づけてはいけないが、これならば自身で完結していいくらいに子供らしさは無く派手さもいい感じで抜けている。
しかし、これはこれで褒められると癪だな。なんせ俺は今日私服をディスられているのだ。
俺の私服は水着以下の烙印を押されているのと変わらないという事になる。どちらにせよ考えたって仕方ない事ではあるし、俺は素直にプールの方へと歩いていく。
脱衣所よりも、塩素の臭いが強くなってきて微かに流れる水の音を聞きながら、プールの入り口を通ると、随所に監視台が設置されるくらいに巨大なプールと数種類のウォータースライダー、そしてカフェのようなスペースには造花のようなヤシの木のモデルと白いパラソルが広げられており南国を思わせる作りをしていた。
「おぉ!」
意識をせずとも、目に映る光景に称賛にも値する声が漏れてしまう。
凄くいい、しかしチラホラ視界に入ってしまう人々が居なければもっといい、貸し切りっていくらくらいするのかと考えていると肩に生暖かい感触が当たる。
俺は驚いて振り向くと……。
「アンタ、生まれて初めてプールに来た人みたいな反応すんね」
浄化されたケバ子が立っていた。いつもは日によって変わるが派手な髪型をしているケバ子だが、プールに入る為か、後ろに髪を束ねてポニーテールのようになっている。
そして、水着はあまり直視出来ないが、俺に合わせたのだろうか? と思うくらいケバ子にしては控えめなデザインの水着を着用していて、普段ケバ子をしている人間とは思えなかった、違和感があるとするならば何やら首からストラップでぶら下げているスマホだった、陽キャはスマホが無いと呼吸出来ない生物なのだろうか?
「ジロジロ見すぎ……」
そう言いながらも見られている身体を隠すのでは無く、ケバ子は顔の方を逸らしてしまったようだった。
「す、すまん……慣れてなくて何と言っていいか……」
「に、似合ってるっていいな!」
「はい! 似合ってる……と思う、うん」
ケバ子のハキハキした声で、俺は思わぬ場所で敬語は出現してしまうし語尾に力強さが無く返答をしてしまっていた。
「そういうところは陰キャっぽいんだけどなぁ……でも、まぁ……よし!」
ケバ子は一言だけ言って逸らしていた顔を俺の方へ向けて笑うのであった。
「それにしても、思っていたよりも広いな」
「アタシもここには初めて来たけど、いつも行ってる場所よりも広いかもね~」
様々なプールに行ってるケバ子が言うくらいだから、このプールは比較しても広い部類に入るのだろう。
様々な感情が頭にあって素直に楽しめるか心配だったが、これなら自然に振る舞えそうで安心出来る。
しかしだ、いつからかは不明だが、何やら視線を感じるのは気のせいだろうか?
俺は普段人に注目されないように隅っこの方で生きている人種である。そんな俺は他人の視線に敏感だ。
恐らく様子を見るにケバ子は視線に気付いていない。
これはラブコメならば、お約束の展開である、そして俺もつい最近経験した行為であると踏んでいる。
俺の頭の中には、とある眼鏡とFPS廃人の姿が浮かんでいた。
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