変夏と思い出
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まだ時刻は午前の為、営業を開始したばかりのカフェの冷房は店内に行き届いていない状態ではあるが俺とケバ子は、俺達以外に客の居ない店内でバス到着までの時間を潰していた。
「でもアンタがちゃんとプールに来るとか予想外だった」
「流石に俺も約束くらいは守る……ある程度だけどな」
行かないと後が怖いからな……まぁ言えないけど。
話す程度なら問題は無いと言えど、あくまで俺は陰キャでケバ子は陽キャ。越えられない学内ヒエラルキーの壁がある。
店内の冷房が緩いせいか、俺のグラスに入っていた重なる氷が徐々に溶けていく様を、意味も無く眺めてはケバ子の話をそれなりに聞き、俺は今後の予定を脳内で組み立てていた。
「まぁ、逃げたら家まで行くつもりだったけど」
「え? 俺の家知ってるの?」
「眼鏡から聞いといた」
いつの間に藤木田とケバ子は連絡を取り合っていたのだろう、というか俺の個人情報を連絡も無しにばら撒く藤木田に怒りを覚えるが、藤木田もまた陰キャである事とファッションダンジョンでの恩義から恐らくケバ子に逆らえなかったのだろう。
「……友達すらまともに連れてこない息子なのに、田中みたいな陽キャが家に来てみろ。俺の両親が驚愕のあまり勘違いして赤飯炊き始める」
「せ、赤飯って……流石にそこまではなんないっしょ」
ケバ子は本当に感情を隠すのが下手だな。と思いつつも俺は送迎バスの時間が迎えにくる時間を確認すると、そう時間は無いようだった。
「それより、そろそろバス来るぞ」
「んじゃ、後部席取る為に移動するよ」
そう言ってケバ子はバッグを持ち席を立つ、俺も氷がほぼ溶けてしまったアイスティーの残りを飲み干してケバ子に続いて席を立つ。
トイレに行っている間に会計とか、そんなスマートな事は出来ないしタイミングでも無いが、レジでブランド物と思われるバッグから財布を取りだそうとしていたケバ子よりも先に俺は伝票に記載された金額を支払う。
「別にいいのに、というかアンタよりバイトしてるアタシのが絶対お金あるし」
「俺がバイトをしていない前提で話をするな」
「宿泊研修のアレ聞いた限りじゃ絶対バイトしてないっしょ」
「……まぁ」
グウの音も出ないくらい、痛いところを突かれてしまう。
「でも……あんがと」
「俺みたいなのにも男としてのプライドくらいはある、プライド料金だ。気にするな。」
今はその感謝が俺には痛いのだが、どちらにせよ飲み物代くらいは流石に俺みたいな甲斐性無しでも男としてのプライドがあるので払わざるを得ない。
「アンタ、陰キャって自称する癖に何気に常識あるよね」
「おい、陰キャが常識無いみたいな言い方やめろ」
「アタシのイメージだと陰キャって挨拶すら出来ないイメージあったんだよねー」
「出来ないんじゃない。ハードルが高いから諦める陰キャが多いだけだ」
「それ出来ないのと変わらないっしょ……まぁアンタはそういうのと違うみたいだし」
俺は紛れもない陰キャである。
しかしだ……俺は社畜の父親から日頃教わっている。
どれだけ仕事が出来なくてもいいけど、挨拶と意見だけはしっかり言えと。
曖昧な態度や発言をしていると、曲解され覚えのない責任を押し付けられるハメになるとな。
悔しそうな父親の表情を見て俺は幼いながらに、『働いてたまるかっ!』そう決意したんだ。
「……結局は慣れだからな、最初は田中に恐怖以外の感情を抱かなかったのは事実だ」
「アタシってそんな怖い?」
ケバ子の弱々しい言葉を聞いて俺は、その表情を確認する。
いつもは鋭い眼光と強いメイクによって強気に見えるが、化粧の薄い今日に限っては恐怖など存在しなく、ひたすらに美人という言葉が似合う姿だった。
「口調とか化粧が理由なのもあるが、今は恐怖なんか微塵も感じないから安心しろ」
「口調はどうしようもなんないとして、化粧ねぇ……」
ケバ子は考え込む素振りを見せつつも俺の顔を見る。注目する事に慣れてないから止めてほしいが、ケバ子の事だ、俺が顔を逸らしたら次はそのアクションに対して文句を言うに決まっているので俺は顔を逸らさずに黙っていた。
「アンタは薄い方が好きなの?」
「濃さに限っては、そもそも人の顔をマジマジと見る事が無いから知らんが……田中は薄い方が似合っている……と思う」
エンカウントしてからそれなりに臭い発言をしているが、流石に自分でも恥ずかしくなってきた。似合わない事をするんじゃない。と言いたいが結局これも作戦の一つだ。
そう思うと、少し楽になるが心苦しさは増していくばかりだった。
「そんじゃ、アンタと遊ぶ時は、このメイクにしとく」
「そ、そうか。バス停はあそこか?」
既に分かっていたが好意は明らかで照れ臭くなった俺は話を逸らすように、分かっているバス停を指さして話題を逸らす。
「やっぱ朝イチだし夏休みでも混んでないから待ち合わせ時間は正解っしょ?」
「そうだな、混んでいたら即座に帰宅するまである」
「そういうところは陰キャっぽい……」
ケバ子と他愛の無い会話をしながら並んでいると、少数ではあるが同じくプールに向かう為にチラホラと並んでくる人の姿が増えてきた。
そんな中、送迎バスは到着しケバ子の要望通りに俺達は最後尾の座席を確保していた。
「なんか宿泊研修の時みたいでワクワクすんね!」
そんなテンションの高くなってきたケバ子を尻目に俺は思い出す。あの時の笠木との会話や眠ってしまい寄り掛かる笠木の体温、横顔を。
俺は重りの感じない左肩の感覚に寂しさを感じながらも、振り切るようにバスの発車を待っていた。
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