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変夏とバベルの塔の崩壊

 その後は横にいるテンションが高く手を付けられない藤木田を抑えながら、黒川とクラウドさんの動向を見守るという立場に早変わりしていた。

 妙な時にテンションの高い藤木田とか正直手の付けようがない。ラ〇ン設定作戦の時を彷彿させるくらいにうっとおしい。


 しかし、場所や見ている物がパソコンのパーツとかコアな電化製品売り場じゃなくなっただけ、こうも絵面が異なるのかと半ば驚きを隠せないのも事実だ。

 二人の様子が、彼氏の服を選ぶ彼女にしか見えなくて、陰王と呼ばれた黒川がここまラブコメ主人公らしくしている姿を見て羨ましいと思う反面、黒川の事だからクラウドさんの気持ちに気付いていないんだろうなぁ。とクラウドさんの心中を察する。


「木立氏! クラウドさんが選んだ服ですが某も気になりますぞ、後で確認してみませぬか?」

「みませぬ! いいから落ち着け、こんな重要な場面でバレたら元も子も無い」


 藤木田の暴走を抑えながらも観察していると、黒川とクラウドさんは再度移動するようにエスカレーターの方へと身を進ませていた。


「俺達も行くぞ」


 藤木田からの返答は無く、藤木田の方を見ていると先ほどまで黒川達が選んでいた服を吟味しているようだった。

 そして、俺は藤木田をこの階層に放置していく事に決めた。バトル漫画の展開でよくある、主人公の仲間が一人づつ階層の主とバトルする展開と一緒だと思い納得する事にした。


 エスカレーターに乗り、一つ上の階に移動した俺の目には、アクセサリー類や香水といった如何にも高級そうな商品を取り扱う階となっており、見渡す限りカップルや夫婦等、ソロプレイヤーは俺しかいない状況であった。

肩身が狭い思いではあるし、逆に目立ってしまうだろうが面白くなってきた二人の様子を見届けなければ俺の好奇心が収まらないのも事実で俺は二人の姿を探す。


 俺が見つけた時には、クラウドさんは焦って首を振る素振りを見せていた。何かイベントが発生したらしいので徐々に身を潜めながら目立たたないように近づいていく。


 二人の声が聞こえる位置まで移動すると途中からではあるが、会話が聞こえてきて俺は耳を澄ませる。


「そんなの高いのなんて貰えません!」

「値段は気にしなくてもいい、俺が払いたいんだ」

「でも……」


 何やら、悪い揉め方ではないが言い合いになっているようであった。黒川は割りと高級そうなデザインのネックレスをクラウドさんの首へ宛がうように見定めていた。


「私には、似合いませんよ……きっと」

「似合う、ファッションは主観ではなく客観的に良し悪しが決まる。俺は似合うと思っている」


 黒川は何やら、クラウドさんにネックレスをプレゼントしたいと思っていたがクラウドさんも年下且つ立場で言えば自分の上司に該当する黒川にお金を払わせるのに気が引けるのだろう。

 俺も黒川の立場だとすると受け取り拒否されると心にくるから、すんなりとはいかないまでも受け取ってほしい気持ちにはなる。


「強行手段だ」

「……え?」


 そう言って黒川は横に付いていた店員へ商品を渡しレジの方まで歩いていく。こうなるとクラウドさんも止めようがなくアタフタしながら黒川の後を付いていく。


 そしてレジで何やら説明を受けた後に支払いを済ませて黒川とクラウドさんはエスカレーター付近のベンチへと腰掛けていた。


「と言うわけで買ってしまった、受け取ってくれるな?」


 クラウドさんはハニカミながらも、黒川に手を伸ばすが黒川は手に渡さず商品のケースを開けてネックレスをクラウドさんの首にかける。


「あっ……うぅ」


 何これ? 完全にラブコメ主人公じゃねーか。

 俺が宿泊研修で意を決して頑張った結果、悲惨な状況だと言うのに黒川は持ち前の主人公補正でイベントCGを描いてしまっていた。


「似合っている」

「あっありがとうございます、ダクリバさん……」


 そして黒川はもう一つ同様の箱を取り出すと、色違いと思われるネックレスを自身の首に掛ける。


「実はこれ本来カップル用に作られた商品でな、つい自分の分も買ってしまった」


 そう言って微笑む黒川を見てクラウドさんは黒川の首に手を掛けてネックレスを外す。


「ん? 似合っていなかったか、それとも共通の証は恥ずかしかったか?」


 そのまま一度ネックレスを眺めたクラウドさんは、先ほどとは逆に黒川の首へネックレスを付ける。


「これで、本当のお揃いですね」


 恥ずかしながらもクラウドさんは黒川の目を見て微笑み返す。黒川も流石に少し照れながらも自身に掛けられたネックレスに優しく触れ「あぁ……」と一言だけ発するのであった。


 ダメだ、幾多のラブコメ世界線を乗り越えた俺でも甘すぎる。見ているだけで角砂糖を口に数個放り込まれた気分だ。

 フラグクラッシャーを所望したいと考えていたが、それは杞憂に終わった。


「これで俺達のクランのリーダーとサブリーダーの証を身に付ける事が出来た、そういうのに憧れてしまってな」

「はい?」


 流石、鈍感要素を持つ主人公である黒川だ。自ら建築したフラグをバッキバキに破壊していく様はバベルの塔の崩壊を思わせた。

 クラウドさんの恋路はまだまだ当分掛かりそうだと俺は断言したい。

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