変夏とネトゲ廃人の陰キャップル
俺と藤木田はその後も黒川ご一行様を尾行するが彼らは家電量販店の階層を移動し、マウスから始まりキーボード等の機材、最終的にはパソコンのパーツの価格調査や価格推移の動向まで語り始めていた。
「藤木田、もう帰ろうぜ」
俺はこれ以上の尾行は無意味だと断定し藤木田へ帰宅を提案する。あの二人を見ているとデートと言うよりは友達と遊んでいるだけのように見えてしまっていた事もあり、俺の興味は完全に削がれていた。
そんな中、藤木田は未だに観察を続けており何やら考え事をしているようだった。
「何か気になるところでもあったのか?」
藤木田は、俺の言葉が届いていないのか考える素振りを止めずに、頭を捻る動作や身を乗り出し何かに注目していた。
しばらくして、藤木田は喋りだす。
「木立氏、クラウドさんの方を注目してくだされ」
藤木田は俺と違い何か変化の気付いたのかと思い、言う通りに黒川ではなくクラウドさんの方を注目するが、俺には変化が分からなかった。
「いや……お前の言う部分が分からんな」
「手の動きですぞ」
手の動き? 俺は再度藤木田の言う通りにクラウドさんの手の動きに注目する。
黒川とクラウドさんは並んで歩きながらも、クラウドさんの右手が何か忙しなく動いていた。
「なんか手首が物凄く動いているが……分かった」
「木立氏も分かったようで良かったですぞ」
「あれ……FPSの動作を忘れないように脳内トレーニングしてるな、やはり黒川とプレイしているだけあって初心者ながら廃人としての基礎練習も欠かさないんだな、まったくあの情熱には恐れ入る」
「……何を言っているんですかな?」
何かおかしい事を言ったのだろうか? 藤木田の目が俺を蔑むような目で見ている。中学生の修学旅行のバスで嘔吐した時の周りの目線と似ているのでトラウマが蘇ってきてしまう。
藤木田は、俺に分かるように説明するように解説し始める。
「いいですかな? あれはカップル恒例の手つなぎになりますぞ。クラウドさんは恐らく黒川氏と手を繋ぎたいのでしょうが勇気が出せなくて最後の一歩が踏み出せないのが読み取れますな、木立氏は作者の気持ちを読み取る問題が出来なさそうですな」
え? 何かディスられてる……。
藤木田の言葉の棘は一旦置いておこう、俺も一度弾みで笠木の手を握ってしまった事があるが、笠木も驚いていたなと、その手の感触を思い出してしまっていた。
「どのような事を考えているのか分かりかねますが、本筋と逸れた考えである事は表情から判断できますぞ……」
俺は思考を一旦戻し考える。それでは付き合っている状態でのデートではなく恐らく黒川はクラウドさんの好意に未だに気付いていないのだろう。
笠木と俺と似たような状態なのだろう。
俺みたいに拗れていないのが救いではあるのだけれども。
そして、家電量販店を見終わった黒川とクラウドさんは、帰宅するのかと思いきや併設されているデパートへと足を運び始めていた。
遠くで会話は聞こえないが、クラウドさんが俯きながらも恥ずかしがっている様子が伺える。その様子を見た俺と藤木田は尾行継続を決意するのであった。




