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変夏とホシとストーカー

 夏休み初日から陰キャとは思えないほど、活動的だなぁ。と尾行対象である黒川を待ちながら考えていた。

 そもそも尾行ってストーカーの言い方を変えただけの行為ではないか? ストーカーという単語に多少なりトラウマがある俺は、ケバ子の形相と、笠木の苦笑いしている姿が脳裏に浮かぶ。

 藤木田に至っては、宣言通り牛乳とアンパンを手に持ってるし、完全に楽しんでやがる。


「木立氏! ホシはまだですかな?」

「ホシってお前なぁ……グダったら黒川にバレない内にさっさと帰るからな」


 しかし、黒川とクラウドさんのデートとか興味が無い事もない。両者が陰キャ寄りである事から普通のデートというイメージが出来ないのだ。


「プリ……撮るのでしょうか?」

「プリ? なんだそれ」

「プリクラでございますぞ!」


 その顔で省略すな、お前はパスタよりスパゲティが似合い、ジェラートよりアイスという単語が似合うような男なのだから。

 黒川がプリクラとか確かに想像出来んな……。チャリで来た。とか書いちゃうのだろうか?


「まぁどちらにせよ、木立氏には勉強になるかも知れませんな!」

「勉強?」

「将来、笠木女史とのラブコメが成功したら二人で出掛ける時もございますからな!」

「……そうだな」


 少し、間が空いてしまったが藤木田は尾行のテンションに浸かっているようで、言葉の間に気付いていないようだった。


「木立氏! ホシがいましたぞ!」


 藤木田の言葉で俺は待ち合わせ場所と予測されていたヨンマルクカフェの前で黒川を発見する。相変わらず、しまむらで買い集めたような服装をしているが、顔が整っているので違和感は少ないどころか遠目に見たらホストのようだ。


「藤木田、今度アイツの服装どうにかしてやれよ」

「そうですな……しかし黒川氏は電化製品以外に、お金を掛けませんぞ」


 そう、藤木田の言う通りで、服装にお金を落とす男ではない。


 俺の中でのデートのイメージは、オシャレなカフェで期間限定メニューを注文してシェアハピしたり、ウィンドウショッピングをしたり時折、街中で開催されているイベント事を見に行ったりプリクラを取って、黒歴史になりそうな言葉をペンで綴るのだ。

 クラウドさんも、そのようなタイプに見えない事もあり未知数なのだ。

 興奮している藤木田を尻目に俺は黒川の方へと急いでいるのか急いでいないのか分からないような速度で移動する女性を見つけた。


「クラウドさん来たみたいだぞ」

「どこでありますか!?」


 そういえば、藤木田はオフ会に参加してなかったからクラウドさんの実物を見た事が無かったのだった。


「交差点の電柱の横で髪イジってる人」

「どいつもコイツも髪イジってて分かりませんぞぉぉぉぉ!」

「んじゃ、一分もあれば分かるから待っとけ」


 知らない人から見たら、アンパンと牛乳を持って叫んでいるヤバイ奴じゃねーか。

 そして、信号が青に変わり、再度クラウドさんは黒川の待つカフェの前まで走り合流をしていた。


「あれが、クラウドさんでしたか?」

「あぁ、俺は実物を見た事があるから間違いない」

「思っていたより女性らしい女性で本当にFPSをやっているようには思えませんぞ……」


 俺も初めて見た時は、驚いたが黒川と話せる程度にはFPSプレイヤーとしての質は高いのだろうと認識していた。


「移動し始めましたぞ! 尾行開始でございますぞ!」

「あぁ、目立つ行動はするなよ。バレたら黒川にボコされる」


 こうして、俺と藤木田は黒川達を尾行するが駅の方へと移動する二人を見て、電車で何処かへ行くのだろうか? と考えていたがやはり普通のデートと言い難い場所へ入っていくのだった。


「……流石、共通の趣味を持っているだけあるな」

「某達と普段から行く場所と変わりませんな……しかし! この量販店は電化製品だけではなく飲食店のテナントや美容品等の販売もありますので目的が違うかも知れませんぞ」


 藤木田の目論見は外れ二人が昇って行った階は、電化製品売り場であった。俺と藤木田はバレないように二人の会話が聞こえる位置に移動する。


「……これなんかいいんじゃないか?」

「え? でもこれDPIが低いんじゃ……」

「実はDPIは重要ではない、平均の範囲内で収まっていれば問題は無い。ドライバでカスタム出来るのが理想だが極端に高く設定しているプロはいない、それよりもトラッキング性能が重要だ」

「そうなんですね、ダークリバーさんのオススメは他にはありますか?」

「ふむ、それ以外だと――」


 これが現実なのだ。

 藤木田の言っていたデートの見本として黒川とクラウドさんのデートは一般的には参考にもならない。

 藤木田は、この会話を聞いてどんな顔をしているだろうか? と気になり藤木田の方を確認すると、藤木田も俺と同じく真顔になっていた。


「木立氏……これはデートなのでしょうか?」

「捉え方に依存するが……当人が楽しいならいいんじゃないか?」


 藤木田は、理想と現実の乖離で肩を落とすところ悪いが、デートはまだ序盤であり予想外のドラマもあるのではないか? と思う。


 尾行はまだ始まったばかりだ。

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