変夏と青春の勘違い
居間でテレビを見る藤木田を尻目に俺は母親が作り置きしていた朝ご飯を食べる。
「そんで、今日は何するんだよ」
「特に予定は考えておりませぬと言いたい事ですが、本日は尾行をしたいと考えておりましてな」
尾行……? 何を言っているんだコイツは。
遂に暑さで頭をやられてしまったのだろうか? やはり陰キャのファッションリーダーに任命する前に、鳥の巣のような頭をどうにかするべきだったと後悔する。
ビジュアル以前に熱が籠って俺が考えるよりも藤木田の脳は破壊されていたらしい。
「なぜ、そんな哀れんだ目をするのでございますか!?」
「いや、だって……ここ数ヵ月で偏差値が三十台になったような発言するから仕方ないだろ」
「何を言いますか! 木立氏だって某の内容を聞けば賛同してくれると思いますぞ!」
というか、尾行とか既に言葉が不安。
高校生が三回しか訪れない夏休みに行う行為ではない、もっとこうあるだろ。
虫取りとか、海に行くとか、夏祭りに行くとか……いや全部行きたくねーわ。
「一先ず尾行自体は置いておくとしてターゲットは誰なんだよ?」
俺の言葉に藤木田はズレてもいない眼鏡の位置を戻すかのような仕草をして呼吸を整える。
もしかして笠木の尾行だろうか? 笠木の尾行ならば笠木ウォッチング一級の俺が居なきゃ始まらないな。
しかし……昨日の今日で笠木に、仮に尾行がバレたらと考えると気が進まないのも事実だ。
俺の考えとは離れていた人物の名前を口に出す。
「ターゲットは黒川氏でありますぞ」
「黒川?」
何故、黒川がターゲットなのだろうか? アイツは半分引き籠りのFPS廃人だ。
夏休みに突入しようがアイツに限っては、生活は変わらないはずだ。
「クラウドさん……と言えば分かりますかな?」
藤木田の言葉で察しの悪い俺でも《クラウドさん》という単語で大体の内容を理解する事は可能だった。
「時間は……?」
藤木田は居間に掛けてある時計を一瞥すると俺の方へ向き直す。
「詳細な時間は分かりかねますが、今から数時間後のお昼頃と思われますぞ」
「待ち合わせ場所とかも分かってんのか? というかお前はどうやってそんな情報を手に入れてんだよ、エスパーなのか?」
「勿論でございますぞ、情報は黒川氏と夜に通話している時に誘導しながらある程度まで特定した次第でございますな」
友人を誘導して情報を聞き出す藤木田の話術も恐怖ではあるが、何で俺を誘わなかったんだろうと少し悲しい気分になる。
「ちなみに木立氏を誘わなかった理由は、誘っても怠惰が理由で応じないと判断したからですな」
え? ガチエスパーじゃん。 まぁ藤木田の言う通り俺は面倒という理由で断るか寝たふりをキメこむだろう。
「そうか、でも誘われないのは嫌だから……次からは誘うべきだと思う」
藤木田は俺の発言を聞き、一瞬驚いた顔をする。
そして、「えぇ、では次からは誘わさせていただきますぞ」と微笑むのであった。
「それで、黒川は何でクラウドさんと会うんだ? どうせコスプレイベントで数日後に会うだろうに」
「某もそれが分かりませぬところでしてな」
「話を変えて悪いが、藤木田は恋愛に興味ないだろ?」
「えぇ、それがどうかしましたかな?」
「自分の恋愛に興味が無いのに何で友人や他人の恋愛は気になったり悔しがったりするのか謎なんだよ」
「それはですな、恋愛が青春としての割合の多くを占めるからでございますな、某は自身の恋愛には興味が一切ございませんが、青春という行為には興味が深々なのですぞ」
「よく分からんな、要領を得ない」
藤木田自身も、どう説明したらいいか困っている素振りを見せるが、数秒後簡潔に言い直してくれた。
「青春ぽい事をしたい気持ちと、黒川氏の主人公属性はイラッとくるからですな!」
藤木田は、尾行を青春にありがちな事と認識しているのと、黒川の属性である鈍感系イケメンの部分にピキピキきているらしい、確かに気持ちはなんとなく分かる。
「まぁ解答は及第点だけど、どうせやる事なんて無いし黒川ウォッチングでもするか」
「いやはや楽しみでございますな! アンパンと牛乳も買っていきましょうぞ!」
こうして夏休み初日からそれぞれの青春イベントは開始されていた。
黒川は女性とのデートとも取れるイベント。
藤木田は、その生態を観察するイベント。
そして笠木と共犯者になった俺は……夏休み中に片を付けなければいけないケバ子と笠木のイベントをイメージして、恐怖と解放に怯えているのであった。




