変夏と後遺症
夏休み初日、俺は自室のベッドの上で、昨日の笠木との話し合いを思い出す。
共犯者……響きが良い、こう厨二心を擽られるというか。しかしながら、自分で言っておいて今更恥ずかしくなるのはお約束であり、少女漫画に出てくる乙女のようにベッドの上で枕に顔を伏せじたばたする。
あの一言を笠木はどう思っているのか? と考えると意味も無く身体を動かしてしまう辺り俺もまだ青いのだと思ってしまう。
しかしながら、最終到達地点は処刑台でしかない事は分かっている。誠実で在りたいと思いながら不誠実な事を考えている俺は断罪されるべきなのだ。
夏休みが執行猶予、ゆっくりと処刑台への階段を昇る自分の姿を想像して二学期まともに学校へ行けるだろうか? と考える。
恐らく俺の考えている作戦は成功する。
何も心配はいらない。
だから首に縄が掛かるその日まで、俺は笑って夏休みを過ごせるようにいようと思う。
そして俺が朝飯を食べようと一階に降りると、見知った顔がエアコンの効いた居間でソファーに座り麦茶を啜っていた。
「お前……夏休みは出かけないんじゃ無かったのか? 陰キャとしてのプライドはどこに忘れてきた、というか……何でいるんだよ」
俺が声を掛けると、まるで自分の家のように寛ぐ友人が俺の方を振り向く。
「木立氏、おはようでございますぞ! いやはや、高校生最初の夏休みという事で恥ずかしながら目が冴えてしまいましてな!」
違う、そうじゃない。それ以前の問題である。
何故、当の本人である俺が寝ているのに藤木田が俺の家で寛いでいるのかが問題なのだ。
「後半の部分忘れてるぞ、夏休み入って初日だぞ? ボケてんのか」
「木立氏の母が居間で木立氏が起きるまで、待ってていいとお誘いを受けましてな!」
木立家のセキュリティ雑すぎだろ。そして、居間には藤木田しか見当たらない。
「その母親は何処にいるんだ?」
「さっき用事があると言って出掛けましたぞ!」
俺は首を傾げながらガサついた髪を掻く。息子の友人だからって放置して出かけるとか陰キャで友人の少ない俺でも分かるくらいにテキトーである。
説教できる立場ではないが、帰ってきたら一言物申してやらなきゃ気が済まない。
「そうか、まぁゆっくりしていけよ」
そう言って俺は二階の自室へ戻って二度寝をしようと藤木田に背を向けフローリングをペタペタと歩き出す。
「木立氏!? 友人が訪ねてきているのに、その対応は流石に雑ではないですかな!?」
俺は再び藤木田の方へ振り向く。
「というか、お前何時から来てたんだよ」
「朝の六時でございますぞ!」
藤木田は笑顔で答えるが、異常だと気付いてほしい時間帯である。
突っ込み待ちかと思ったが、藤木田はこれまで友人が一人もいない生活をしてきたのだ。
普段は良識的と言えど、疎い部分があっても仕方ない。というより悲しき過去の弊害であるとも言える。
俺はその事を考えると藤木田を邪険に出来ず、今日くらいは藤木田に付き合ってやろうと思うのだった。




