変夏と辿り着いた両者
俺は懐かしきヨンマルクカフェの席へ笠木と向かい合って座っていた。黒川とクラウドさんが座っていたあの時の席とは対になる席ではあるが、多少なりあの光景を思い出すと感慨深さがある。
あれからまだ数週間しか経過していないんだと思うと少し濃密過ぎる青春の過ごし方だ。
そして目の前には、笠木が座っている。この光景を、北高生が笠木と俺の絵面を目撃して広めてくれたら半分既成事実としてケバ子の興味を削ぐ結果となるのと同時に笠木も俺の事を恋愛対象として意識してくれるのではないだろうか? 流石に自分に都合が良い考えすぎて自己嫌悪に陥りそうになり思考を止めた。それは誠実ではないから。
「木立くん、それで直球なんだけど、悩んでるのって……」
いつもは横から見ている笠木の顔が目の前にある、それだけで俺は幸せを感じられるのだ。俺には勿体ないくらいのご褒美だ。
しかし、俺には笠木の切り出す言葉が分かっていた。
「綾香の事だよね? 何でも相談して!」
限りなく低い可能性ではあったが、笠木は当人であるケバ子同様に、俺をケバ子のストーカーと勘違いしていた節がある。
そこから始まった勘違いは今や誰も手が付けられない、興奮した藤木田よりもタチが悪い状況となっていた。
笠木の言う通り俺はケバ子の事で悩んでいる。しかし笠木の言うケバ子に関連した悩みとは、恋愛における悩みである。俺がケバ子に悩んでいる事は恋愛ではなく、勘違いをどう説明したらいいか? という事であり意味が異なっている。
「そ、そうなんだけど、いやちょっと違うと言いますか。なんて言ったらいいか? と思ってて」
俺の言葉を聞き笠木はテーブルに身を乗り出してくる。
「い、言う? もしかして……こ、こ、告白っするつもりなのかな?」
それ以上近づかないでくれ、可愛すぎて転生しなくても俺がスライムになって溶けてしまう。
そして少女漫画に憧れを抱いたようなキラキラした瞳を止めてくれ。まったくもって違う。これ以上発展したらそれこそ「勘違いでした! テヘペロ!」じゃ済まなくなる。学校に通えなくなっちゃう。
「いや、その意味の方向じゃなくて、だな」
「えーじゃあ何についての悩みなのかな?」
笠木は俺からの返答を待つように 乗り出した身体を引き自席に戻りカフェオレに口をつける。ある意味、告白と言っては過言ではないが、某作家の《告白》くらい意味が違う。
何を言ったらいいか悩む。これは俺が言わなきゃ伝わらない問題ではある、笠木を巻き込みたくはない。というより勘違いでしたと言ってみろ。
『実はケバ子の為に笠木を探したわけじゃないし説得しにいったわけじゃないんだ』
『えーじゃあ……もしかして私の為?』
『あぁ、そうだ。全部笠木のためだ、好きなんだ!』
『いや、そういうの無理なんで……本当に気持ち悪いです、さよなら』
バッドエンドしか見当たらない!
俺がどうしようか悩んでいると笠木はカフェオレを飲んでいたストローを艶やかな唇からそっと離す。軽い吐息が漏れ、笠木は真顔になり俺に、予想だにしていない一言を話すのだった。
「もしかして……綾香の事が気になっているから私を探しにきたわけじゃなかった、とかかな?」
この瞬間、俺の脳内で絡み合っていた思考の混線が一太刀で斬られた音がした。
やっと動き出せます;w;




