変夏と地獄の入り口
終業式が終わり、放課後。
俺は浮足立っていた、何故なら今日は俺が初めて笠木と放課後を過ごすのだ。校則違反である二人乗り、荷台に乗る笠木を気遣い速度を上げず、華麗なテクニックで段差や石を避けながらも目的地へハンドルを握る俺。
そして夏風に揺られる前髪、他愛もない日常を笠木と共有するかのように、その日在った出来事を話す。たまには俺の趣味のラノベやアニメなんかの話をして笠木にオススメを教えたり笠木の趣味とか……まったく知らないけど何か教えてもらったり、二人で青春を慈しむ光景が俺の脳内に広がっていた。
しかし、現実はやはりアニメやラノベのような青春ラブコメをファンタジーであると主張していた。
そもそも俺も笠木も徒歩で登校しているから自転車とか乗ってきていない、夏風とか湿度が高いだけで揺れる前髪が汗をかいた額に当たるとか気持ち悪い事この上無いだろう。
こうして俺は調子に乗らないように自身で感情の起伏をコントロールする術を既に身に着けていた。数ヵ月前の俺よ……安心しろ、ちゃんと成長している。と俺は言ってやりたい。
俺がそんなくだらない事を考えていると終業式が終わった事もあり生徒は普段よりも足早に帰宅していく様子が伺える、俺も笠木との待ち合わせ場所へ向かおうとするが、よく考えたら待ち合わせ場所を聞いていない事に気付く。
これは笠木にラインをしたほうがいいのだろうかと考えていると……。
「それじゃ木立くん行こっか!」
麗しの女神、笠木に声を掛けられる。笠木はまだ教室にいたらしい。
「あっ、そういえば待ち合わせ場所決めてなかったね、どうする?」
「うん、待ち合わせって話だったんだけど一緒のクラスだし一緒に何処か行けばいいんじゃないかな?」
俺が危惧しているのは、そこではなく笠木が陰キャと名高い俺と一緒に下校している姿を見られるのが嫌ではないのだろうか? という部分である。だからここは素直に待ち合わせにしようと提案しようとするが……。
「木立くん、難しく考えなくていいよ」
笠木は真面目な表情で俺に話しかける。
「私も……その、陰キャっていうカテゴリだったし木立くんの考えてる事なんとなく分かるんだ」
「いや、そんなつもりじゃ……はい、すみません」
「だから一緒にいこ?」
俺が笠木の苦悩を理解出来たように笠木も俺の考え程度なら理解出来るのだろう。今は異なれど俺と笠木の本質は一緒なのだ。
だから優しい笠木が俺は好きなのだ、俺にだけ優しいではなく彼女は誰にでも優しい。その部分が俺は好きなのだ。
「あっあぁ、じゃあ行くか……」
そして、その優しい笠木が好きだからこそ、俺は思いを未だ告げられていない。宿泊研修の勘違いを訂正できずに至るのだ。
変化を告げるように風が教室のカーテンを揺らしている、俺はその風に背を向けて笠木と教室を後にするのであった。
ブクマ増えてました;o; ありがとうございます>w<




