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変夏するファッションリーダーと陰キャ

「んで、夏服買いにきた感じ?」

「そうでございますぞ! 田中女史よくぞご存知で」

「この時期に置いてある服って大体夏物だしね、ウチの店にもいくつかあるから見てきなよ、何か買ってくれたらインセンティブ入るし、社割とか友達価格って事で口利けるからウィンウィンじゃん」


 言葉は理解できるが普段、俺がする会話では聞き慣れない単語が出てきた為、一瞬戸惑ってしまった。

 社会経験としてバイトは有りだな、俺は働く気がないけども。


「友達価格って事は安くなるって事ですかな?」

「あーね、まぁ仕入れもあるし赤字営業じゃないからガツンと引けるわけじゃないけど、気持ち程度でもアタシら学生だし有難いっしょ」

「それはいい話でございますな、木立氏もこの機会に何か買ってみてはいかがでしょうか?」

「欲しい物があればな」


 ケバ子は俺達をバイト先まで案内し藤木田が持ってきたメンナクを眺める。


「あーこれね、てかこの付箋の量、何?」

「気になるアイテムをピックアップした物でございますぞ!」


 ケバ子は付箋の貼ってるページをペラペラと流し読みするように捲ると、ため息を一つ吐いた。


「これ単品ではカッコ良く見えるの多いけど、結局ファッションってトータルで見る物だしジャンルがバラけてるから、参考になんない」

「それでは某のリサーチは無意味だったという事でしょうか?」


 藤木田はケバ子の発言で、自身のリサーチ能力を否定されたかのように項垂れる、本職のケバ子にしてみればまだまだという事なのだろうけども。


「ん、無意味ではないけど合格点には届かない感じ、とりあえずアンタらより私の方が詳しいんだし似合うの持ってくるから一旦待ってな」


 そう言ってケバ子は店内を周り商品を物色し始めた、バイトだからの対応ではなくケバこの性格からくる対応なのだろうと思い、ケバ子への印象が変わっていく気がしていた。


「木立氏、田中女史は我々が思っているより、良い人なのではないでしょうか?」

「まぁ、その可能性も否定できないな。ただ不良が雨の日に道端に捨てられているダンボールインキャットに傘を差し出すような見方も拭いきれない」

「相変わらず木立氏は警戒心を解きませんな」

「この世の全ての事柄を否定から入る、陰キャの嗜みだぞ」


 藤木田はそんな俺の発言でヤレヤレと言いたいような顔をする。


 店内を見渡すと、藤木田の持ってきた雑誌に掲載されている服よりも大人っぽい印象の服が多かった。柄も派手ではなく上品というか無駄な装飾が少ないように思えて、悪くない。

 店内を見渡していると店長らしき人物に何か話しかけているケバ子の姿と電卓で計算等を行っているようだった。

 その姿をボーっと眺めているとケバ子はいくつかの商品を持ち戻ってくる。


「そんじゃ、特殊な着方とか無いから試着室で着替えてきな」

「はいでありますぞ!」

 

 そう言って、ケバ子は藤木田に持っていた服を全て手渡し試着室へ向かわせる。

 買うとは言ってないが俺のは結局無いのか、幻のシックスマンとしての能力に開花してしまったのだろうか?


「そんでアンタは何か欲しいのないの?」

「え? あぁ……俺はファッションにあまり興味ないからな、実用的な物にしか金をかけたくないんだ」


 アニメとかラノベとか……グッズとか。

 現実で疲れた俺を癒してくれるのだ、十分実用的だ、間違いない。


「実用的ねー、今時期だと……付いてきな」

「え、どこに――」

 ケバ子を俺の手を引っ張り何やらこの店の中では比較的カラフルなエリアに連れていく、何やら嫌な予感がするが、手を握られているのだ、従うしかない。


 そう言って連れていかれた先は水着コーナーであった。

 水着ならカラフルなのも頷けるが水着は既に持っているし何なら実用性はあるが俺は海やプールに行く予定なんか無いので必要はない。


「これから必要になるし、元々持ってるのってどうせ中学生の時に買ったやつでダサそうだし買っといていいんじゃない?」


 確かに俺の水着は母親が買ってきた物で思い出してみれば、柄が派手で少々子供っぽいかも知れなかった。


「そうだな、必要かどうかは知らんが一着あっていいかもな」

「いやいや必要でしょ」


 陽キャ的には海やプールってマストだからな、そりゃ必要だろう。陰キャ的に親切にされると申し訳無さが出てくるし藤木田の服を見繕ってもらったりしてるし顔を立てるとして買っておこう。


「それじゃあ買うから選んでくれ」

「どんなのがいいの? 好みとかあんしょ」

「田中の好みで選んでいい、あまり高いのは買えんけどな」

「ア、アタシの好み……そっか、うん」


 いきなりモジモジしてどうしたんだコイツ……発情期かな? こっわ。


「あ、あぁ、頼んだ」


 ケバ子は俺の嫌いそうな派手な模様の商品を避け比較的シンプルなデザインの水着を選んで渡してくる。


「これ、サーファー用のパンツで長めに作られてんだけど、デザインが水着っぽくないから、そのまま街歩きにも使えるし悪くないんだよねー」


 確かに言われて見ると水着よりは七分丈のズボンに近く、水着特有のヤシの木の柄とかが無く実に俺好みであった、触って確認してみると、中は普通の水着のように乾きやすい構造をしていてウエストの部分も問題なく履けそうなサイズ感であった。


「ん、これにする」

「アンタ試着とかしないの?」

「見た感じ大丈夫だと思う」

「いやいや、メガネの試着終わったら確認してきな。じょーしきね」


 ケバ子に背中を押されながら試着室付近で少々待つと藤木田が顔を出す。


「終わったのか?」

「終わりましたが似合っているのが不安でしてな……」

「見なきゃ分からんから、ほらカーテンを開け」


 藤木田は恥ずかしそうな顔をしながらカーテンを開くと、夏その辺を歩いてそうな大学生らしき服装になっていた。

 この店の品揃えの特徴なのかシンプルながら大人っぽい雰囲気のあるボーダー柄のTシャツに合わせる様に白シャツと黒のハーフパンツでスッキリとした恰好をしていた。

 一言で表すなら清潔感がある。


「ど、どうでしょうか?」

「いいんじゃないか、俺よか本職に聞け」


 そう言って俺はケバ子に見せる様に立ち位置をズラす。身長が低いんで意味の無い行動ではある。


「イイじゃん、アタシは好きな服装だね。タッパあるし似合ってんじゃん」


 ケバ子から見ても藤木田のファッション計画は成功だったのだろう、その言葉を確認し俺も試着室へ入り水着を確認する。

 着てみたはいいものの身体の貧弱さが目立つと思いながらもデザイン自体は悪くなく、先ほどの気持ちと変わらず購入を決め試着室を出る。


「あれ、アンタ試着した?」

「したぞ、問題なかった、俺の体の貧弱さを考慮しなければな」

「あー多少ヒョロいもんねーでも太ってるよりいいっしょ」

「まぁ、ある程度の太さは欲しいところではあるけどな」

「んで、買う?」

「仮に似合ってなくても田中が選んだからな、買う以外の選択肢がない」


 仮にここで買わなかったら、ケバ子のファッションプライドに傷をつけてしまって後が怖い。


「そ……あんがと」


 何やら俺の予期せぬ方向へ進んでいる気がするけども俺は難聴系ラノベ主人公のように気付かないフリをしておく事にした。


 その後に、会計を終わらせて俺と藤木田はファッションビルを後にした。

 ケバ子はインセンティブも入るのか喜んでいたため、結果的にケバ子の言う通り悪くない買い物だった。夏の日に暑くなったら風呂に水を張りで使おうと買った水着に目を配らせるのだった。


「それにしても木立氏が水着を買うとは意外でしたな」

「ん? なんか陽キャ的には水着はマストらしいからな、必要だって言うから買ってみたんだ」

「何か引っかかりますな……」

「そうか?」


 これは第六感だったのだろう、藤木田の悪寒レーダーは俺の危機について察知していたのを後に知る事になるのだった。

きょはこれでおわりえす>< ブクマとか感想いただけて嬉しいです:w:ありがとうございます!!!励みになりますのですよ!!

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