変夏とイケメンのプロポーズ
場を和ませようと気遣って放ったおれの一言に反載せず、彼らはクランを解散させない方法や解散になった場合の身の振り方や大会のエントリーについて話し合っていた。
その光景を見て彼らに対して侮蔑の視線を送り俺は部屋を後にした。
外に出ると太陽は頂点から既に降り始めていて、少々日の強さを潜めた気温を感じながら俺は黒川が何処に行ったのかを考える。
「あの状況で陰キャの俺を残していくとか陰キャの気持ちがわからないやつめ……」
俺は黒川へラインを送る。
【木立:どこにいる?カラオケは抜けてきた】
数分間、黒川からの返信を待っていると黒川からの返信がやってきた。
【黒川:今は駅構内にあるヨンマルクカフェに居る】
黒川の返信にてクラウドさんの情報が書かれていなかったがカフェに行くという事は落ち着いている状況であり恐らくクラウドさんと一緒にいるのだろうと考え、一度俺も駅へ向かい移動を始めた。
駅構内のヨンマルクカフェを見つけると外の窓から見える位置に黒川とクラウドさんの姿を見つけた。
カフェへ入ると相変わらず店員のテンプレ接客がありいつものようにテキトーに流して俺は黒川が座る席まで移動した。
「おい、流石にあの状況で置いていくな」
「木立か……すまない」
黒川は俺に今更気付いたようでハッとした表情をしつつ謝ってくる。
「本名を出すな」
今更知られたところでどうも思わないし様式美として言っておくことにした。
「それで話はついたのか?」
「現在進行だ」
黒川とクラウドさんはまだ取り込み中であるようだった、俺は一旦席を外したほうが良いかと迷っていると。
「木立も座ったらどうだ?」
黒川の気遣いに肖って黒川の隣に腰掛ける事にした。
「あ……先ほどは、すみませんでした木立さん」
うん、ハンドルネームより本名が浸透しちゃってるわ。
「いえ、とんでもないです」
クラウドさんは律儀に謝罪を行ってくる、あの空気をぶち壊して出てきてしまった事に対しての謝罪と受け取っといた。
「ダークリバーさん、それでクランを辞めるというのはどういう事でしょうか?」
「そのままの意味だ」
相変わらず黒川は言葉が足りないのだろう、本人を伝えてるつもりかもしれないがクラウドさんには伝わっていないようだった。
「私のせいですよね……」
「違う、元々悩んでいた事だ」
「……信じられません」
黒川の足りない言葉に補足をつけようか迷っていると黒川は視線で合図を送ってくる。俺は黒川の意思を尊重し見守る事に専念する。
「本当だ、言葉足らずですまない、クラウドさんは俺たちのクランが元々どんなクランだったか知っているか?」
「はい、元々はライトプレイヤー向けのクランだったものがダークリバーさんを中心とする強プレイヤーによってガチクランへと変貌としたクランだと前にボイスチャットで聞いた覚えがあります」
「その認識で合っている、来るもの拒まずという考えで今のクランが出来上がってしまったんだ、その為俺のギルドは本来の目的とは裏腹に理想と異なる成長を遂げてしまった」
「本来の目的とは?」
「俺は、友達が欲しかったんだ」
黒川の目的は、最初の頃から変わらない。何処にも居場所が無く自分の趣味を共有する事ができない苦しみ、理解されない苦しみ、そして黒川が最初に見つけた、いや……作り出した居場所が今のクランだった。
「友達……ですか?」
「あぁ、人に言いづらい趣味や俺の性格も相まって俺は現実の世界で孤立していたんだ」
クラウドさんは半信半疑なようで俺の方を見る、女性に顔を見られると緊張したり勘違いするから止めてほしいところではあるが、俺は黒川の言葉が真実である事を肯定する為に頷く。
「趣味を共有出来る仲間が欲しくて俺はクランを作った。強さではなく遊んでくれる友達が欲しかった……」
「私もそうです、現実に居場所が無くて逃げ込んだ先がウドンアタックでした、高校まではそれなりに楽現実を楽しめていたんです、しかし大学で私は周りの成長に付いていけなくなって……」
学生、または社会人に置ける環境の変化というのは、藤木田や笠木のように良い方向へ向かう場合もあればクラウドさんのように転落する場合もある、彼女が決して弱いわけではない、誰も悪くはないのだ。
「そんな時、ゲームでも友達を作れず惰性でプレイをしてた私に声を掛けてくれたのがダークリバーさんでした、物凄い下手だな、初心者でもまだマシだって言われた時はムッとしてしまいましたが」
「そんなこと……言ったな、すまん」
黒川は現実でもネットでも変わらずに口下手なのだろう、発言だけ聞いてたら畜生の言葉でしかない。俺が黒川の事を蔑む目で見ているとクラウドさんは続けて当時の会話を思い出したように語る。
「その後に、そんな腕じゃこのゲームはツマらないだろう、部屋を作るから付いてこいと言ってくれたのを今でも覚えています、私は何も考えずにダークリバーさんとひたすらプレイをしてく中で頼んでもいないのにたくさんの事を教えてくれましたよね」
「そうだな……お節介だったか?」
「いえ、存在を認識してくれている、顔も知らない私にこんなにも親切に接してくれる人が久々でした、それが嬉しくて、たまにダークリバーさんの頭を吹き飛ばした時は楽しかったです」
会話だけ聞いていたら猟奇的だが二人にとっては大事な思い出であるのだ。
「その後に俺がクランに誘ったんだったか?」
「はい、誘われた時は嬉しく、中には嫌な事も言ってくる人もいましたがダークリバーさんとプレイするのは変わらず楽しかったです」
「すまない」
黒川の謝罪でクラウドさんは慌てて黒川へ返答する。
「あっ、謝らないでください、ダークリバーさんは何も悪くないじゃないですか!」
「俺は君の居場所を奪ってしまった」
黒川は申し訳なさそうに言う。
「私こそ、ダークリバーさんの作った場所を壊してしまったんです、謝るのは私です」
「違う、先程も伝えたがクランは今日限りで解散する」
クラウドさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら反対する。
「や、止めてください!だって大会にも既にエントリーしているんですから!」
「俺は自分勝手だ、あいつらにも悪い事をしてしまった……だけど、大会はサービスが終了しない限り来年も再来年もある、ただ今ここでクラウドさんを手放してしまったら俺は自分を許せない、何より君が居なくなる事の方が俺には怖い」
黒川は続けて言う、先ほどから怯えながらも揺るがない決心を秘めた目、そして俺からは見えている、ソファで奮い立たせるように手を握り締める黒川の様子。
「俺はもう一度クランを作る!俺と楽しくゲームをプレイしてくれる仲間の為のクランだ、雑念はいらない、だから君を……勧誘させてくれないか? 俺には君が必要だ!」
そう言って黒川は頭を下げ映画やドラマで見るプロポーズを彷彿させるように片手の掌を見せるようにテーブルの上に出す。
確かに大会へ参加しようとしていたメンバーには迷惑でしかないし別方向から見たら最低のクランマスターだ。
ただ俺は、そんな人間臭い選択をした彼を尊敬する、そしてクラウドさんも……
「卑怯です……そんな事を言われたら断れないじゃないですかッッ!」
彼女の手が黒川の掌にそっと重ねられる。
カラオケボックスを出る時にも見せなかった、堪えていたであろう涙がクラウドさんの頬を伝っていた、泣いた事に遅れて気付いて顔を残った片手で隠す仕草を見て思わずもらい泣きしそうになる。
どれほど悪意ある人間に凶弾されながらも黒川を慕っていた彼女は本当に欲しい言葉を今日手に入れたのだ、フィクションじゃ描けない美しい結末を迎えた。
「あぁ、卑怯ですまん」
「他の人を差し置いてその誘いに乗ってしまう私も卑怯です……」
「だったら丁度いいな」
こうして黒川のオフ会については幕を閉じたのであった。
後日、黒川は正式にクランを解散し新しいクランを発足し5chでは叩かれ、Twitterでは叩かれるという散々な目に遭っていた。
「またTwitterで叩かれてたな、お前の代わりに俺がエゴサーチしといた」
俺はこれまで受けていたイジリを返すかのように黒川をイジっていた。
「止めろ、俺の心はそれなりに脆い」
黒川は俺を恨むような目で見るが、今の俺にはその表情が何よりのごちそうである。
「木立氏、まぁまぁその辺で止めておきましょうぞ」
藤木田もオフ会の後に事の顛末を聞き、涙腺が堪えられないのか漢泣きをしてしまった。
「んで、その後にクラン自体はどうなんだよ?」
俺はその後に黒川とクラウドさんの様子が気になり聞いてみる事にした。
「まだメンバーは俺とクラウドさんの二人だ」
「ん?他の人は入れないのか?今までクランを脱退したライトプレイヤーとかいるだろ」
俺の発言に黒川も意味が分からないような仕草をしつつ返答をしてくる。
「それがだな、クラウドさんはメンバーが入らない事に危機感を持っていない、むしろ今は二人だけのクランを楽しみたいとか言ってきてな、意味が分からん」
その発言で俺と察しの悪い藤木田でも察してしまっていた。
俺と藤木田は真顔になり学校への道を急ぐ。
「どうしたお前たち?」
「お前がイケメン属性持ちなのを忘れていただけだ」
「そうですな、陰キャの風上にも置けませぬ」
黒川は鈍感属性を持つ主人公のように答える。
「ん? 何を言ってるか分からん友達だろ、どうして距離を取る」
俺と藤木田は露骨に黒川との距離を取る。
そう青春におけるラブコメの鉄則どころではない、二次元三次元に関わらずイケメンは大正義なのである、今日も俺は嘆く。仮に神のような龍が現れ
『さぁ、願いを言え、どんな願いでも一つだけ叶えてやろう』と言われたならば、こう答える。
「俺に青春ラブコメをくれっ!」
今日はこれで終わりりんです!!
ブクマ等ありがとうございます>、<




