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変夏と悪意ある陰キャ

 それぞれがドリンクバーで飲み物を補給し席に着いたところで自己紹介は始まった。

 『イカれたメンバーを紹介するぜ!』なんて天の声が聞こえてきそうな濃いメンツしかいない中で先陣を切ったのは小太りの男であった。


 小太りの男は立ち上がる、よく見るとかなり身長は高く太っている事もあり威圧感がある、しかし体躯とハンドルネームのギャップにて実はこの中では一番まともな可能性のある人間であった。


「それでは我から始めるとしよう、我は《さくらもち》皆も知ってのとおり、ARだ、よろしく頼む」


 さくらもちは一言だけ添えて自己紹介を終わらせた、次に自己紹介をするのは男児にパシらされていた眼鏡の男だった。


「それでは拙者が二番手を切らせてもらいましょう、拙者は《アスモデウス》さくらもちさん同様ARをやらせていただいておりますがボマーでもあります、以上」


 忍者のような口調なのに悪魔の名前をハンドルネームに使っているのか不思議で仕方ないが、ボマーって事は爆弾の扱いが上手いのだろう、俺も爆弾を黒川の指示通り投げてはいたが、滅多に敵を倒す事は出来なかったから多少なり凄さが分かるようになっていた。


「次は僕ですね、僕は《ゆうた》SRです、ちなみに本名で年齢は中学一年で趣味はゲーム全般、ちなみに好きな物はハチミツです」


 小学生だと思っていた男児は中学生であった、そして口調は丁寧だが非常に態度が悪く簡単に自己紹介を言い終えると座り携帯ゲームを始める。


「は、はじめまして!私は《クラウド》です、最近入ったばかりで迷惑をお掛けしててすみません……本日はよろしくお願いします!」


 女性のプレイヤーが黒川の言っていた、最近クランに入った初心者なのであろう。そしてぎこちなさが目立つ自己紹介を聞いて俺は安心した。


「次はお前だ」


 黒川に促されるように俺は立ち上がり自己紹介を始める。


「えっ……あのぉ、《ヤ、ヤヴァイ兵長》です、ダークリバーさんの友人で興味があり参加させてもらいましゅた、お願いしゅいます!」


 俺は自分でも忘れていた、最近笠木やケバ子とまともに話せるようになったのは少なくとも一ヶ月以上共に過ごしているからであり、本来の俺はガチモンのコミュ障である事。

 そして学校だろうが外部だろうが俺のポジションである陰キャの座は誰にも渡さない、そう心で自分を納得させ席に座る。


「今日はみんな集まってくれて感謝する、《ダークリバー》だ、マスターをやらせてもらっている、それでは自己紹介は終わったので、一度それぞれ交流を深めよう、乾杯」


 黒川の乾杯の合図に合わせて、それぞれグラスを持ち上げて乾杯という声を合わせるとオフ会が始まったのだと実感できた。


 そしてそれぞれが交流を深めていると、男プレイヤーは三人で固まりウドンアタックの戦術について話し合っている、そんな中で俺と黒川はいつクランの体制を変える話を切り出すか迷っていた。


「それでタイミングはいつにするんだよ」

「まだだな、今は会話をさせておいて、それぞれが慣れてきたら切り出したいが……」


 黒川は会話を途中で切り部屋を見回すと、クラウドさんは俯きながら一人で飲み物を飲んでいた。


「すまん、木立」


 そう言って黒川はクラウドさんの方へ寄って行った。


「クラウドさん初めましてだな」


 黒川が話しかけるとクラウドさんは驚いたように顔を上げて返答を始める。


「え……あっはい!初めましてです!あのいつも迷惑をお掛けしてすみません」


 クラウドさんは最初から謝ってばかりだった、自己紹介の時も今も何か申し訳無さそうに謝るのだ。


「迷惑じゃない、逆に感謝している、ウドンアタックは楽しいか?」


 黒川の感謝しているの部分には疑問符が浮いてそうな顔を浮かべながらクラウドさんは答える。


「はい!楽しいです、いつもダークリバーさんのようなプレイヤーとプレイ出来て恐縮です」

「それは良かった、またあそこに座る男も一週間前に始めたばかりのプレイヤーだ、話が合うかも知れん」

「そうなんですね、クランメンバーではないんですよね?」

「あぁ、いずれメンバーになる予定ではある」


 そんな話は聞いていない、俺を底なし沼へ誘ってんじゃねーよ。そんな絵面を第三者として見ていると声が飛んでくる。


「ダークリバーさんもこっちへきませんか?戦術や新しいフォーメーションについて話しましょう、えっと君もどうですか?」


 コイツ俺のハンドルネーム覚えてねーだろ。

 眼鏡の男……アスモデウスが黒川と俺に声を掛ける、そして武骨な態度で割と印象が悪くなかったさくらもちでさえニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべている。


 陰キャの俺だから分かる、こいつらの目的は黒川のギルドから初心者であるクラウドを排除したいのだ、俺に声を掛けたのは黒川のリアルの知り合いだからというだけである。

 恐らく最近、黒川がクラウドに費やす時間が多くてガチ勢としては不満なのだろう、そして都合よくこのオフ会でクラウドが参加する事もあり孤立させて追い出そうとしているのである。


 同じ陰キャながらこいつらも三谷同様に吐き気がするくらいに悪意ある人間であると俺は悟った。


「それならばクラウドさんも一緒に話すべきだろ」


 黒川は俺同様にクランメンバーの企みに気付いていたらしい。クラウドさんも不穏な空気を感じ取ったのか少しオドオドしている様子が伺える。


「主よ……我らが目標である大会に関係する出来事だ、部外者を間に挟むべきではない」


 クラウドさんどころか俺も省かれてるじゃねーか。


「このオフ会は大会の為に開催したわけではない、俺たちのクラン内でのオフ会だ」

「僕、思うんですけどダークリバーさんはクラウドさんに構いすぎじゃないですか?」

「なんだと?」

「クランマスターであるダークリバーさんに言うのも気が引けますが大会前であるのにそんな人に時間を割いてどうするんですか?意味がありますか?」


 陰キャの俺は分かる、コイツ絶対クラスに友達いないやつだ。

 人を納得させる為に、この中学生の言い方はあまりに幼稚だ。この問題の一つである大会に関していえば中学生のいう事の方が正論なのは間違いはないが、正論はあくまで正論の範疇を超えないどころか敵を作りやすい為、説得方法としては悪手でしかない。


「大会に限って言えばゆうたの言い分も分かるが俺はあくまでクランマスターとしてここに来ている、大会出場者としてのダークリバーではない、そもそも大会参加者ではないメンバーがいるのに対して大会の話をここでする事自体が間違っていないか?」


 黒川の言い分に対して中学生は言い返せないのか黙っていると眼鏡の男が口を開く。


「拙者らにとってこのオフ会は大会出場を含めた上でのオフ会であると認識していますが、そうではないなら何のためにこのオフ会を開いたのですか?」


「それは予め伝えているはずだ、クランとしての交流会という名目であると」


 眼鏡の男の意見に静かに頷く小太りの男、便乗してぶつぶつ文句を言う中学生。

 ヒートアップしていく黒川、そしてこの言い合いを黙ってみている事しか出来ない俺とクラウドさん、黒川に釘を刺されているが黙っているのがそろそろ限界だなと思っていた、その時。


「あの、もう止めてください!」


 これまでオドオドして黙っていたクラウドさんの声に言い合いは一度ストップがかかる。


「ごめんなさい、私来ない方がよかったですよね……」


 黒川も当の本人であるクラウドさんを置き去りに話を進めていた事にようやく気付いたようだ、ついでに言うなら俺はまだ放置されている。


「そんな事はない、これはクランのオフ会だ。俺は来ない方が良かったなんて思ってない」

「だって今皆さんが言い合っているのは私がここにいる事が発端ですよね、だとしたら原因である私が居ない方がいいですよ……」


 クラウドさんのいう事に中学生が苦言を伝える。


「そうですね、クラウドさんがいなければ拗れる事はなく僕たちは大会への準備として時間を有効活用できたのですから」


 中学生の発言によってクラウドさんは決心を固めたのか立ち上がる。


「そうですよね、迷惑をかけてごめんなさい、今までありがとうございました」


 クラウドさんは部屋に陰キャだけを残して出ていった。


「言っただろ、お前の言い分は希望論でしかないって」

「木立……」


 おい、止めろ、本名を出すな。


「ここは現実だ、ギャルゲのようなご都合主義なんざない、全員がハッピーエンドを迎える様に出来るのはファンタジーくらいだ」

「分かっている……」


 黒川は弱弱しく答えるが俺は言葉の強さを落とさずに黒川を凶弾する。


「分かってないから言ってんだ、人生はほぼ二択だ」

「……」

「俺も大層な事言える立場なんかじゃねーけど、ここでどっちを取るかだ。もしかしたら大会はお前の将来にも関わる重大な事かも知れない……だから正解なんてないがそいつらをとるか、今出ていったお前のメンバーのフォローをするかだ、後は何も言わん」


 口を出すなと言われれば天邪鬼が発動して口を挟んでしまっていたが、後悔はない。

 俺個人としては黒川はどっちをとろうが黒川への印象や友情は変わらない、ただ利益とか未来とかを考慮しないバカな選択の方が俺は好きだ。


「ダークリバー殿、どっちが重要かなんて分かりきっています、ご選択いただければ幸いです」

「考えるまでもないですね」

「我が言う事は何もない」


 大会出場者である三人の意見は変わらないようだった、後はクランマスターである黒川の決断のみであった。


「俺は……クランを解散する」


 黒川は選択をした。


「は?」

「バカな事を言うな」

「頭悪いんですかああぁ?」


 案の定三人からは反論が飛んでくる中、黒川の意思は変わらないようで立ち上がる。


「頭が悪くて結構、大会への参加も辞退だ」


 黒川は一言いい残し部屋から出て行った。


 その黒川の様子を三人は唖然としながら眺める中、俺は思う。

 いや、俺も連れていくべきじゃね? アウェイなんですけど。


 板賜れない空気の中、俺は言おう。


「と、とりあえず歌いますか?」

本日終わりです!!!! 追記する形更新いたしました。

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