変夏の黒船は鎖国を破壊した
ネットカフェに入り数時間が経過していた。俺と藤木田は黒川の指導によってたった一つのステージで延々と戦闘をさせられていた。
「木立!照準が下がってる、常にヘッドショットのラインを意識しろ、藤木田は身を出し過ぎだ、無駄な動作が多い」
俺と藤木田は忘れていたのだ、黒川はこのゲームにおいては廃人と呼ばれる人種なのである、黒川の基準でプレイをさせられるという事はこうなるであろうと予測できたはずだ、しかし時すでに遅し。
俺達は地獄の観覧車に乗せられていたのだ。
「エイム……エイム……三本目のラインでショート確認、ロング確認」
俺は無意識の内に今日覚えたばかりの言葉を復唱しプレイを続ける、隣の藤木田も同様にぶつぶつと呟いている。
「AショートARツー、Aロンスナワン、Bサイト……」
藤木田も俺と同じチームにて俺と同様の動きをしていた、藤木田も口調が黒川のように所々足りない。
部活動とか入った事ないけど、こういう感じなのだろうか……地獄かよ。
「Aサイトは藤木田が既に確認している、二度手間だ、またAには既に四人いる、Bを覗きに行くべきところだぞ、また定型チャットを忘れるな、そのひと手間が勝利のカギであり味方を延命させるんだ」
もう北高FPS部でも立ち上げるべきだ、黒川は恐らく俺達にFPSの楽しさを知ってもらいたいのだろうが正直に言うと逆効果である。
そして本日の黒川からの指導は十九時に終了した。
「いやはや、久々に目が痛いですぞ!」
「俺もだ、目どころか手首を動かすと痛い」
そんな俺達の様子を見ながら黒川は口を開いた。
「まぁ、これが普段俺のやっている事の一部だな」
一部……? 何を言っているんだろう、俺と藤木田がプレイしてから数時間経過している、黒川はこの後にも何かしら行っているのかと思うと、そりゃ学校では寝て放課後を迎える事になると納得できる。
「一部ってお前……」
「俺くらいになるとここからが本番だ」
黒川は満足気に答えるが学生と言う身分でこのスケジュールはどうなのだろうかと異議を唱えたいが、全てFPSへ話が戻っていきそうなので発言を控える事にした。
「それでは某はそろそろ帰りますぞ、お二人はどうするのですかな?」
藤木田は目の疲れから帰りたがっているようだった、また家の方針も普通の家庭よりは厳しい事もあり門限とやらが近づいているのだろう。
「んじゃ、俺も帰るかな」
「木立はまだだ」
俺も藤木田と連なり帰ろうとしていると黒川が俺を引き留める。
「え?俺だけ第二ラウンド、嘘だと言ってくれ」
「例のオフ会の件の説明をしたいんだ、事情が分からないと木立も困ると思ってな」
そういえばオフ会に参加する為の予備知識としてFPSをプレイしていた事を俺は今更になって思い出す。
「あぁ、そういえばそうだったな」
「忘れていたのか、その方が話に入りやすいだろうと言う点で今日はネカフェを長時間借りていた」
そういえばオフ会を行うとは聞いていたが、どのようなメンツでの参加になるのだろうか?と疑問が湧いてくる、と言うより何故コミュ障ネット弁慶の黒川がオフ会などという場違いな催しに参加することになったのかを聞いていない。
「すまんな、黒川の指導がガチ過ぎて本来の目的を忘れていた」
「本来の目的を忘れるほどFPSが楽しかったか!見込みがあるぞ木立!」
違う、そうじゃない。
いい笑顔をするな、否定しづらいだろうが。
黒川の笑顔を前にして否定出来るほど俺の神経は狂っておらずテキトーな相槌を打って話を進める事にした。
「んじゃ、とりあえず藤木田とはここでお別れだな」
「そうですな!それではまた明日学校にて会いましょうぞ!」
「また明日、藤木田」
そう言って、藤木田は街中に消えていった。
「さて、それじゃどっか店に入って話をする形にしようぜ」
俺と黒川はいつも通り駅前ビル地下のサイゼへ向かう。
そろそろ拠点を増やさなきゃとは毎回思うのだがサイゼへ足を運んでしまう、新規開拓って陰キャにはハードルが高い、前回のスダバを思い出してしまうからな。
サイゼでは顔馴染みの店員がいつも通りの挨拶をする、そろそろ俺と黒川にあだ名が付けられてそうだなとネガティブな事を思いつつ隅の禁煙席へを足を運び、ドリンクバーと軽食を注文し注文が揃ったところで黒川の話を聞く事にした。
「それで、オフ会の参加理由ってなんだ? 黒川がそういうのに進んで参加しないキャラと俺は認識していたぞ」
黒川は少し暗く悩んだ表情をしながら答える。
「実は、今回のオフ会は俺が主催だ」
黒川の言葉に俺は驚きを隠せなかった、あの黒川が自らオフ会を主催するなんて俺の中ではあり得ない出来事なのだ。
「気でも狂ったのか?」
「正常だ、自分でも大胆な行動に出たとは思う」
黒川本人も自らの行動に多少疑問を抱いているようだった、ここに藤木田が居たらサイゼのテーブルに身体ごと乗り出しオーバーリアクションを取っていただろう。
「それで何で主催しようと思ったんだ?友達作りか?」
俺の言葉で黒川は悩みつつも話し始める。
「友達……ではないがウドンアタックではクランと呼ばれるチームみたいな組織が存在する、今回のオフ会は俺のクラン内の戦士達のみで行われる」
「それだと、慣れ親しんだ連中だから俺が付いていく必要はないだろ」
「確かにボイスチャットやTwitterでの関わりはあると言っても顔を合わせて話すのは初めてなんだ、どういう人間が来るのかもわからないしな」
確かに、5chで煽りまくった相手と次の日、顔を合わせて話せるか?と言われたらそうではないなと納得する。
「そいつらが怖いって事でいいのか?」
「得体の知れない恐怖もあるが本題はそこではないんだ、俺のクランは元々俺のような廃人が集まるクランではなく、どこにでもあるゲームを緩く楽しむ事を目的としたライトプレイヤー向けのクランだったんだ」
俺は黒川は緩く楽しんでる姿が想像出来なかった、先ほどのネカフェでの鬼軍曹のような絵面しか頭に浮かべられない。
「そんなクランの中ではあるが俺はそのゲームではトップクラスの実力を誇っていたんだ、クランメンバーとプレイする時はもちろん手を抜いたり和気藹々と楽しんではいたけれどな」
「まったく想像できんな、闇堕ちでもしたのか?」
俺の言葉で黒川はいつも通り、カッコつけるような表情をし答える。
「ふっ堕天したルシファー……みたいなものではあるな」
「お、おう」
整った顔でそういう事言うの止めてもらいたい、笑って煽り倒してやろうとしても躊躇してしまう。
「そんなほのぼのしたクランに俺のような強者がいた事が間違いなのかも知れなかった、俺のクランには俺に憧れたプレイヤーが他のクランから移籍する形で集まってきたんだ、憧れられて正直悪い気はしなかったし、嬉しいとさえ思った、しかし元々いたクランメンバーはそうではなかったんだ……」
黒川はテーブルに置かれたドリンクを一口飲み再度会話を続ける。
「クラン戦と呼ばれるクラン対抗の戦いだけではなく、どんな状況においてもガチ勢が元いたクランメンバー達に指示や罵倒と言った心無い言葉を投げつける場面が増えてきたんだ」
「そんな奴らクビにしたらいいだろ、俺が黒川の立場なら即クビ、事前通告すらしない」
「木立ならそうするだろうな、ただ俺は木立のように物事を素早く決められる能力は持ち合わせちゃいなかったんだ……」
黒川は緊張、というか普段このように長く喋る事がないからなのか頻繁に飲み物を口に入れる。
「確かに言葉自体は酷いがプレイスタイルの違いが大きい事から俺も強くは注意する事が出来なかった、元居たメンバーもガチ勢も両方とも俺を慕ってクランに加入しているからな……」
恐らく黒川は気付かなかったのだろう、自分が管理出来る範疇を超えてしまっていた事を。
「そうして時間が経つにつれ元居たメンバーはどんどん離れていきほぼガチ勢しか俺のクランにはいなくなったんだ、そして今年の夏に運営主催の公式大会が開かれる事になった」
「俺が思ってたより凄いプレイヤーなんだな、大会に出るとかガチじゃねーか」
「ガチなのかは微妙なところだな、その公式大会は俺も興味があり出場を決めたが、少し前に新人が加入したんだ」
「その新人は完全な初心者でな、ソイツとプレイをしていると俺が始めたばかりの頃や、元のクランの形を思い出してしまってな……」
俺はこれまでの黒川の話を聞いて、黒川が結局何をしたいのかが分かりかねていた。
「しかしガチ勢はその新人に対して良い顔をしなかったんだ、それでネット越しに話しても解決しないならば直接話してクランの問題を解決したいと思ったんだ」
「結局、黒川は今のクランをどうしたいんだ、元のクランに戻したいのか? それとも大会で勝ち進める程のクランを存続していきたいのか?」
俺の言葉で黒川はしばし考えるが、数秒後、黒川から返ってくる言葉は釈然としない物であった。
「わからない、元のクランの雰囲気に戻したいとは思う反面、大会に出たい気持ちや俺に憧れたガチ勢もないがしろにしたくないと思っている……」
黒川の希望は理想論だ。ウドンアタックを少々プレイした俺でも分かるくらいに現実味がないのだ、あの手のゲームはライトプレイヤーとガチの共存は実質不可能だ。
黒川もその事は分かっているのだろう、しかし黒川は決められないのだ。
「俺が言うのもなんだけど分かり合う事が出来ない奴らもいるぞ、そもそもライトプレイヤーだらけだったクランにそいつらを加入させたのが間違いだろ」
俺が言わなくても黒川は自身の過ちに気付いている。
「理想論を追うのは黒川の勝手だが大会前にその名目でオフ会を行うって事はどっちにしろ針は傾くぞ」
「あぁ、それを承知で開催する」
黒川の覚悟は既に決まっているようだった。
「それで肝心の内容だがどうして俺をその場に連れていくんだ?」
「木立は何もしなくていい、ただそこにいるだけでいい」
黒川は意味の分からない事を言う。
「何もしないなら居なくても変わらないだろ」
「変わるさ、少なくとも友が見ている前で俺が逃げる事がなくなる、俺に必ず決断をさせるために一緒に来てほしい」
黒川はそう言って頭を下げる。
正直俺にとってはたかがゲームである、ただ黒川にとってはこの上ない重要な事なのだ。
だとしたらその頼みを俺が断る事はない、俺は黒川の決断を見届けようと思う。
19とか21こうしんありますですのですよ




