幕間:後ろの席のヒーロー
一章の幕間の二話目ですぞ!
※注意※(ガチ)
大変心苦しいのですが、人によっては、かなり不快に感じられる内容が記載されております。
かなり描写を省いたりボカしたり削ったりしましたが、それでも不快に感じられる方がいらっしゃるかもしれません。
あくまで 【創作物】 として楽しんでいただけると幸いです。
話の大筋に関係はありませんので、サブストーリーとして楽しんでいただけたら幸いです。
人間の適応能力は非常に高く、大概の事は適応能力が解決してくれる。某は自室でモニターを眺めながら独り言を呟くのでした。
『そんなものケースバイケースですぞ……』
血が滲んだ頬を撫でながら某はモニターを落としベッドにゆっくりと腰掛けました。
何度殴られようが罵倒されようが、少なくとも某が痛みという感覚に適応する事は不可能でした。
しかし新しい自分を演じる事には慣れてしまったようで、嫌な口癖は某に定着してしまったのです。
外見から始まり、いくつかの過程を経て今に至るまで某の環境は悪い方向にしか変化はありませんでした。
某も産まれた瞬間からイジめられたという事では無かったですが、キッカケは案外あっさりした出来事でありまして、ケイドロという遊びにて某が泥棒役になった事と、少しばかりやんちゃな同級生が警察役になった事でした。
やんちゃな同級生は泥棒役がやりたかったのですが、じゃんけんの結果で希望に反して警察役に割り当てられた事が原因だったかと思います。
機嫌の悪くなった同級生は、運動能力の低い某を初めに捕まえようとしましたが、予想よりも某が逃げ捕まらないという事にイラついたのか足元にあった石を某に投げつけました。
身体が怯むくらいに痛い位置からは外れましたが、石は某に命中し、その僅かな痛みに対して強がるように某は笑いました。
そして彼を許しました。某は優しさと強がりという感情を抱いたのとは反面、彼は別の感情を抱いたのでしょう。
『コイツはやられてもやり返せない弱い人間なんだ』
これは某の憶測の域を出ませんが、恐らく似たような考えであると思っております、そこから徐々に暴力的な行為が増えていっても、某は笑って許しておりました。
そこには優しさという感情は既に存在していなく、某の感情は強がりと恐怖で埋め尽くされておりました。
そして某の唯一の抵抗である笑顔という強がりは、ある日突然終了しました、限界だったのです。
恐怖という感情しかなくなった某は懇願しました、暴力を止めてほしいと。
その言葉を聞いた同級生達の表情は、怒りの表情ではなく笑顔に満ちていました。
某が捨ててしまった仮面を奪い取るように彼らは嘲笑っておりました。
その時に、二回目の選択肢を間違ってしまったのでしょう。
そして中学に進学しても同学区内である事から某は、同小学校からのイジメだけではなく他校から進学した同級生にも暴力を含むイジメを受けるようになりました。
人によっては、たかが暴力、精神的なイジメの方がキツイと意見を出す方もいるでしょう。
しかし、人よりも細く力の無い某にとっての暴力と言うイジメは、非常に耐えがたい仕打ちでした。
『このくらいの力で殴っても平気』
そういった考えを持った人間は加減という無意識のリミッターを、一つ一つ解除するのです。
日に日に某の痛みは増していくばかりでした。
耐えても地獄、耐えれずとも地獄としか言いようがありません。
某は苦肉の策として、同級生では無く両親に懇願をしました。
『イジメを受けている、限界だ、学校へは行きたくない』
かなり端折りましたが、伝えた内容はそのような事でした。両親は某の痣がある顔や綻びのある学生服を見てこう言いました。
『偏差値の高い学校へ行けばソイツらとは関わらなくて済む』
某はその言葉を聞いて納得仕掛けましたが、二言目が某の心を抉りました。
『不登校の息子がいると分かったら、近所や会社の人間に隙を作る事になる』
この時点で某の味方はこの世に存在しないと悟りました。
今でもこの件については某には分かりません。世間体という概念が子供よりも重要なのでしょうか?
その後も、執拗にイジメを受けながらも某は偏差値の高い高校を受験する為に塾へ通う事になりました。
恐怖から逃れる術はそれしか無かったのです。
しかし塾でも暴力は無いにしろ、某の外見や口調を理由に言葉の暴力で精神を摩耗させる輩が多かったのも事実でした。
肉体だけでは足りず、某は塾での疲労によって精神を擦り減らしていきました。
『そもそも何故こうまでして生きなくてはならないのだろうか?』
『生きている理由とは?』
『某は将来何をしたくて勉強をしているのだろうか?』
『学校からも両親からも必要とされていない、そんな出来損ないが社会に出て必要とされるわけがない』
そんな事を考えながら、深夜自室で勉強する某は参考書に付属していたDVDを再生する為にテレビの電源を点けると、とあるアニメが流れました。
タイトルは忘れましたし意識が虚ろだったので思い出そうとしても未だに思い出せないでおります。
主人公と思われる男が学園生活を過ごしている場面から始まり、女子生徒とのコミカルな会話を続けていきますが、それよりも某の中で印象に残ったのは同性との友情とも呼べるやり取りの部分でした。
青春の定義は某には分かりませんが、某が液晶越しに見た光景はまさしく青春の一幕と呼べるものだったと断言できます。
しかし、そのようなやり取りも夢のまた夢。
木立氏ならば、こう言うでしょう。
『二次元はジャンル問わず全てがファンタジーだ、期待するだけ無駄だ』
某も当時はそのような考えでした、そして言葉通りに全てを諦めておりました。
しかし……
転機は、突然訪れました。
その日も某は傷だらけ、ボロボロの制服のまま塾で目的の無い勉学に励んでおりました。
そんな中、某の通っていた塾で小テストがあり成績順に席替えが行われました。
そんな時に、後ろから不意に肩を二回叩かれました。
『ちょっといいか? さっきの小テストの問十二なんで……ここって病院じゃないぞ、来るところ間違えてないか?』
久しぶりに本来の意味で肩を叩かれた事と内容は別として普通に声を掛けられた事に驚きました。
「……何か用ですかな?」
某の返答で後ろの席の生徒は、返却された小テストの問題について尋ねてきました。某は、分かる範囲でその生徒へ問題の解き方を説明しました。
「どうも、でも塾より病院行った方がいいと思うぞ」
余計な一言を付け加えて、後ろの席の生徒は講義に戻ってしまいましたが、その日を境に後ろの席の生徒は分からない事があると某へ話しかけてくるようになりました。
毎回余計な一言もオマケで付いてきましたが、時には勉強の事だけではなくアニメやライトノベルと言ったサブカルチャーというジャンルの知識を逆に教えてもらう事もありました。
話す内容や捻くれた持論を並べる彼は間違いなく陰キャというカテゴリーに当てはまる存在でした。恐らく彼も某同様恵まれない青春を送っているのだろうと、陽キャに対する恨みや嫉妬とも取れる発言でなんとなく理解はしておりました。
そんなある日、塾の休憩中に後ろの席の生徒へ他の生徒が話しかけておりました。
『お前さ、アレと何で絡んでんの?』
『えっと、絡んでる……って何?』
後ろの席の生徒は、アレと呼称された某の話ではなく絡んでるという意味が分からないのか、質問に質問で返しておりました。
『あー講義中によく話してるじゃん』
『んんぅ? コイツの方が、俺より頭が良いし近いから教えてもらってるだけだけど』
『アレさ、いつも傷だらけだし普通に顔キモイし喋り方も変じゃん、絡む相手選べよ』
名前も知らない生徒の言う事は事実でしたから怒りも湧きませんでしたが、やはり悲しさと惨めさという気持ちだけは拭えませんでした。
『それが勉強を教えてもらう事と何の関係があるんだよ?』
『い、いや、関係とかじゃないけど、聞いた話なんだけどイジメられてるって聞くし関わんない方がよくない?』
後ろの席の生徒がもう某に話しかけてくる事はないでしょう、そう思いましたが、彼の返答は某の予想を裏切りました。
『そういやお前の席どこ?』
後ろの席の生徒は、何故か名前の知らない生徒の席の位置を伺っておりました。某もまったく脈絡の無い話に頭を困惑させておりました。
『え? あそこらへんだけど』
『あぁ……だからか』
『え?』
『いや、前にネットのとある記事を見たんだけどな。偏差値が二十くらい離れてると会話が成立しないらしいんだ、俺がお前の言ってる事分からないのってそういう事だなって納得しただけだ。言っとくけど俺がお前より二十くらい上って事だからな』
その会話を背中で聞いていた某は何年ぶりだったでしょうか、我慢はするものの声を抑える事すら忘れていた為に後ろの二人に聞こえるように笑ってしまいました。
『は? うぜぇんだけど、テメェらなんか受験に落っちまえよ!』
普段バカにしていた某に笑われた事で恥ずかしくなったのでしょうか? 名前も知らない生徒は文句を吐き捨て去って行きました。
『受験に落ちるのは俺より偏差値が低いお前の方だろ……』
去って行った彼に苦言を残す、後ろの席の生徒の言葉に某は終わったはずの笑いを再発してしまいました、いい意味で腹筋が痛くなったのは久々でした。
そして理由はどうあれ、某を助けてしまった彼に聞く事が増えました。某は振り返り後ろの席の生徒へ尋ねました。
『庇ってくれてありがとうですぞ、でも彼に意見するのは怖くなかったのですか?』
後ろの席の生徒は、キョトンとした顔で少し考えた後に口を開きました。
『よく分からんが……どういたしまして? それと質問への回答だが、塾なんかに通ってる奴なんかどれだけイキり散らかしても陰キャに決まってる、怖いわけがないだろ』
あれだけ、偏差値云々と名前も知らない生徒に豪語した彼の理論はガバガバでした。後ろの席の生徒の意見の方が因果関係なんて微塵も感じない内容でした。
それでも自分の考えを信じて疑わない彼を、某は羨ましく思いました。
そんな事があっても、某の日常は劇的に変わりませんでした。
学校ではイジメられ両親とは、とある事情で更なる亀裂が入りました。
唯一変わった事があるとするならば、居場所が出来た事です。
それは塾なんて牢獄のような場所では無く、後ろの席の生徒との間で発生した友情という居場所です。
某が本当に欲しくても諦めていた物を彼から貰ったのです。生きている理由なんて大それた事ではありませんが、それでも彼と過ごす時間は某にとって宝物となりました。
いつかは彼と対等に並べる自分で在りたい。そして彼のように誰かを救えるヒーローになりたいと心から願うのでした。
「木立氏! 同じクラスですぞ!」
高校入学初日、一階の廊下に貼りだされたクラス割を見て某のテンションは爆上がりでした、陽キャ風に言うなればあげぽよと言いますかな?
「悪いな藤木田、俺は今日から陽キャへ転職する。お前とはここまでだ」
何が木立氏にそこまで自信を持たせているのか某には分かりませんでしたが、某も根拠も無く断言させていただけるのならば、間違いなく某と木立氏の立ち位置は……
【青春の隅っこの方】であると某は言いたいのですぞ!
最後まで見ていただきありがとうございました;w; 不快に感じられた方がいたら申し訳ございません。。。




