幕間:地球最後の日
幕間というものを書いてみました、本筋にまったく関係ないサブストーリー的な位置づけです。
一章のラスト後に入っておりますが、時系列は特に関係の無い話なので気にせずに読んでくださいませ!
「地球最後の日?」
人気のない教室でお昼を共にしていたある日、藤木田は脈絡も無く完全解答が存在しない、所謂中身の無い話題を提供してきた。
「考えた事はありませぬか? こう教室にいきなりテロリストが窓を割って侵入してくるみたいな妄想といいますかな」
確かにテンプレテロリストが教室を占拠し俺が組織と対立して攻防を繰り広げる妄想なら幾度となく描いた事がある、というか今でも授業中にたまにしてる、なんなら体育の時間ですらやってる。
しかし俺は経験が無いように装いながら平気で嘘を吐いてみせよう。
「ないな、それを考えたところで何かあるのでもあるまいし、現国の教科書に引用されている有名作品の抜粋部分を読んでいる方が有意義だ」
捻くれている俺は、そんな話題に興味がない振りをしつつも内心は、気になる話題だった。陰キャの特徴であるのか俺個人の趣向の問題なのか定かではないが、《たられば》の話は大好物だ。
もし宝くじに当たったら……もし自分の好きな二次元作品の世界に紛れ込んだら……VRMMOの発達により仮想世界が確立されたら等。考えるだけで楽しい内容である。
「俺はあると言っていいのか分からないが、世界の終焉そのものを体験している」
静かに話を聞いていた黒川は、藤木田の話題にゆっくりと食いついてくる。
しかし黒川の戯言も、この話題では映える返答であるのも事実。俺は気まぐれに話を促してみる。
「世界の終焉? 人生何週目だよ」
黒川は話す機会を得た事が嬉しいのか、堪えきれない笑みが口元から伺える。
「俺が廃人レベルのFPSプレイヤーというのは知っているだろ? だが俺は何もFPSしかプレイしないわけではない」
「黒川氏が他のゲームをやっている姿など想像出来ませぬな」
藤木田の言う通り、黒川=FPSのイメージが強いため、せこせこRPGでレベル上げをしている姿など想像出来ない。
すると黒川はスマホを取り出し俺と藤木田へ見せるように差し出す。
「ソシャゲという物を知っているか?」
「知っているが、その世界の終焉とソシャゲの何が関係あるんだよ?」
「オンラインゲームやソシャゲと呼ばれる作品は、完結した世界を提供するコンシューマーゲームとはまた異なるコンテンツとなっているんだ、光と闇……そのくらい離れている」
いつもの病気かと思ったが、いちいち話の腰を折っても仕方ないので一旦喋り切らせた方が都合がいい。
「簡単に言うと、オンラインゲームやソシャゲは完結していない発展途上の世界を提供している事になる。そして完結されていない世界という事は完結しない可能性も出てくるだろ?」
「それが世界の終焉と、どう結びついてくるのですかな?」
「ふっ……俺がスマホで行っていたソシャゲも話の通り、完結していない世界の提供を行っていた、そしてそういったゲームには存続させるための資金調達が必要だ、主な調達方法は広告や利用者による課金というわけだ」
何を言いたいのか正直分からなくなってきた、地球最後の日から世界の終焉に言葉を変えて、果てにはオンラインゲームやソシャゲに関する運営の話になっている。黒川は将来、中身の無い団体を設立してトップに立ってる姿が想像出来そうだ。
「そして、その調達に失敗したソシャゲの末路はサービス終了、世界の終焉だ」
「悲しき現実ですな……」
言ってる内容はここでようやく理解したけど、前振り長すぎない? 胡散臭い起業家のセミナーかよ。
「サービス終了当日の、オンラインチャットで飛び交う喜怒哀楽! 幾らでも他には世界がある、それなのに……何の意味も無い、数時間後には消滅する世界で彼らは……彼らはッ! クッ!」
ただ話しているだけなのに今にも泣きだしそうな雰囲気を黒川の表情から感じ取れる。
「黒川氏! まだ……まだ終わっておりませんぞ! エピローグを迎える時間ではないのですぞ! 言ってくだされ!」
コイツら、何者なんだろう。
ここお昼の教室だからね、少数とはいえ残っている生徒の視線とか気になるから過剰な行動しないでもらえる?
「すまない……彼らのチャットは、世界が溶ける瞬間まで『俺達は此処にいる!』そう主張しているように見えた、生命の鼓動を! 憎悪を! 感謝を! 愛をッ! その滅びゆく世界を俺は儚く美しい……そう感じた」
黒川は、言葉を言い終える頃には座っていたはずの身体を立ち上がらせて全身を使い大袈裟に表現していた。
本当に恥ずかしいから止めろ! この空気で陰キャの俺は俯く事しか出来ない。
「黒川氏……! 黒川氏!」
藤木田は黒川の演説に感動しつつ、言い表せない気持ちを黒川の名前を連呼する事によって称賛しているようだった。
全てにおいて、限界だった俺は逃げるように無言で立ち上がり教室後方の扉から廊下へ出る。
そして目的もなくひたすらに廊下を歩いて時間を潰していると思い出したように一人呟くのだった。
「……地球最後の日の話してなくね?」
最後まで見ていただきありがとうございました! 本編もよろおねねです!!




