青春のエピローグのエピローグ
後日談
宿泊研修から数日が経過していた。
あの宿泊研修で何か変わったかと聞かれたら、何も変わっちゃいないと俺は答える。
藤木田と黒川との友情も変わらず存在する。
また笠木の高校デビューについてはケバ子が一人一人に睨みを利かせ黙らせていた、それを止める笠木の姿もあり笠木も相変わらず新しい自分を認めて生きている。
また陽キャグループがどうなったかと言うと……
「でさ~マジで綾香こえーの! 三谷の胸倉掴んでさ――」
「あんなの自業自得じゃん、ウチのグループに喧嘩売ってきたようなもんでしょ」
「もう、いいって言ってるのに!」
コチラも相変わらず教卓の前で円卓の騎士ごっこに精を出していた。
宿泊研修の一件の後、ケバ子以外の奴らも笠木を庇えなくて悪かったと謝罪をしてすんなり終わったらしい。
流石陽キャ《KIZUNA》で満ち溢れている。
学年ではまだ宿泊研修での笠木の件を噂する生徒もいるが、ケバ子に因縁を付けられるのでいずれ風化するだろう。
そして俺と笠木はと言うと………。
何も変わっちゃいない。
同じクラスの隣の席で俺が日々、笠木ウォッチングに励むという基本行動も変わらない。
そう、自分自身の気持ちに気付けたのは収穫であったとは思うが結局のところ青春ラブコメはファンタジーであり存在しないのだ。
「木立くん」
不意に授業中に笠木に話しかけられる。
「ふぇあ? あっ……笠木、えっと何?」
この癖だけは抜けないな、キャンプ場では主人公補正が掛かっていたらしいが既に異能の力は失われていた。
「まだ私と話すの緊張したりするかな?」
「あっその内直るので……善処します」
善処という言葉って便利!
まぁ、その内本当に直したいところではあるな。
「それで……今日の放課後なんだけど駅前の地下にあるカフェに来てくれたら嬉しいかな……って」
本当にタチが悪いと思う、時間差で青春ラブコメを仕掛けてくるなんて。
まぁ良い、始まるならもう文句は言わない、見てろ藤木田、黒川。
青春ラブコメ王に……俺はなる!
放課後、笠木の指示通り、駅前地下のカフェで笠木は俺を待っていた、ご丁寧に笠木は俺のドリンクバーまで注文してくたらしい、正直コーラはそこまで好きじゃないが頂こう。
俺が笠木がいる席へ近づくと……。
「急に呼び出してごめんね」
笠木は相変わらず可愛い、そして今日から笠木、いや雪は俺の彼女となるのだ。
「いや、気にしなくていい、それで話があるのか?」
「それなんだけど――」
笠木の言葉を遮って。
「あれ、着いてんじゃんストーカー野郎」
ケバ子がテーブルの横に立っていた、ケバ子は笠木の隣に座るとコーラを一口飲む。
あっ…それ俺のじゃないんですね、はい。
「それでね……」
中途半端に笠木は言いかけていた言葉を中断しケバ子に耳打ちをするように話しかける。
「綾香から言ったほうが良いよ、絶対に!」
聞こえてんだよなぁ。
「あー…んとさ、お前が宿泊研修で雪とアタシの間持ったのって……クソッ!」
そう言いながらケバ子はコーラをもう一口飲み始める。
「もう! 綾香が言わないなら私が言うからね!」
「え!? ちょっ……雪!」
ケバ子の静止を振り切り笠木は勢いに乗って言葉を放つ。
「木立くんが私と綾香の間に入ってくれたのって綾香が好きだからでしょ?」
ん?
「お前ストーカーするくらいアタシの事好きなんだろ? だからお礼というか……」
ケバ子は何か乙女らしくモジモジし始める。
「綾香頑張って!」
何か大きく間違っている気がする。
「んっ! ID!」
「え?」
やはり外見通り、ケバ子の頭は良くないのだろうか? それとも幼児退行でもしてしまったのだろうか?
「だ、だから……! チャットIDの交換からならイイって言ってんの! 察し悪ぃな!」
そう言ってケバ子は人形やアクセサリーがたくさん付いた頭の悪そうなスマホケースに包まれたスマホを目の前に出す。
「綾香、言えたね!」
ケバ子に一声掛けると笠木は何か期待した目で俺の方を見てくる、そして横を見ると恥ずかしそうに上目遣いでバカスマホを差し出すケバ子。
そう、青春ラブコメという概念はファンタジーであり現実には存在しないのだ、青春ラブコメの神様は未だ俺にラブコメをさせる気が無いみたいで嫌気がさす、しかしながら陰キャの俺にしては上等な結末と言えなくもない。
この話をして明日辺り藤木田と黒川でも笑わせてやろう、それでも俺はこれからも青春ラブコメを諦めないし期待し続け騙されていくだろう、それが苦しくて楽しくて青春であるのだと俺は言いたい。
【第一章 青春ラブコメは始まらない 了】
1章終わりましたンゴ おつかれさまンゴ
応援してくださった皆様と全ての事柄と3万円のノートパソコンに感謝を!!
2章あります




