青春が某にもっと輝けと囁いていますぞ
「本屋だな、丁度新刊出てるだろうしな」
俺を知ってもらうにはアニメや漫画、ライトノベルといった所謂サブカルチャー側へ案内するのが手っ取り早いのだ、陰キャのテンプレを自称する俺だからこそスタンダードに自分の好きな作品を紹介したいという気持ちもある、またサブカルチャーにも該当する要素はあるが、そのカテゴリ内でも更に細分化されているので文字を読む事に苦痛を感じなければライトノベルや漫画はどのタイプの人間にも興味が湧くジャンルが存在するのだ。
「本屋ですか、それでは連絡通路を辿ればデパート内に併設されております本屋がありますのでそちらの方へ向かいますかな?」
「本か……俺は漫画やライトノベルをそこまで読まないからあまり行かない場所だ」
藤木田はともかく黒川が本屋へのアクセスが悪いとは知らなかった、なら逆に黒川にとっては新鮮で都合がいい。
「それなら好都合だ、俺が本屋でマウントを取れる事になる、むしろそこでしかマウントを取れないまであるなからな」
「それは楽しみだ」
黒川も最初に比べるとぎこちないまでも表情筋が柔らかくなったようだ、近寄りがたい雰囲気も薄くなってきている気がする。
「それでは行きましょうぞ!」
そうして連絡通路を移動し俺たちは併設されている書店へと到着した。
「それで木立はどんな本が好きなんだ?」
「俺が何度も読み返すのだとライトノベルだな」
「ライトノベルとは俺も言葉自体は聞いたことがあるしいくつか目を通した事もあるが、小説とライトノベルは何か違いがあるのか?」
黒川の質問はストレートだが、実は案外よく知られなかったりする内容だったりする。また最適解と言って良いのかは判断しかねるが、境界線が曖昧なカルチャーだったりするのだ。
「解釈の仕方の問題で当然百点といった区分け方は無い、ただ挿絵が入っていたりライトノベルは比較的低い年齢層でも楽しめるように配慮されているんだ」
「ほう、後は読み手じゃなく書き手側の立ち位置ならば、小説というと少し取りつきにくい雰囲気を感じないか?」
黒川は少し悩むような素振りを見せると俺の予想した答えを返してくる。
「確かに……イメージとしては固いな」
「そこでライトノベルだと小説よりは取りつきやすい雰囲気が出ているだろう? ライトって付いているくらいだしな、出版社が若年層向けに広告を打って流行らせたという説すらあるくらいだ」
半分くらい俺の憶測だけどな、これも一つの解釈として俺は捉えているだけである。しかし、そう間違った事でもないだろうと思っている。
そして黒川向けにいくつか書籍を紹介すると黒川は迷わずレジへ全て持っていこうとする。
「全部買う気かよ? 何なら紹介したのは俺が持ってるから貸すが……」
「木立が紹介した物なら買おう、俺が必要だと思ったんだ、それに対しての対価くらい払うさ」
そう言って黒川は背を向けレジまでゆっくりと歩いていく。
「随分と信頼を得ておりますな、流石木立氏でございますぞ!」
ここ数分空気だった藤木田が横から顔を出す、何処かへ行ってたのだろうか。
「まぁ、俺もお前も黒川も一緒だっただけだ」
「そうですか、しかし群れる事は悪い事ではないと某は思いますし、いい結果となったかと思いますぞ、それにしても木立氏が紹介した書籍は自己犠牲型の主人公が多かったように思えますが……そういうのが好きなのですかな?」
「そうだな、憧れない事はないが何度も殺害されたり、異世界に転生されたくはないけどな」
「某も幾度となく死ぬのだけは遠慮したい所存でございますぞ……それでは某も会計を済ませてきますぞ」
そう言って黒川のいる方へ藤木田も歩いていく。
今回俺が紹介した書籍の多くは、主人公が魅力的且つ大なり小なり自己犠牲型が多いのは事実だった、隣の芝生は青く見える。
自己犠牲と言うのは俺の持つ要素の中には無いのだ、窮地に陥った際に俺は間違いなく自分を最優先するし他人を気にする余裕なんて無いだろう、こういうところが俺がスーパースターになれない原因である。
そうこう考えたりしている内に黒川と藤木田は会計を済ませ戻ってきていた。
「それじゃ、適当にどっか店入って飯でも食うか、そういや藤木田は何買ったんだ?」
「た、大した物ではないでございますぞ、行きましょうぞ!」
何か焦っている藤木田に違和感を感じながらも俺と黒川も歩き出す。
「メンズナッグルとか書いてあったな」
不意に黒川は答える。
「え?」
「雑誌のタイトルだ、漫画とかの絵ではなかったな」
俺は思う、冒険したい気持ちは分かるが藤木田よ……手を出す本を間違えていると。




