青春はゆっくりと咲き始める
「それでお前ら二人は何を買いに行くんだよ」
藤木田も黒川も買い物があると俺にチャットをしていたので、何か目当ての商品でもあるのだろう。
「某は、宿泊研修に持って良くバッグですぞ! 大型のバッグしか持っていないもので小型のがあればと!」
「ノートパソコン」
黒川はこのタイミングで何故か電化製品をチョイスした。
宿泊研修用の買い物ではないのかと思い聞いてみることにした。
「黒川は宿泊研修用の買い物で必要な物はないのか?」
「ノートパソコン」
ん? コイツは何を言っているんだ、黒川の言う事は度々理解が出来ない。
「木立氏、黒川氏は宿泊研修に持っていくノートパソコンを調達したいのではないでしょうか?」
まさかとは思いながらも黒川の方を向いて確認してみる、藤木田の発言で黒川はドヤ顔で頷いていた。
流石廃人と自称するだけある。
「黒川、宿泊研修は結構ギチギチに詰まってるからFPSやる時間なんてないぞ」
黒川はその発言で青ざめた顔をするが出来ない物は出来ないのだ、部屋割り的には深夜に多少時間が取れそうだが、疲れている中カチカチとマウスのクリック音が聞こえたら俺や藤木田以外の同室の奴はキレるはずだろう。
「どうにかならないか?」
「どうにもならん、諦めろ」
むしろここまでのスケジュールでどこにFPSを組み込む気だったのだろうか…。
「ま、まぁ黒川氏、今回は仕方ないですぞ、出来るとしたら深夜帯くらいに同室の方に許可をもらってやらせてもらうとかですかね?」
「それでいく」
「いや待て、お前人見知りだろ」
黒川は自身の性格とFPSを天秤にかけ悩んでいるようだった。
「いや、頼んでみる」
黒川という男をここまで動かせるFPSってのはどれだけ依存症を引き起こすゲームなのか多少興味が出てきた。
「それでは最初にノートパソコンを買いに行ってそれから旅行用品等を見に行きましょうぞ!」
「そういえば木立は何を買うんだ?」
「いや、特にないが」
「出不精の木立氏が何もないのに外に出るなんて珍しい事もあるのですな!」
いや、お前と黒川を会わせる目的しかなかったからな、旅行用品とかも特に必要な物はないだろう。
「木立、感謝する」
黒川は察しが良く俺の目的を分かっているようだった、多少恥ずかしさはあるが俺なりに青春を豊かにしたいと考えた結果だ。
先に歩き始めた藤木田に続き俺と黒川も藤木田に付いていくように歩き始める、いつもは藤木田と二人だったが、こうして三人で歩くとやはり俺たちは友達になれたと実感するのであった。
「それで最初はウィッグカメラだったか」
「さようでございますぞ! ちなみに黒川氏、宿泊研修の為だけにノートパソコンを購入するのでございましたか?」
黒川は無言で首を横に振り、Noである事を伝え、言葉でも説明し始める。
「いや……宿泊研修に限らず予備として欲しいと思っていたが買うタイミングが無かった、宿泊研修はタイミングが良いと感じた」
「さようでございましたか、まぁ来年には修学旅行もあるし使うタイミングがあるかも知れませんな」
藤木田と黒川は既にスマホを使わずに言葉を交わせるようになっていた、陰キャという存在は人見知りが多いだけで結局のところ慣れれば話せるのである、今回に限っては藤木田がよく喋りよく観察する人間であったため、黒川との仲が打ち解けるのは早かったと俺は思う。
交差点をいくつか通り目的地であるウィッグカメラへ着いた俺達は目的の商品がある階へ到着した。
黒川は元々目当ての商品があったのか、商品を指さし幾度か頷きレジへ移動していた。
相変わらず知らない人との会話は慣れないみたいであった。
「木立氏、先程調べて分かったのですが、ウィッグカメラにも旅行用のキャリーバックが販売されているようでございまして某、時間効率化の為に先に確認して参りますぞ」
「あぁ、俺も黒川の会計が終わったら行く」
「承知いたしましたぞ! それでは四階にて待っておりますぞ」
そう言い放ち、藤木田は四階へ向かうエスカレーターの方へ歩いて行ってしまった、俺は黒川の会計が終わるのを待っている、やはり気が紛れるような会話をしていないとマックで聞いてしまった会話が頭を離れない。
笠木が陰キャと言われれば納得できそうな要素はいくつかある、笠木が八方美人だった理由についても高校デビューであると考えたらしっくり当てはまる。
しかし……昔、陰キャでぼっちだったからとしても今はそうではない事は明白であり、今の笠木があるのは間違いなく本人の努力の賜物である。
社会に出たら他者を蹴落としていく奴なんていくらでもいるだろう、世界中で称えられているスーパースターだって意識的にか無意識にかは定かではないが他者から数少ないイスを奪い合うイス取りゲームの勝者であるだけなのだ。
当たり前の事であり、そんな当たり前の事に納得が出来ない俺はまだ子供なのだろうか?
また何度も言うが、俺は笠木が好きなわけではないし友達でもない。
そんな彼女の為に何故ここまで思考を巡らせる必要があるのか自分でも理解出来なかった。
そんな事を考えていると黒川の会計が終わり黒川は当りを見回す、俺は手を上げて黒川に合図をする。
黒川は俺の存在に気付き近づいてくる。
「待たせたな」
「いや、いい気にすんなよ、青春は有限であるが有限と言っても案外時間なんて余るものだからな」
「そうか、それにしちゃ気楽そうと言うよりは難しそうな顔だ」
黒川の発言で先程の考えが表情に出てしまっていたかと頭を掻く。
俺や藤木田の事ならともかく、笠木の問題になるから黒川に話すか迷っていた。
「木立が言いたい、俺を必要だと思ったら話してくれていい、待つ」
黒川の言葉は分かりづらい、というより言葉足らずな場合が多いのだ、しかし今の黒川の発言だけは分かりやすい、口数は少ないながら黒川も俺を友人だと思っているからこそ、俺の考えを尊重してくれているのだ。
藤木田とは異なるが黒川も俺を黒川なりの考えを持って心配してくれているのだ、ラブコメには程遠いが青春だけならば俺は恵まれているのだろう。
「あぁ、すまん」
「気にするな」
「それじゃ藤木田は四階にいってるみたいだから合流しよう」
俺と黒川がエスカレーターに乗り四階へ到着すると四階はキャンプ用品や旅行用品等、アウトドアのコーナーとなっていた。
その中で旅行コーナーのキャリーバッグが並ぶカラフルな場所で藤木田は自身が購入する予定の商品を吟味していた。
「木立氏、某は今非常に悩んでおります」
いつになく真剣な顔をしている藤木田だが、どうみても今の状況はそういった顔をする場面ではない、恐らくしょうもない話である事は間違いなかった。
「ん? バッグのサイズか?」
「いえ、違いますぞ、バッグのサイズは決まっておりますが、見てくだされ!」
そう言って藤木田は一面に並ぶカラフルなバッグを指さす。
「色だな」
俺よりも黒川が早く反応する、藤木田はこのバッグのカラーについて悩んでいたのだ、最近はランドセルにすら多数のカラーバリエーションやデザインが溢れている、キャリーバッグも同様に様々なカラーバリエーションを持っていて藤木田はバッグの色について悩んでいた。
そしてカラーバリエーションが溢れているとどうも安っぽく感じてしまうのは俺だけであろうか。
「さようでございます、某は今キャリーバッグのカラーについて悩んでおりまして……」
「無難に黒でいいんじゃないのか?」
俺の発言に藤木田は再度悩む人のように顎に手を当てる。
「某、あまり派手な色は好きではなく服についても黒を選びがちなのです……その為、たまにしか使わない旅行用のバッグくらいは少し冒険をしてみたい所存でございまして」
藤木田の言いたい事は分かる、いつもと同様の選択肢だとたまに正反対の選択肢を選んでみたくなるのだ、俺もギャルゲでたまにある、大体がBADENDになってしまうけど。
「赤とかはどうだ? 赤はよく飽きると言われるがそんなことはなく毎日その色を見るたびに心が落ち着く」
……黒川にこのままFPSをやらせていいのだろうかと疑問に思う、近い将来、彼が実名報道されない事を祈るしかなかった。
「助言有難いのですが、某があまり赤は好きではないものでして……似合いますかな?」
「黒が多いなら赤は合わない事はないだろうが厨二が好きそうなイメージだ、黄色とかどうだ? 黒と黄色っていい感じだと思うぞ」
藤木田は顎に再度手を当て何か自分の中で考えながら頷く、そして。
「そうですな、黄色は嫌いではないですし明るい印象を与えるかもしれませぬな、宿泊研修での用途が今のところメインですしいい感じですな!」
「そりゃ良かったな」
「それでは某、レジへ出陣しますぞ!」
そう言い、藤木田はレジへキャリーバッグを運んでいく。
「木立は何か見たい場所とかはないのか?」
先ほどまで藤木田の事を考えたりしていたので特に自分の欲しい物については考えていなかった、しかし俺を知ってもらうという事を考えて案内するならば……。




