幕間:冬萌における彼と彼女の結末 if 2
191部の続き、作中と日時を合わせた投稿となっております!
十二月二十六日
クリスマスから一夜明けて、おはよう世界と清々しい気分になれないのは、俺が陰キャだからという理由だけではなく、【保留】とした田中からの告白への返事が脳内をチラついて離れていないからだ。
その証拠に起きた時間も朝の七時半少し後で、深い眠りにつくには前日の興奮と緊張が抜けきらなかったのだと思う。
自分の中での答えは出ているし、言う気はあるが勇気がないと、多少なり韻を踏んでしまう俺の脳内リリックに拍手喝采を希望する。
しかしながら、俺にとっての非日常であるギャルゲ定番クリスマスイベントから、無傷で帰還した事に安心を覚える時間くらいは許されていいはず。
冬休みは始まったばかりだし、どうせなら冬休みという時間を丸々使って考えたっていい。普段は夏休みの方が俺の中での好感度が高いけど、今年に限っては冬休みに軍杯が上がる。
ベッドに置いていたスマホを確認するが、昨晩の電話以降、田中からの連絡は当たり前のように届いていない。
結局は俺次第であり、俺が伝えるべき事を口から出せばいいだけの話なのだ。しかし恋愛経験値がませた小学生よりも低い俺に、軽快な恋愛ムーブが出来るはずもなく、悶々と葛藤の海に身を投げるしかない。
「一先ず、興奮を冷ますには日常を歩き続けるんだ、意識をしないように……」
ラノベ主人公のように独り言を呟く事で決意を固めて、朝のモーニングルーチンをこなす為、朝食が待つ一階へ向かうと微かに香る味噌汁の匂いが鼻孔を通って日常を告げてくる。
そういえば昨日の今日だってのに母親が静かな事に違和感を覚えた。
田中との事を根掘り葉掘り聞かれる事を危惧していたが……。
しかし違和感に今更気付いたとしても既に時遅し、俺の手は既に非日常への扉を開いてしまっていた。
「あっ……お、おはよ」
「何? 日本の美容医学って抗老どころか若返りの秘薬でも完成させちゃったの? アンチエイジング進化し過ぎだろ」
朝起きたら俺の母親が俺のヒロインになっていた件。
「早口でボソボソ何喋ってるか分かんないんだけど……」
「キモオタ陰キャはみんな早口でボソボソ喋る種族であり、この知識は必修科目だろ。それより、どういう状況だ?」
冗談はさておき、俺の母親じゃなく田中が台所に立っているとか心臓に悪い。
昨日は待つとか言いながら、陽キャ特有の『なんとかなるっしょ!』という考える事を放棄した猿みたいな行動を田中がするとは考えにくい、高橋じゃあるまいし。
「朝、運動がてら散歩してたんだけど……アンタのお母さんとバッティングしちゃって成り行きで……うん……そんな感じ!」
俺に早口ブサイク陰キャキモいと言っていたくせに、田中も昨日の今日でバツが悪いのが、言葉に三点リーダを含んだ話し方をしているように思えた。
ただ、言いたい事は理解した。
どうせ俺の母親がお節介を焼いて、母親の中で息子の彼女となっている田中を無理やり家まで引っ張ってきたんだろう。田中本人もなぜ連れてこられたのか理解してなさそうだ。
「なんかすまんな」
母親の代わりに謝るとか、俺の人生初だ。
「い、いや、アタシこそ……タイミング的な話でゴメン……」
空気が気持ち悪い。お互いに昨日の事を意識しているのか壁を一枚隔てたような余所余所しい感覚が肌に合わない。
「とりあえず、もう帰ってくれていいぞ」
俺としては気を遣った発言だったはずなのだが、田中はどこかムッとした表情で抵抗をしてきた。
「は? アタシといると嫌なわけ?」
「い、いや、そういうわけじゃない。しかしだな、無理やり連れて来られたわけだろ?」
俺の言い方が雑で癇に障ったのだろう、相変わらず言葉に気持ちを込めるのは苦手だ。変な捉え方をされてしまい焦って弁明をする。
「とりあえずアタシも昼には用事あるから帰るけど……アンタ、冬休みだからってダラけすぎだかんね。一旦顔洗ってきな」
「いや、意味がーー」
「早くしな」
陽キャ特有の威圧感を出すの止めてもらいたい。陰キャは臆病な種族なんだ。身内にはイキり散らかすけどな。
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顔を洗って居間に戻るとテーブルには温められた朝食が用意されており、まるで母親。高校生にしておくのが勿体ないな、うん。
いや、今の状態では別の意味も見えてきてしまう。
……田中と結婚するとこんな感じなのだろうか?
俺がイメージを膨らませているのに対して、田中は非常に現実的な言葉で俺を妄想の霧の中から引き摺り出してくる。
「用意したから食べといて、アタシ洗い物しとくから」
「あぁ、田中が作ったのか?」
「んなわけないっしょ、アンタのお母さんが作ったのを温め直しただけ」
だよな、そんなラブコメ的展開は現実じゃ無理がある。ラブコメなんざ神の手が存在しなければ成り立つわけがないのだ。
そもそも田中が朝から家にいる事だけでラブコメはお腹いっぱい、供給過多であり……いや待て。
「……神は、いや……俺の母親はどこだ?」
「ん、アタシも分かんない。アンタが起きたら朝食だけ用意してあげてって言われたから」
田中の言葉の裏に、眉を八の字にして笑った口元を隠す俺の母親が見え隠れしているように思える。
「やりやがったなババァ……!」
「口悪すぎっしょ……まぁ、でもアタシはこういうの嫌いじゃないけど……」
「お、おん……っ」
前言撤回。俺はまだ非日常の中にいる。




