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冬萌における彼と彼女の結末10

次、明日21時更新

 俺は自分の顔を確認出来ない。いや、しようと思えば出来るんだが……イジメられた陰キャのようになった自分の顔を見るのが嫌なので、見ていないが、田中曰く、左の瞼辺りが青くなり腫れていたらしい。


 そりゃ、あんな至近距離でスチール缶なんかぶつけられて無傷なわけがない。


「アンタ、本当に大丈夫?」


 何度も心配そうに伺う田中の様子から、わりと俺の顔面は悲惨なのだろう。


「まぁ、冷やしてる間は問題ないだろう。それより俺のせいで店に入れなくて悪いな」

「謝るのアタシだし……! 何が巻き込んじゃってごめん……」

「いや、アイツは元々俺の事が気に入らなかったらしいからな。前に絡まれたんだよ」

「……は? いつ!?」


 田中の反応から察するに、ロリ子は何も言ってないのか。


「冬休み前の登校中にちょっとな。田中やロリ子が俺を待ってる場所あるだろ? あそこでアイツとロリ子が揉めてたんだよ」

「……アリスとアイツが? 接点なんて無かったと思うけど……まぁ、いいや。それでアンタが今日みたいに止めに入ったって事?」

「いや、近づいたらいきなり罵倒されたな。俺はアイツを知らなかったが、アイツは前から俺を知ってたみたいだな」


 俺の話を聞いて田中は何かを考えつつ、スマホを出し始め、爪でカツカツ叩く音がしばらく続いていた。


「それ反応するのか?」

「うん」


 素っ気ない。

 しかし、いけメンに関する何らかの出来事を思い出しているに違いない。


「……絡まれた正確な日にち覚えてる?」

「冬休みの少し前だったとは思う」


 俺のボヤけた反応で田中は再度考えこむ。正直絡まれた理由とかどうでもいいんだが、田中には何か重要な事なのだろう。俺も分かるに越した事はないしな。


「あっ……マフラー」

「着けてるだろ」

「そうじゃなくてマフラー買った日以降にアイツに絡まれた!?」

「あー……たしかな。その後、ロリ子にマフラーが似合ってないだのバカにされた記憶がある」


 田中は俺の返答を聞くと、何とも言いづらい、苦虫を噛み潰したような表情で整っていた髪をイジりながら小さく喋り始める。


「……ごめん。アンタが前に絡まれた原因もアタシのせいだと思う」

「さっき絡まれた時に、何となく察してたから今更だ」


 ロリ子があれだけキャラを隠さずに、あの時キレていたのは、田中のためだったという事か。サバサバしてるように見えてやっぱりいい奴なんだろう。


「ホントごめん!」

「謝らなくていい、全ては缶コーヒーという凶器をぶつけたアイツが悪い。せっかくのクリスマスなんだ、辛気臭い顔をするのは俺の役目で田中の役目じゃない」


 それに、こんな痛みは多分プロローグに過ぎない。


「それよりもだ、そろそろ陽もくれてきた。どこか行くか? 顔がこんなんだから人の多い場所は避けたいけどな」

「……いつも変なところでアンタ強いよね」

「変なところでしか強がれないの間違いだな、それでどこに行くんだ?」


 俺の問いかけに田中は再度スマホをイジり始める。

 文明の利器ってマジ便利、会話に困った時に役立つし、調べ物もしてくれる。何なら会話もしてくれる。

 ただ、本当に教えてほしい事は何一つ表示してくれやしない。その部分だけは未来永劫発展を遂げないし遂げちゃいけない部分なんだろうと思った。

 

 田中は一通り調べ終わったのかタクシーを呼び止めた。毎度どこに行くかを告げてから行動してほしい。


「どこに向かう気だ?」

「イルミネーションもあるし、ショップとかもあるし便利なとこ! 人は少し多いけど……この公園の多さに比べたらマシだと思う!」


 イルミネーションがあってショップもある、そして、ここよりも人が少ない。

 だとしたら一箇所しかないな。


「映画を観るくらいにしか行った事がないな」

「あー分かったんだ。アンタやっぱり察しイイよね。他の部分もそれだけ察し良かったらいいのに……」


 タクシーに乗り込む寸前に田中が呟くように言う。

 人の視線や悪意に敏感な俺が気付かないわけがないだろ。ここまで尽くされて気付かない人間がいるなら、ラブコメの世界に転移するべきだ。


 現実の恋愛は気付かなくていいところまで気付いてしまう。

 都合の悪い部分までしっかりとな。


 これから俺が魅せるのは、歪で出来の悪い青春の結末だ。

 コメディの要素なんかない、二人の主要人物が傷付くだけの物語だ。

 二次元には存在しない、現実には邪魔くさい程に転がった残骸の軌跡だ。

次 明日 21時更新

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