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冬萌における彼と彼女の結末9

次23時

よりマシだろう。


「先輩、これどうぞ」


 媚を売るように、カツアゲされたもやしのように両手で缶コーヒーを捧げるように差し出す。

 下手に出るって意味を俺が教えてやるよ、先輩。


「なんでこんな奴に飲み物渡そうとしてんの!?」

「何? ビビって媚売ってんのかよチビ?」


 そうだ、それでいい。その勝ち誇って顎をバカみたいに突き出した状態を維持してろ。


 下手に出るって言うのは、二種類のパターンがある。媚を売って相手に取り入る場合。

 そして……相手を油断させる場合だ。


 ほら、さっさと温かい飲み物を受け取れよ。受け取ったら、陰キャ特有のレスバトル開催だ。


「まぁ、貰えるもんは貰っとくけどよ」

「受け取って貰えて良かったです、これで先輩にも少しは温もりをシェアハピ出来そうです」


 まだだ、まだ表情を崩すな。一番いいタイミングはもう少し先だ。


「あ? どーゆう意味だよ……」

「え? 先輩って俺と田中がクリスマスに遊んでる事に嫉妬してるから絡んできたんですよね? クリスマスに一人は寂しいですよね、俺もよく分かりますよ」

「何が言いてぇんだテメェ……!」


 いけメンが田中の方から完全に離れて俺の真正面に立つ、今の言葉が寄り添う目的では無く、煽っている事に気付いたらしいが、やるなら徹底的にだ。

 今にも殴り掛かってきそうだが、ここでビビるようなら体育祭の時、池田相手に喧嘩を売るような真似はしていない。なんなら池田の方が体格良いし怖かった。


「先輩がクリスマスに一人ぼっちでいる寂しさを少しでも紛らわせられるように、温かい飲み物を差し上げたんですよ。残念ながら田中は差し上げられないですけど、温かい飲み物もう一本ありますよ?」


 ここで、わざとニヤけるように笑い、カフェオレのボトルを手元で揺らす。

 格下にイジられるのは、さぞかし嫌だろう? はらわたが煮えくり返ってるだろう? 恥ずかしいだろう? 今まで高いところにいたはずが堕ちてくる感覚はどうだ?

 そろそろ終わりにしてやろう、殴られるけどこれだけ煽ったんだ、悔いはない。


 いや、やっぱ殴られたくはないな……最後まで煽り倒すのは変わらないけど。


「女友達一人、捕まえられずにクリスマスを過ごす事になった先輩へ、俺からのクリスマスプレゼントですよ」

「調子乗ってんじゃねーぞ、陰キャ!」


 いけメンが声を荒げた瞬間に左目に鈍い痛みが走った。

 咄嗟に目を抑えながら、靴に何かが当たる感覚がして視線を向けると、プレゼントしたはずの缶コーヒーが転がっていた。

 殴られるかと思っていたが、缶コーヒーを投げつけてくるのは流石に予想外だ……。


「テメェ、ぜってぇ許さねえからな……! 覚えてろよ!」


 俺がしゃがみこんでる事と田中が俺の介抱をしてる事で、周りが気付き始めて分が悪くなり、自身が悪い意味で注目の的になる事を避けたいのか、いけメンは逃げるように去っていった。


 捨て台詞が完全に小悪党なのも、奴の小ささを表してる、ガタイは大きくても器が小さいんだからお前がチビだ。


「アンタ、目、大丈夫!?」

「あぁ……どうやらクリスマスプレゼントはお気に召さなかったらしい」

「バカ言ってる場合じゃないっしょ!?」

「俺はあのバカと違って良くも悪くも目立ちたくない。ひとまず移動するぞ」

「ダメ! とりあえずアンタ待ってなさい、氷買ってくるから!」


 そう言って田中は時期外れの氷を求めコンビニへ駆けて行った。


「氷なんか買わなくたって、似たのがそこら辺にあるだろ」


 アドレナリンが抜けて徐々に瞼がジンジンと熱を持っていくのが分かる。

 少し泥が跳ねた雪を掻いて、綺麗な雪を片手で握り込み歪な雪玉を作る。

 それを、瞼に当てると一気に熱が引いていく感覚が訪れる。


 陰キャにしては頑張ったんじゃないだろうか? まったく田中といると、バイオレンスなイベントに遭遇して困る。


 そう思いつつ謎の達成感が俺の中に芽生えたのは言うまでもないのであった。


 幾ばくか時間を待っていると、田中は大酒豪御用達と言うようなロックアイスを手に戻ってきた。


「とりま、これ瞼に当ててな」

「こんなバカデカイのを持って歩けと?」

「急いでたんだから仕方ないっしょ!?」


 たしかに、コンビニから出てくるのがかなり早かったな……。

 まぁ、心配をかけるやり方だったし田中の反応が普通なんだろう。俺は最初から殴られるとさえ予想していたから驚きは少ないだけだろうし。

 しかし、心配されるのが苦手というか……これまでが虐げられる人生だったから、何とも言えない慣れない感覚だ。


「缶コーヒーをぶつけられただけで大袈裟だ、ヤンキー漫画の世界じゃ一話冒頭にしか描かれないくらい些細な問題だ」

「そんなん読まない、知んないから! とりあえず落ち着ける場所まで移動するよ、歩ける?」


 本当に大袈裟だ。小さい子供の手を引くように田中は歩き出す。

 いつもなら赤面しそうなもんだが、そんなの気にする余裕もないくらいに心配をかけてしまったんだろう。

 ラブコメの主人公ならもっと上手いことやれたんだろうか? 


 俺にはつくづく向いてないと思う。

次23時更新

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