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冬萌における彼と彼女の結末4

 笠木が意味深な言葉を俺にパスしてから、数分揺られ地下鉄内は暖房が効いているのか、少々暑苦しさを感じつつも目的地へ到着する。


 休みにも関わらず俺と共に下車する人が多いのはクリスマスが理由だろう。

 しかし彼らの足取りと比べて、俺の足取りは少しだけ重い、そう思う。


 実際にどうなるかは田中次第ではある、

 ただ可能性を捨てきれない、楽観的な思考回路に切り替えられない俺は、他の人よりも僅かに遅く歩き改札を目指す。


 階段とエスカレーターを一つづつ経過して改札を出ると田中は待ち合わせ場所ではなく、俺が待ち合わせ場所に向かうために通らなければいけない通路の壁に身体を預けていた。


 田中も俺に気付いたのか、スマホを鞄にしまい、壁に預けていた身体を起こして数歩だけ俺に歩み寄ってくる。


「アンタの住所的に絶対こっから来るよね」

「メンヘラが言いそうな台詞を放つな、少し暑いと感じていた体温が冷えて丁度いいけどな」


 田中は俺の言葉に棘を感じたようで、笑顔を崩さないまでも片眉と口元が一瞬ピクリと動かす。

 どうやら木立ジョークはお気に召さなかったみたいだ。


「そ、それでイルミネーションでも見に行くのか?」

「いやいや! 昼間からイルミネーション見ても意味ないっしょ、せっかち過ぎない? そんでアンタお昼は?」

「人の少ない昼間に敢えてイルミネーションを見にいくという選択肢は逆に有りだと思ったんだけどな……昼は食ってない」


 田中は俺の返答を聞くや否や、付いて来いと言わんばかりに歩き始める。


「それで俺をどんなリア充の巣へエスコートしてくれるんだ?」

「本来アンタがエスコートすんだけど、その辺は期待してもって感じだから仕方ないか……」


 田中の独り言のような愚痴を聞きつつ、本来の待ち合わせ場所を抜けて目的地へと先導してくれている。


「それにしてもアンタがそんなにセットするの上手いなんて意外だったけど……それ本当にアンタやったん?」


 うん、俺の事をよく理解している。

 ここは素直に藤木田大先生の名前を出そうか?


「このタイミングで聞くのか、出会って五秒くらいで突っ込まれると思ってた。ちなみに察しの通り藤木田大先生が朝から手を焼いてくれた」

「やっぱりメガネがやったんだ。気になったけど、開口一番はいつも通りにしてた方がアンタも気が楽かなって思っただけ」


 流石は北高オシャレ四天王の田中だ、勝手に今つけたけど。

 オシャレに慣れていない陰キャへの配慮がよく出来ている。


「たしかに初手で外見の変化を指摘されると恥ずかしい気持ちになるな」

「オシャレに触れたばかりの時期ってみんなそうだから、変に触れるより何気なく後から言う方がいいんだよね」


 すげぇ……なに、ショップ店員ってここまで配慮出来んの? 逆に恐怖が湧いてくる。

 掲示板の奴らがショップ店員に声を掛けるな、近寄るなって喚いていた理由がわかる。


「服、選んだのも多分メガネで合ってるっしょ?」

「降参、今日の俺は藤木田が九割で構成されてる」

「残りの一割が見当たらないんだけど?」

「ん? このマフラーを選んだのは田中だろ」


 俺がマフラーの端をつまんで見せるように答えると田中は顔を逸らした。


「自覚なしでそーゆうのを言ってくるからさぁ……」

「んあ?」


 田中が何かを呟くように喋ったが内容までは理解出来なかった。


「なんでもない! ほらさっさと行くよ!」

「俺はスーパーで親に誘導される子供かよ……」


 どうやら、せっかちなのはお互い様である。



 北極の空に現れる幻想的な名称をイメージした地下歩行空間を抜け外に出ると、太陽は相変わらず夏のように輝いて見えるのに肌をつんざくような風が吹いていて身構えてしまう。


 俺と違い外向的な田中は、「さっむ! あり得ないんだけど!」と、口に出しても、何かが変わるわけでもないのに感情や考えを白い息に含ませて景色に混ぜていた。


「アンタ、寒くないの?」


 俺が寒さに文句を言わない事で、俺がさほど寒くないと勘違いしたのだろう。


「寒いって口に出して解決するなら言う」

「アンタはそういうところがねー……」


 今更なにを言うんだ。

 俺はこういう人間なのだ、知っているくせに。


 だが、俺も多少なり世間との隔たりを埋めるべく処世術とまではいかないが進化の過程で会話は必要だと判断している。


「寒いからこそ早く目的地へ行くべきだ、温かい店内の方が落ち着いて会話出来るだろうし……ほらはよ」

「偉そうなのがムカつくけど、まぁアリって思っちゃうあたり、アタシもアンタに毒されてるっぽい、すぐそこだけどね」


 田中はそう言って少し先を指差す。


 俺の視線が誘導されたのは、入り口前にブラックボードを設置しているカフェらしき佇まいの店だった。


「店に入ってから言うと嫌な捉え方をされるかも知れないから言っとくが、俺があんなオシャレな店に入っていいのか?」

「そりゃいいに決まってんしょ……今日とか男女で来てる客ばっかだろうしね」

「どういう意味だ?」

「楽しみにしてな!」


 相変わらず持ちまえの元ヤンママ感という名の母性を醸し出す田中は先導し、俺はアヒルの子供のように付いていくしかないのであった。

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