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冬萌における彼と彼女の結末3

背けていた弱さに触れてあげたいぬଘ(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

「木立氏にしては、頑張りましたな……いえ、頑張ったのは某ですけども」

「木立にしては見違えるようだ、よし」


 いや、その「木立にしては」って表現やめてもらえる? 俺にしてはマシだけど平均値に届いていないみたいな言い方をするな、分かってるから言うなよ。


 そして黒川、藤木田が言うならジョークで処理出来るけどイケメンのお前が言うとイラっとする、事実だけどな!


「まぁ……感謝はしてる」


 鏡に映る自分はたしかに悪くない、前髪が垂れ下がってなくて冷たい感じはするし視界が明るくて違和感はあるものの嫌な気分にならない。


「普段からそうしていればまともに見えますから、今後は自分でセットやコーディネート出来るようにした方がいいですぞ」


 だから、俺に難があるような言い回しをやめてもらいたい。


「今後する機会なんかねーだろ、今日が特別なだけだ」

「ふっ……違うな」

「ある意味、今日が終わりで始まりになるんですからな」


 今日、一つ終わって、また始まる。


 俺がちゃんと前を向いて笠木との青春ラブコメに歩きだす日と言いたいのだろう。


「そうだな……また今度ゆっくり教えてもらう」

「えぇ、某が陰キャのファッションリーダーとして導いて差し上げますぞ!」

「じゃあお菓子は頂戴したし俺たちは帰る、あくまでデートだ、楽しめ」


 一言多いしハロウィンは終わったはずだが、黒川なりのエールとして受け取ろう。


 玄関まで藤木田たちを見送る時、玄関の扉の隙間から見える青が眩しかった。


 程なくして俺も家を出て駅までの道を歩く、十二月にしては珍しい夏のような晴れ模様と相反する冬の空気が顔に当たり、いつもより冷たい感じがする。


 前髪が気になり弄りながら歩いていると、時間は思っていたよりも経過し駅に到着した。

 駅構内は俺の予想と反してクリスマスに浮かれている男女の群れは見当たらずに改札に切符を通し歩く。


 クリスマスの雰囲気とやらを感じないまま、少しばかり待つと地下鉄が到着する。

 乗車人数の多さ、そしてその中に見知った顔を見つけて、今日とは真逆の吹雪の日を思い出したのは言うまでもない。

 ドアが開き地下鉄へ乗り込むと笠木は俺が話しかける間もなく話しかけてきた。


「本日一回目だね、今日は何回になるかな?」

「最初で最後だ、あの時は神なんざ信じてないが神の悪戯みたいなもんだ」


 ラブコメの神様くらいは存在しててほしいけどな。


 笠木からの返答がなく気になって横に目を配らせると、笠木は俺が思っていたよりも距離が近く品定めするように眉間に少しだけ皺を寄せて俺の顔を覗き込んでいた。


「な、なんだよ?」

「今日の木立くん、顔が見えてるから新鮮で気になっちゃってね、嫌だった?」


 は? 嫌なわけないだろ、恥ずかしいけど。なんならずっと見ていてほしいと俺は言いたい、俺もずっと見るから。

 ついでに木立純一の取り扱い説明書。悪口を言われると心だけじゃなく目を前髪で閉ざすから扱いに注意してくれ。


 しかし、心の声を漏らしてしまったらバッドエンド直行だって悟ってるし青春ジェットコースターさんと付き合いの長い俺は最適解を知っている。


「いや、別に……」


 こういう時は、色を付けずに相手を否定しないように流すのが正解である。


「普段からそうしてたらいいのに」


 んんぅっ! はい、クリティカルヒットォォォ!


 そうしてたらいい、つまり笠木的には普段の俺より、木立バージョン二式の方が好みであるわけだ。

 陽キャでバカでゴミクズな高橋、奴がこの地下鉄に乗っていたならば、俺の肩に手を伸ばしてこう言うだろ。


『木立ェ、ワンチャンあんじゃね?』


 笠木の発言は、俺だけじゃなく一般的な読み取りでも悪くないどころか、むしろ良い印象であると言っていい。


「綾香とのデートのために頑張るなんて、木立くんも男子なんだね!」


 ……いや、たしかにそうなんだけど。


 現実に引き戻さないでほしかったし、そもそも男子として認識されていないような節を感じるのは気のせいだろうか。

 なんなら頑張ったのは藤木田大先生だし、俺とか一切頑張ってない、頑張るのはこれからだろうしな。


「頑張る……というか、恥をかかせるような事をしたくなかっただけだ」

「綾香オシャレだもんね! でも綾香はどんな木立くんでも嬉しいんじゃないかな?」

「そうだな、ここまできて否定をするのは無理がある」


 どんな俺でも田中は受け入れる、笠木の言う通りだ。

 ただ例外は存在する、それが今日の俺だ。


「……木立くんが、色々悩んだ結果なら綾香は納得すると思う、だから木立くんは自分を大切にしてね」


 笠木は知っている、俺が田中以外を好きな事。

 そして、笠木は知らない、俺が笠木を好きだって事。


 覚悟が決まっていたところで、追い風が吹き背中を押された気がした。

 そんな言葉に歯痒さを感じて返事もしないまま、話題を転換しようとする。


「ところで笠木はどこに行くんだ?」

「久々に実家に帰ろっかなって」

「そうか、クリスマスだし親御さんは喜ぶんじゃないか?」


 俺の返答の直後、地下鉄は俺の目的地の一つ前の駅に到着した。


「過去の私が投げ捨てた弱さも拾いにいってあげなくちゃなって」


 言い逃げるように降りる寸前、笠木は変わろうとしてる自分を告げて去っていった。

最後まで見ていただきありがとうございました!

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