冬萌における彼と彼女の結末1
朝からこーしんでう
陽キャ主催のクソスマス会の翌日、俺は朝からブルーだった。
冬休みに入って至福のニートタイムを過ごせない事が理由ではなく、昨日の田中の態度が原因だ。
田中は他人のために怒りはするが、自分のために怒りを露わにする事は俺の知る限りはない。
そんな田中が自分自身の想い……似合わなすぎて恥ずかしいが、俺への気持ちの部分に踏み入れられ初めての感情を出した。
これが何を意味するのかを俺は知っている。俺も宿泊研修で同じ道を辿っているからだ。
俺が一途に田中を好きだったならば、ハッピーエンドだ、現実に存在しながら青春ラブコメというファンタジーを二次元から引きずり出す事に成功したと言ってもいい。
しかし、現実はそうじゃない。
俺の中での田中は異性の友達の範疇を抜けない、田中に女性的な魅力を感じていないわけじゃない。
正直な話でトゥンクする事がある、問題はその先がないのだ。
いつだって笠木が安全な道へ傾きかけた俺の視界に姿を現わす。
その姿が消えてしまわないように必死に身体を前に出して手を伸ばす。
理屈なんかじゃなく感情で俺は笠木を求めてしまう、笠木にそんな気は一切ないとわかっている。
俺たちは求めるものが違う。
田中は俺を。
俺は笠木を。
笠木は理想の自分を。
多分どこかで大怪我をする、それがわかっていながら田中と友人であり続けようとした。
恐らく今日、俺は田中に告白される。
昨日の出来事、藤木田の言葉、田中が殻を破った事。
そして今日がクリスマスだって言う事。
これだけ条件が揃っているシチュエーションで他の考えが浮かぶわけがない。
だったら行かないのが正解だ、誰も傷つかないために……。
ただ、これ以上先延ばしにしても、より深く俺たちを抉る事になるだけだ。
俺はちゃんと断らなくちゃいけない、ちゃんと……。
「俺自身を蔑ろにしないで生きていくべきなんだ」
「……何してんの?」
「お、うぉん!?」
朝から洗面台の前に立っていたら背後から声をかけられて心臓が跳ねる。
「別になんだっていいだろ……」
「息子が貧相な上半身裸で鏡を長時間睨み続けた挙句、ブツブツなんか呟いたら声くらいかけるでしょ」
「い、色々言いたい事はあるが……これ以上追及すんなよ、息子を犯罪者予備軍にしたくなければな!」
これが陰キャ流の脅迫術だ。自身を生贄にご近所からの飛び交う憶測を想像させ窮地を脱させてもらおう。
「はいはい……それで今日はまーくんと遊びに行くの? りょうちゃんも一緒?」
まーくん? りょーちゃん?
俺が疑問符を浮かべた表示をしていると母親は墓穴を掘ったのを確定するかのように「あっヤバ」と洩らした。
「……アイツらか」
「マ、ママはアイツらなんて子、知りませ〜ん」
流石は俺の親だ、演劇部に向いていない。
というか、いつからそんな親しくなってたんだよ。
「まぁいい、俺は用事があるからな。居間でババアしかチョイスしない菓子でも食ってろよ」
「りょうちゃんは美味しいって食べてたし」
「やっぱりアイツらじゃねーかよ! 黒川は意地きたねぇから何でも食うんだよ! アイツの美味しいは幅が広いんだよ!」
朝から感情を露わにする俺とは裏腹に、母親は人をおちょくるように楽観的な態度を崩さずに俺が望まない交流を深めてくる。
「それで今日はデート?」
「は、……ちげーし、ぷぃきゅあの映画見に行くだけだし」
「それはそれで高校生として恥ずかしいと思うけど、あんたのためじゃなく、相手の子に恥かかさないように髪型と服くらいちゃんとしなさい、んじゃね」
そう言って去ろうとする母親はよく見ると普段よりも入念に化粧をして服装も出掛けようとしているかのように見えた。
「どっか行くのか?」
「パパとデートよ」
「夫婦なのにデートとかすんのかよ?」
率直な疑問を投げかける俺に母親は少しだけクスリと馬鹿にするような笑みを浮かべて答えてきなる。
「そりゃアンタ、クリスマスだもの」
そう、俺が目を背けようとしていた今日はクリスマスで特別な日であり、何も起こらないわけがない日なんだ。
最後までみていただきありがとうござま!




