冬萌の玩具
おしさぶりのこーしんでうよ!
「つーわけで、クリスマスっつーと、やっぱ恋愛的なノリほしくね?」
田辺の声に呼応するように、クリスマスイベントを盛り上げようと指笛を吹く生徒、妙に手慣れたクラップを鳴らす生徒、どこから調達したのか安っぽい音のするクラッカーを鳴らして満足気な顔をしている男子生徒。
それぞれのやり方で楽しみつつ、盛り上げている様子を遠目で見ている感覚を抱いているのは俺が冷たい人間だからだろうか?
否、ドロドロとは至らずとも今回は俺が主役のように渦中にいる人間だからこそ、素直に楽しめない部分があるからだろう。
ついでに陰キャだしリア充的なイベントには反骨精神が出ちゃうのはデフォ。
左には、同様に渦中にいる田中が何も知らずに両手を上に上げて拍手を送っている。
田中は俺以上に感情が表情に出てしまうタイプだ、田辺たちの策略は知らない事が一目でわかる。
そして右には、ある意味で戦犯の藤木田が全てを忘れたかのように、鳴らない指笛を鳴らそうと顔を赤く染めて頰を膨らませていた。
仕方ない部分はあるといえ、こいつは殴っていいんじゃないだろうか?
しかし、そんな冗談を考えてる場合ではなく、どの方向から俺と田中を撃ち抜いてくるか?
「木立」
呼ばれた方へ首を捻ると、口にナポリタンソースを付着させたドラキュラ、黒川が立っていた。
「……口拭けよ」
「それより、さっき食べ物をシェアしていた女子生徒たちから少しだけ話を聞いてきた」
こいつがシェアの意味を理解してないのは理解した。
「なんの話だよ? 俺は回避作業で忙しいんだが?」
「特に何かが変わるわけじゃないが早めに木立の耳に入れておこうと思ったが、ここじゃ場が悪い、来い」
黒川は俺を引っ張り体育館の壇上から遠ざかるように移動をする。
藤木田か田中に聞かれてはマズイ話だろうか? この場合だと田中だろうけどな。
「それで、なんか有益な情報でも手に入れたのか?」
「その件についてだが、猿どもが何人かの生徒に個別に質問を募っていたらしい」
「猿って……まぁ、いいや。それで質問って何だよ?」
「もちろん恋愛に関する質問だ。その質問を匿名の質問として、質問に対する回答者を壇上に呼んで答えさせる催しがあると聞いた」
「なんだその羞恥イベント……と言うより、わざわざ壇上で答えさせる意味がわからん」
「オレも理由は知らんが何か意味があるはずだ」
そんな事を言われても対策のしようがない。
田中から俺へ直に聞きづらい質問を匿名という形を利用して、壇上で俺に答えさせるって事だよな?
そこにどんなメリットがあるのか分からない。
「ーー活性化ではないですかな?」
聞き慣れた特徴的な喋り方、先程まで田辺の開催宣言に口笛を鳴らそうと必死になっていた藤木田が近寄ってくる。
「正気に戻ったのかよ、藤木田大先生」
多少の皮肉をこめて藤木田へ伝えると藤木田も自覚があったようでバツの悪い表情をするが、一先ずは藤木田の考察を聞こう。
「ちょっとした意地悪だ、それより活性化ってなんだよ?」
「恐らく木立氏をターゲットにしたというより、田中女史に対する煽りですな」
田中に対する煽り? 話がイマイチ分からん。俺がターゲットじゃないのか?
「その顔ですと恐らく分かっていないようですな、説明をさせていただきますぞ!」
「あぁ、手短にな。そろそろ田辺のスピーチが終わる」
壇上に目を配らせると田辺の横に棒立ちしていた高橋が頻りにスマホを取り出しては仕舞うという行動をしている。時間の確認だろう。
「例えば、木立氏が笠木女史に質問をしたとしましょう、内容は『好きな食べ物は?』としておきますぞ、そんな笠木女史に別の質問が舞い込んだらどう思いますかな?」
「……敵がいると認識するな」
「そうですぞ! 木立氏は率直に申し上げてモテませんな?」
ん? いきなりディスるの止めてもらえる? 俺以外の奴が言われたら殴りかかってるまであるぞ。
しかし、同意するしかない問い掛けだ。認めざるを得ない。癪なので言葉は返さずに肯定の意味を込めた頷きで意思表示をしよう。
「そんなモテない木立氏に自分がした質問以外が舞い込んだら、田中女史も木立氏同様の感情を抱くとは思いませぬか?」
「なんとなくわかってきた」
たしかに、藤木田の言っている事は納得出来る。
ただモテないって二回言って強調する必要はないだろう、鬼の子かよ。
「すなわち動かすのが面倒な木立氏をターゲットにした催しじゃなく、匿名を利用して架空のライバルがいるという認識を、動かしやすい田中女史に焚き付ける事に重きを置いているのではないか? と某は考えが至りましたぞ」
あくまで藤木田の憶測であり主観に近い考えで正しいかはわからないが筋は通っている。
藤木田の考えが正解ならば陽キャにしてはよく考えたな、いや陽キャだからこそ恋愛という分野では俺より上手なのだろう。
「たしかに活性化という言葉が相応しいな、だがターゲットが俺じゃなく田中なら、どうする事も出来ない」
「そこがネックですな、田中女史が田辺氏たちの策に乗って、この場で木立氏に告白した場合……木立氏は断れないと思っておりますが、その辺はどうお考えですかな?」
「……断るさ、俺は笠木が好きだからな」
藤木田は納得していないと表情を隠す事せずに俺に伝えてくる。
その表情に何も言えず、聞きたくもない田辺のスピーチに耳を傾けて逃避するしかなかった。
最後までありり(๑╹ω╹๑ )




