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冬萌で咲く未来に背く

きょの更新です!

 名も知らない陽キャに何故か罪の無い俺が絡まれながらもロリ子と登校し教室のドアを開ける。

 いつも通りの風景が広がっている。


 陽キャが中毒のように教卓に吸い寄せられていて、高橋が相変わらず俺の首に手を回し得体の知れない友情アピールをして田辺が茶々を入れる様式美。

 

 低血圧の俺にとっては朝から怠い絡みにカテゴライズされるので、ご遠慮願いたいところではあるのだが慣れとは優秀な機能だ。


「木立くんおはよ!」

「あぁ、おはよさん」


 最近では、視線すら合わせようとしなかった笠木からの挨拶を聞き、一先ずは俺の平穏な日々が戻ってきたのだと実感する。

 笠木の真意なんて確約できたものじゃないが、今はこれがベストだ。


 そして、俺は首に肉のマフラーを巻く趣味は無いんだ、高橋。

 口に出さずに高橋の腕を持ち上げるように外して、遠回りながらも藤木田と黒川の席を経由するように机の隙間を歩いて自席へ向かう。

 そんな藤木田は見て分かるくらいにテンションが低く黒川は何も言わないまでも藤木田の様子を伺っているようであった。


「おはよさん、また藤木田がなんかしたのか?」

「さぁな、朝からずっとこの状態だ、訳を聞いても答えなくてな……」

「またとは心外ですぞ……いつも何かをしでかすのは木立氏でございましょう」


 藤木田のテンションが低いのは、昨日からだろう。少なくとも黒川が理由を把握してない事から、日曜から今朝にかけての範囲だ。

 となるとクラスの連中と休日を共にして何かあったと見るのが正しい。


「それで誰かにイジめられたのかよ?」

「……違いますぞ」


 流石にイジメは冗談だが、テンションが低い事に変わりはなく理由を追及する必要はありそうだ。


「まぁ言いたくなったら話せよ。ちなみに俺は朝から名前も知らない陽キャに暴言を吐かれたがダメージはない」

「ふっ……流石だな、木立」


 いや、そこは俺にも理由を聞いてくれない? 親指グッとしてんじゃねーよ。


「……木立氏が陽キャに何か言われるのは日常茶飯事かと思いますぞ、昨日も木立氏の話題がいくつも――いえ、何でもありませんぞ」


 おい、待て。俺のいないところで俺の話するなよ、どんな悪口を言われてるか結構気にしちゃうタイプなんだが?

 

 しかしだ、話から察するに藤木田と昨日いた相手は陽キャだろう。

 そしてそれを濁したという事は、俺に関連する事でテンションが下がる内容があった、もしくはこれから俺に何かが起こるのだろう。


 内容が一切わからないので対処のしようもないが、無理に聞こうとも思わない。むしろ聞いたところで俺が事前に対策出来るような事の方が少ないのだ。 


「言いづらいなら聞きはしないが、別に俺は怒るつもりなんか一切ないぞ。それよりも旅行の話の方が重要だ」

「あの出不精で陰キャの木立が提案したんだ、行くだろ?」


 ……何? 今日って厄日なの? 確かに黒川の言葉は事実だけど悪口を言われてる気分になるのだが?


「旅行……そういえば返信しておりませんでしたな、このままのテンションで某も一日を浪費したくありませんので言いますぞ……!」


 藤木田は、意を決したように低いテンションながら自分を奮い立たせるように俯いていた顔を、上げて俺と黒川にを見据える。


「某も話し合いの途中で帰宅した為、詳細については存じていないのですが、よろしいでしょうか?」

「あぁ、分かる範囲で構わないし、怒りもしないから信用しろ」

「実は、クラスイベントで木立氏と田中女史をくっつけようとする催しが開かれる事になりましたのですぞ、表向きはクラス全体をターゲットにした形にはなるはずですぞ」


 やはり、俺に関する事が藤木田の悩みで、多数を理由に藤木田は陽キャの提案を止める事が出来なかったのだろう。


 ちょっとばかし予想外だが……まぁ結局のところ俺が乗らなければ成立しないイベントである事に変わりはないな、なんなら当日に仮病で俺が参加しなければいいだけの話だ。


「その表情ですと、やはり木立氏としては嬉しくない催しでございましたか?」

「そうだな、あまり突かれたくない部分の話ではある」

「申し訳ありませぬ!」


 藤木田はそう言って頭を下げてくるが、こればかりは仕方ない、どれだけ優秀な個でも平凡な多数に押し潰されるのは世の常である。


 俺の為に多数に抵抗しようとしたという事実は変わらず、その行動は勇気であり友情であると俺は思う。


「まぁ……なんとなくは理解した、大した事じゃない。それより旅行の話を進めよう、昨日は藤木田からの連絡が無くて旅行先を決める事が出来なかったんだ、急がないと本気で間に合わなくなる」


 何とも思っていない、そう口に出しつつ平然を装しながらも話題を転換させる。

 気にならない事はないが、それよりも藤木田の低いテンションを戻す事の方が重要だ。


「木立の言う通り、木立のピンク色の話より俺達の未来……薔薇色の青春について話す方が優先だ」

「なぁ、そろそろ誤解されそうな言い回しやめない? わざとだよな? おい」


 黒川も俺の考えを察してか話を逸らし、俺の転換に助長してくる、何かと意味不明な行動をする黒川だが別に空気を読めないという事はない。

 必要な時以外は一切読まないと言うだけである事が数ヵ月の付き合いから分かっている。


 そして藤木田も俺と黒川の考えが分かっているからこそ、これ以上悩むのは無粋であると考えたのか表情から曇りが消える。


「それではお二方の優しさに甘えさせていただきますぞ! 旅行について話しましょうぞ!」

「ようやくいつもの藤木田に戻ったな、じゃあ木立……説明は任せた」


 そう言い放ち、寝る体勢をするのは止めてもらいたい。しかし、黒川に説明させたらグチャグチャになるのは免れない。


「なるようになるからクラスイベントの事は気にするな、いざとなったら仮病を使う」

「某に仮病を止める権利はありませぬが、某は年内で木立氏達と過ごせる最後のイベントなので参加してほしいとは思いますぞ……止められなかった某が言えた事ではないですが」


 その場の機転でどうにか対処は出来るが、藤木田が止められなかったように多人数で俺という個の意見が押しつぶれる事だけは避けたい、さぁどうするか?

最後までみていただきありがとうございました!

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