冬萌における彼はまだ知らない
きょの更新です><>< しばらく更新してなかったですがきょは更新なのです!!
激動の休日を過ごした翌日の月曜日、クリスマスまで一週間を切った日。俺は相も変わらず高校までの歩き慣れた道を行く。
土曜日に大きく雪が降りだした事で、ブーツで登校する生徒もチラホラと目立つ中で俺の防寒具はマフラーのみである。
首元や上半身は寒さへ抵抗する術を持っているのに、積もった雪が足元から俺の体温を奪っていく。
同時に靴が水浸しになったかのような不快感を与えてくる事に、少しだけ機嫌を悪くしつつも湿り気の強い雪道に足跡を残していく。
今日も田中かロリ子のどちらか……或いは両者が俺を待っている事だろう。
しかしだ、正直な話で何が面白くて俺を待っているのか不思議である。俺が田中やロリ子の立場なら俺みたいな面倒な奴と登校なんて、朝から疲労が溜まるだけだと思う。
それにロリ子の行動も不可解なのだ。他人の評価を気にする癖に、俺と登校を共にするとかデメリットしかないだろうに。
それとも、「こんなスクールカースト最底辺の陰キャと登校しているウチ優しくね? 可愛くね?」と言った考えに至っているのかもしれない。
現実にあり得そうなのを否定出来ず、考えてはみるものの、どう転んでも俺が傷付くだけだ、考えるのを止めよう。
しばらく何も考えずに進んでいると、通学路で俺を待っていたのは、ロリ子と見知らぬ男子生徒だった。
何? アイツとも登校しなきゃダメなの? 俺のパーティーっていつから陽キャだらけになったの?
男子生徒は、田辺くらい派手な髪型、池田ほどではないがガタイが良く、黒川ほどでもないくらいに顔立ちが整っているのが遠目でも分かる。
そして、もう一つ分かるのは、この時期に上着もマフラーも付けずに制服の下に派手なパーカーを着込んでいるだけという軽装備と堂々たる佇まい。
間違いなく陽キャであるという事であった、恐らくロリ子のお仲間さんだろう。
しかし、ここで陽キャを相手に足踏みする事なく俺が近づくと、俺の存在に気付いたロリ子の表情が一瞬だけ曇ったような気がした。
俺の方へ軽く手を上げてくるロリ子、そしてロリ子と話していた男も少し遅れて俺を見据えてくると、眉間に皺が寄っていた。
何? 俺また何かやっちゃいましたか?
目に見えて男が俺に敵意を剥き出しにしているのは分かったが、理由が分からない。
陽キャって初対面の相手に威嚇するのが挨拶なの? 田中もロリ子も池田も最初は俺に睨みを利かせてきた気がする。
まぁ、どうせ耕してる畑が違う人種なのだ、分かる必要はないだろうと考えていたが、男は俺を見下すように口を開く。
「……このチビのどこがいいのかわかんねーわ、どいつもコイツも見る目ねーのな」
善良な生徒にカテゴライズされる俺が、何故、朝から知らない奴にディスられなくちゃならない。
一つだけ確定した事は、絶対許さないリストにコイツの名前を連ねるという事だけである、高橋の下にでも書いておいてやろう。
「ウチの目の前で、そーゆうの言うなや、その性格がフラれた原因な」
「……うっせ、どんな奴か確認出来たから行くわ」
何か目的を達成出来たのかゴミクズ陽キャは、最後に一度だけ俺を睨みつけて去って行く。
「何あれ、信者? 遂に俺の首を刈り取りにきたのか?」
「今のやり取りでウチの信者とか目おかしいんじゃねーの?」
先ほどのやり取りが原因なのか、元々口調に棘のあるロリ子の返答が更に棘を増したように聞こえるが、俺には聞かねばならない事がある。
「それでアイツの名前は?」
「あん? なんで知りてーの?」
「絶対に許さないリストにアイツの名前を連ねるからに決まってんだろ」
「あー……ちょっと話してたらアイツの機嫌悪くなってオメーに火の粉飛んだだけだから気にする必要ねーと思うけど、つかオメーそんなん作ってんのかよ」
アイツが気にしなくても俺が気にする。アイツが俺の事を忘れても、俺は絶対に忘れない。
俺は恩は忘れても恨みだけは絶対に忘れない男だぞ。
いや、全国の陰キャがその傾向にあると俺は断言してもいい。
「俺への敵意強すぎだろ……陽キャって闘犬とか軍鶏と似てるよな」
「オメーも大概な。それよりウチらも行かねーと遅刻するし、ほら歩け」
強引に話を逸らすようにロリ子は、歩みが止まっていた俺の背中を軽く叩き、急かそうとしてくる。
まぁ、話を逸らすって事は言いたくないのだ。
だとするならば、深入りする必要は無いし、そんな権利なんて俺は持ち合わせちゃいない。
俺の横を歩くロリ子から強い視線を感じるが……こういう時って気付かない振りをしてしまうのは俺が陰キャだから。という理由では無く殆どの人が俺と同じ考えをしていると思いたい。
「ん? そのマフラー……綾香と一緒じゃね?」
「……そうだが、他意は無い」
やはり、お揃いのマフラーというのは失敗だったか? 本当に他意は無いのだが誤解を招く要素として効力は抜群である。
「それならいーんだけど、あんま似合ってねーな」
おい止めろ。ファッションに自信の無い陰キャにそういう事を言っちゃいけないんだぞ! 言った当人は何気ない一言かも知れないが、陰キャはその一言で思い悩んでしまう繊細な生き物なんだ。
しかし俺は言葉のナイフで刺されながらも気にしてないように平然を装いたい。
「ぼ、防寒具だしデザインなんてどうでもいい……機能性を考慮して――」
「めっちゃ気にしてんじゃん、早口だし!」
あーダメだ、殴りたい。
しかし、紳士として俺は大人の対応である我慢を貫く。ロリ子が怖いとか断じてない、そうだ、そのはずだ。
「これが似合ってるって言ってくれた奴が一人いるからな、似合ってなくても構わん」
「……嘘、冗談。悪くないんじゃね? 多分」
よく分かった、コイツ俺の反応を玩具にしてやがる。
それさっきまでの刺々しい雰囲気が消えるなら安い物だけどな、深入りしないとは考えていたが、何かとロリ子には世話になっている事だし念の為、一言だけ助け舟を出しておこう。
「さっきの奴と何かあって困ってるなら相談くらいは受けるぞ、俺に出来る事なんか相談を受け取るだけになるけどな」
「困り事ねぇ……」
含みのある言い方をするロリ子に違和感を覚えるが、これ以上の追及を避けたいのかロリ子は俺から目を逸らし俺の助け舟を蹴り返してくる。
「……コスイベの荷物持ちがウチを裏切った事」
「それはもう諦めろ」
「んだよーオメー! ウチ困ってんだけどーウチといろよー!」
何か一波乱ありそうで無かった俺好みではないイベントを消化しつつも、これから先の事を考えると、希望――そして僅かな不安を残したまま、時は留まる事なく俺を次のイベントへ運ぼうとしていた。
最後まで見ていただきありがとうございました!




