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冬萌の彼の選択

きょの更新です!

 どうやら、黒川と藤木田に昨日の笠木との行動は筒抜けだったらしい。何か疚しい話をしていたわけでもないので、どうと言う事は無いのだが……別の部分に俺は申し立てたい。


「進展と言うより、元に戻ったという意味で捉えてくれ、それよりもだ……」

「ふむ、という事は悪い話ではなくて安心した、それで今日の予定でも立てたのか?」

「い、いや……今回の事に限らず、前から言おうと思ってんだけど、そのだな……」


 布団に包まった黒川は俺の言いたい事を全く察していないのか、首を傾げて布団をもぞもぞと動かしている。その動作が俺の神経を逆なでするのは言うまでもない。


 黒川に悪気はない……それは分かっている。悪気があって首を傾げているのなら、それは悪魔と言っても過言ではない、俺は布団に包まる黒川を文字通りに袋叩きにしていい。

 俺の口からはキャラに合ってなくて言いたくないのだが……。


「俺……誘われてないんだけど」

「誘ってないからな」


 いやいやいや、そうじゃない! 誘ってないのは分かっている、俺は理由を聞きたいのだ。何? 新手のイジメ? 仮にイジメなら陰湿にやるべきである。


 ストレートに悪びれる事もなく、そう言われると言い返せないだろ。


「木立は誘っても基本的に来ない、返信すら稀だ。それもあって今日は家に直接来たわけだ」

「あっうん……」


 俺が黒川にぶつけたい疑問を全て答えてくれたところで、釈然としない……確かに俺は誘われても家から出ないのだが、誘ってほしいのである。


 まぁ、一つの意味じゃなくて色々な意味で俺の家に来た事は分かったが、自分の考えで気になる事が一つ出てきた。


 さっきの俺の言葉は、笠木の本質と少し似てるんじゃないか? 行かないのに誘ってほしいって言うのは、自分の存在を認めて欲しいという事の他ならない。

 必要だって言ってほしい事の裏返しじゃないだろうか?


 そんな俺の考え事も知らずに黒川は、俺が考えている発言ではなく別の発言を取り上げに来ていた。


「しかし、木立は旅行をしたかったとは……、あの木立が旅行というアウトドアな事に興味を示すとは思わなかった」


 何やら今日は黒川に言葉の裏を取られて遊ばれているようにも思える。


 不思議な感覚を抱きながらも、やはり思っている事は、伝えなくてはいけないのだろうと、改めて認識を整えられた事には感謝をしよう。


「行きたい……という程でもないが、自分の知らない場所や知らない物を知るってのは嫌いじゃない、俺が小説や漫画が好きなのもそういった未知への探求心から来るものだと思っている」

「ふっ……俺は未知への探求心よりも恐怖が勝ってしまうからな、こればかりは性格の問題だな」


 確かに黒川は人見知りで、ボーリングの時も未知への恐怖と一人戦っていた。体育祭以降は随分と人見知りをしなくなったと思っていたが……俺や藤木田に合わせて無理をさせていないだろうか?


 そんな俺の考えすぎた脳内を掻き消すように、黒川は続けて言うのだ。


「例外として木立……友人が興味を抱く事に関しては、恐怖よりも上回る感情が芽生えると言っておこう」


 藤木田がクラスの連中に会いに行っているように、黒川もまた自分の過去を払拭するように日々戦っている。そして俺も同様だ。


「旅行、藤木田にも聞いてみるか、答えなんて分かっちゃいるけど……それよりお前は金、大丈夫なのか? そこが一番心配なんだが……」

「問題ない」

「珍しいな黒川が金持ってるの、あるなら問題無いんだけどさ」

「ん? 自慢では無いが、俺は同年代では金を持ってる方に該当するはずだ」


 黒川は俺が何かおかしい事を言ったと言いたげな表情をしていた。難しい……今日の黒川に関しては表情や態度から発言や考えている事が読めない。

 

 もしかしたら俺は藤木田という優秀なサポート兼翻訳がいたからこそ、黒川と意思疎通を出来ていたのかもしれない。


「え? 変な嘘吐くなよ。お前飲み物ですら、俺と藤木田の買ったのを奪おうとしたり奢らせようとするだろ」

「ふっ……それは友人としてのコミュニケーションの範疇だ」


 何を言ってるんだコイツは……?

 いや待て、よくよく考えたらコイツ……宿泊研修前にノートパソコン買ったり、勧めた本を躊躇いも無くレジへ持って行ったり、頻繁にパソコン周辺機器買ったりしてたな。

 何より、クラウドさんに高そうなアクセサリーもプレゼントしてた。


 仮説だが、黒川の中での理想の友人像が奢ってもらったり、一つの物や考えを共有したりするという事なのだろう。これなら納得がいく。


「……黒川」

「どうした?」

「旅行の雑費用は、お前持ちな」

「な、なぜだ!?」

「今までの恩を返してもらおう、俺たちは友人なんだろ?」

「汚いぞ! 木立!」


 もしかしたら黒川は性根が意地汚いだけなのかも知れないが、裏を取られっぱなしのところで一矢報いる事が出来たような気がして、自然と悪い笑みが零れてしまう。


「それよりも冬休み中に旅行するなら、さっさと宿決めて予約するぞ」

「待て! 雑費用という部分の詳細が先だ!」

「いいから、藤木田へ一報入れとけ」

「クッ……! まぁ、木立も色々と悩んでいた、藤木田も慣れない連中との付き合いで疲れている、そして俺もクラウドさんとの付き合いで悩みが無い事もないからな、早めの修学旅行といこうじゃないか」


 アニメのキャラクターみたいに悔しがるなんて始めてみたぞ。

 そして順調そうに見えた黒川にも悩みがあるのか、それは気になるな。


 旅行か……中学時代までは考えられなかった進歩だ。

 自分の価値を早々に見切ってしまった五月からすると、異世界転移でもしたのかってくらいに人生が彩られているのが分かる。


 こんな楽しい未来の話をしているのに、脳裏で消えない笠木の諦めた表情。

 俺と反比例するように世界から色が失われていく笠木がいる。俺と笠木は似ている。

 

 青春ラブコメというファンタジーにありがちな、劇的な出会いなんてしちゃいないが、顔が好みだったからなんて単純な理由じゃない。


 俺が笠木を好きになった理由を、五月の頃の俺に向けて訂正しよう。

 多分……自分を好きになりたかったからだと思う。そして鏡写しのように浮かない表情を浮かべてる自分に手を差し伸べたい、それはきっと笠木の為だけじゃなくて俺のためだ。


 青春ラブコメには程遠い、けど……俺のやりたい事、やらなくちゃいけない事は分かっている。


 次は青春のド真ん中から青春の隅っこの方で泣いている君を救いたい。

最後まで見ていただきありがとうございました!

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