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冬萌における追跡者

きょのこうしんです

 あの日の事はよく覚えていない――。


 主人公が、失意に飲み込まれた翌日にありそうな地の分を思い浮かべる事も無く、俺は鮮明に覚えている。笠木と複数回遭遇した事によって、笠木がコーヒーを噴き出した事、ストーカー呼ばわりされた事、そして笠木がヒーローに憧れていた事も。

 その後に、猛吹雪の中……夕方にラーメンを食べに行った事。


 表面上の言葉だけを考慮するならば、俺の笠木との青春ラブコメは順調だと言える。わりとトラウマレベルで嫌われたりしていたけれども、軌道に乗ったと言ってもいいくらいだ。


 しかし、俺は覚えている――言葉と表情が一致しない笠木の事も全部。


 恐らく、俺と笠木の目標は両立しない。

 笠木がヒーローを目指していたなら、俺のヒロインになる事は不可能であると思う。ヒーローはみんなのモノでないといけないのだから。


 だとしたら喜ばしい事なのに俺は、ベッドの上で出口の無い迷路に迷い込んだように考えに耽っている。


 憎らしいキャッチフレーズが書いてあった雑誌が置いてあるテーブルの上をひたすら眺めていると、雑誌の横に置いてあるスマホが珍しくディスプレイを輝かせてメッセージの受信を通知していた。


「藤木田か黒川かどっちだ?」


 特に報酬も無いクイズを自分に問いかけつつスマホを操作するとメッセージは、やはり黒川からのものであった。

 

『今日、暇か?』


 簡素なメッセージながら性格が表れている。この送信者が藤木田ならば、もう少し友人ぽく言葉を崩したり前置きや絵文字、そしてスタンプで装飾をしてくる。


 黒川のメッセージ内容から推測すると、暇で遊びに行きたいのだろうが、生憎のところ俺は昨日出掛けた事もあり出掛けたくはないのだ。


 出掛ける気力が無いどころか貯蔵している今期のアニメすら手を付けていない。


 どうしても笠木の、あの納得のいかない表情と本心じゃないと思われる言葉が俺の頭でリピートして去ってくれないのだ。

 黒川へ断りの連絡を入れると、数十秒で返信が届く。


『もう玄関前にいる』


 うん、俺の友人はどいつもコイツもネジが外れている。藤木田は俺が寝ている間に家に侵入して俺の母親と食卓を囲んでる事もある。


 黒川はそもそも人の話を聞いていない、いや日本語が通じていないまである。


 スマホをベッドへ放り投げて一階へ降りると、ヒョロ長い人影が玄関先で揺れているのが分かる。

 俺が玄関の鍵を開けると……いつから玄関先で待っていたのか小刻みに上下に震える狂人が立っていた。


「俺は今日、家から出ないと送ったはずだが……」

「あぁ、だから俺が木立の家に来た」


 何? お前はトンチ好きの坊主なの?

 しかも、結構前から外を歩いていたのが分かるくらいに服装が凍ってるからね?


「……それで何の用だ?」

「昨晩からメンテが終わらない、そしてクラウドさんは家族で出掛けている、これでいいか?」

「いや、よくねーよ。質問に答えられていない」

「それよりも寒さが限界だ! 邪魔するぞ」


 俺の返答も虚しく黒川は靴を脱ぎ散らかし階段を昇っていく。

 何? 俺の家ってフリースポットだったの?


 そんな俺の心の声は届くはずも無く、諦めて俺も階段を昇り部屋まで戻ると黒川は俺の布団に潜り込み暖を取っていた。


「おい、お前ビチャビチャだったろ!」

「夜までに乾く」


 ダメだ……言葉が通じない。ストッパー役である藤木田がいないせいなのか、黒川はまるで自室のように好き放題にしていた。


「藤木田はどうした?」


 黒川は少しだけ寒さが軽減されたのか潜り込んでいた布団から顔を出すが、無駄にカッコイイのが腹立つんだよな……。


「藤木田はクラスの奴らと用事があると言っていた」

「マジか……黒川と二人とか地獄じゃねーか」

「ふむ……木立と二人になる事は珍しい」


 確かに、黒川と藤木田が二人で遊ぶ事は多いらしいが黒川と二人は滅多にないな。それにしても藤木田が休日にクラスの連中とか……。


 あの頃と比べるとやはり変化はしている。それが嬉しいと思う中で、少しだけ寂しさを感じるのは俺だけなのだろうか?


「そうだな、こんな朝っぱらから俺の家に来た理由は?」

「特筆すべき理由は無いが……昨日の事があるから話を聞きに来たと言っておこう」


 昨日の事……? また俺を抜かして藤木田と何か予定でも立てたのだろうか? そろそろ俺もそういった会話に誘ってくれてもよくない?

 いや、まぁ……誘われても乗らないけど。


 しかしだ、クラスでのクリスマスイベントや田中とのクリスマスの予定が埋まってるし、俺達三人で何かをする予定を組み込む隙間は無いと思うのだが……。

 

 待てよ。


 ギャルゲやラノベだと冬休みのスキー旅行イベントが挟まる時期だな、今年は無理でも一月ならば行けるな。


 別に俺は陽キャではないのだが……友人同士の旅行とかに憧れが無いわけではない。正直なところで誘われたら乗ってもいい、うん。

 社畜の父親から追加ボーナスでも強請るか。


「俺としては興味は薄い……だが、旅行は見識を広げるには経験していてもデメリットは無い、そう思う。だから同行という形で参加してもいいぞ」

「旅行……? 何の話をしてる、昨日の木立の話を聞きに来た」

「え?」

「昨日、藤木田と遊んでいた時に、笠木と休日を過ごしている木立を偶然にも発見してな、何か進展があったのでは? とな」

最後までみていただきありがとうございました!

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